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王女フランチェスカ

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 第一王女フランチェスカは王国の至宝と謳われるほど美しい姫である。

 月光を溶かしたような銀糸の髪、長い睫毛に縁どられた緑柱石の瞳、瑞々しい桃色の唇。
 妖精と見紛うほど可憐な容姿は男女問わず虜にする。

 将来は臣籍降下し、女公爵となり王太子である兄を支える役割を担う。

 容姿・身分と非の打ち所がない彼女の夫として選ばれたのは、ヨーク公爵家の次男セレスタン。
 彼もまた優れた容姿の持ち主であり、二人並ぶと絵になると言われていた。

 まさに、お似合いの二人。というのが世間の評価だ。
 実際はお似合いどころか、この上なく険悪な仲なのだが。

 至高の美女を手に入れたと、国中の男から羨望の眼差しを向けられているセレスタン。

 だが、至高の美女フランチェスカの婿の座というものは、彼にとって望むものではなかったようだ。
 そう思わせるほど、彼のフランチェスカに対する態度は酷いものだった。

 初顔合わせでは彼の親が同席していた為かごく普通の対応をしていた。
 だが二回目からは彼一人だったので、ぶっきらぼうな態度を隠しもしなかったのだ。

 明らかに嫌われている。
 フランチェスカは彼の態度からそれを察したが、その理由までは分からなかった。
 かといって彼に直接「わたくしのこと嫌いですよね?」なんて聞くことも出来ず、悶々と過ごしていた。

 そうして過ごしているうちに、偶然、彼と侍女のアンヌマリーが逢引しているところを見てしまい、その瞬間に頭の中にある記憶が蘇ったのだ。

 
(あ……これ、で読んだ恋愛小説の世界だわ!)


 タイトルは忘れたが、この世界は前世で読んだ小説の世界観にそっくりだった。
 主人公はアンヌマリーで、相手役がセレスタン。
 そしてフランチェスカは二人の恋の当て馬になり踏み台になる、可哀想な王女様だ。

 なんでこんな細かく覚えているのかというと、その小説は主役の二人が最悪だと叩かれるような実にモヤモヤする内容だったから。読後の嫌な気持ちは今でも覚えているほどだ。

 その内容はというと、なんやかんやで愛し合ったアンヌマリーとセレスタン(ただしこの時点で彼はフランチェスカと婚約済)は、結婚後も関係を続け(フランチェスカが当主を務める公爵家で)、本妻が産んだ子と愛人が産んだ子をすり替える(本妻の子はどこぞの孤児院に捨てられる)。最悪の一言に尽きるものだった。

 いや、フランチェスカがお前等に何をした?

 小説を読んだ後、まず浮かんだ感想がそれだ。
 せめてフランチェスカが悪逆非道の限りを尽くした悪女だとか、そういう設定でも持ってきてくれないと割に合わない。だがどこにもフランチェスカが何かしらかの悪行に手を染めた描写は一切なかった。

 最後にフランチェスカがセレスタン達に”ざまぁ”するようなどんでん返しがないかなーと期待したが、残念なことにそういう描写は全くなかった。フランチェスカが可哀想すぎる。


 どうして何の罪もないフランチェスカがそんな非道な目にあわなくてはならないのかサッパリ分からない。

 分からないが、このまま大人しくしていれば確実にそんな未来が待っているということだ。
 夫と浮気相手の子を育て、本当の我が子はどこかの孤児院に捨てられるという最悪の未来が。

 記憶が戻る前のフランチェスカなら、ただ座して嘆いて静かに破滅の時を待つだけだったろう。
 だが最悪の未来を知った今の私は違う。あんな最低な奴等を叩き潰すことなどわけもないのだから。

(さて、まずは片方から潰して行きましょうか)

 奴らに破滅を贈るべく、早速行動に移すことにした。

 思い上がった愚か者共をゆっくりと潰してやろう。
 彼等の絶望した顔を見るのが、実に楽しみだ。

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