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国王からのお誘い
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数日続いた聞き取り調査もやっと終わりを迎え、ベロニカは久方ぶりに部屋の外へと出た。
「太陽が眩しいわね……」
聞き取り調査中はなるべく部屋の外に出ないでほしいと言われ、ベロニカは律儀にその期間は一歩も出なかったのだ。おかげで降り注ぐ陽光が眩しくて仕方ない。
王宮の回廊や庭園は自由に散歩してくれて構わないと許可を得たので、ベロニカは侍女を数人連れてそちらに足を進めた。
「綺麗ね……」
流石は王宮の庭園、見事なまでの美しさ。
季節の花に加え、品種改良されてここでしかお目にかかれない花までもあり、まさに百花繚乱だ。
(こんな綺麗な場所を、あの人と歩けたらいいのに……)
日常の様々な部分でベロニカは初恋の君を思い出していた。
綺麗に終わるはずだった初恋は、ちっとも綺麗に終わってくれない。
こうしている今だって、会いたくて触れたくてたまらない。
思わずため息をつきそうになるのをこらえ、ふと回廊の方に顔を向けるとそこには思いもよらない人物がいた。
「え? 侯爵閣下……?」
会いたくてたまらなかった人がこちらに向かって歩いてくるのが目に映る。
呆気に取られているベロニカの眼前にまで侯爵が近づいてきたと思ったら、すぐにその顔が視界から消えた。
「え!? ちょっと、お止めください閣下……!!」
「すまなかったベロニカ嬢! またうちの愚息が君に多大な迷惑を……!」
なんと侯爵はベロニカに向かって深々と頭を下げたのだ。
侯爵が伯爵令嬢に、しかも王宮で。周囲の好奇な視線が一気に二人へと注がれる。
「閣下! ここでそのようなことをされては困ります! ほら、皆こちらを見ておりますし……」
恋焦がれる人に会えたことは喜ばしいが、ここでそんな目立つ行動をとられるのは困る。
「しかし……もう何度も何度も君には迷惑をかけっぱなしで……」
「いえまあ、それはそうですけれども……。とにかく今は頭を上げてくださいませ!」
申し訳なさそうに頭を上げた侯爵に、ベロニカは『仕方のない人』と言わんばかりの屈託ない笑みを見せる。
侯爵もそんな愛らしい笑みを見せる少女に見惚れ、二人はしばし見つめ合った。
(……やっぱり、この人のことが好き……)
終わるどころかますます燃え上がるこの恋心をどうしたらいいだろう。
会話もなく見つめ合う二人。
ただ周囲だけがどうしたのかとざわつき始めた、その時だった。
「侯爵よ、こんな場所にレディを立ち止まらせるものではないぞ」
涼やかで威厳のある声が聞こえ、そちらを振り向くと同時に二人共慌てて頭を垂れる。
「国王陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
ここは国王の住まう王宮だ。国王がいることは当然なのだが、まさかこちらに声をかけられると思っていなかった。ベロニカは内心驚きながらも表には出さず、完璧な淑女の礼をとる。
「うむ、余はこれからヴィクトリア嬢に用があるのでな。侯爵は疾く帰るがよい」
「お言葉ですが陛下、私はまだ彼女に謝罪しきれておりません。愚息がこれほどの迷惑をかけたというのに何の詫びもしないなど、私の気が済みません」
「それは後日改めてするがよい。このような場所で話をされても迷惑なだけだ。ほら、とっと帰れ」
国王にすげなくあしらわれた侯爵は、渋々ながらもその場を去った。
去り際に「また後日、改めて詫びをする」とベロニカに囁いて。
「うむ。それでは改めてヴィクトリア嬢、長きに渡る協力ご苦労だった。この後しばし時間を貰いたいが、構わぬかな?」
国王からそう尋ねられるが、実質これは命令のようなものだ。
主君からそう聞かれて「駄目です」なんて言う臣下なぞいない。
ベロニカだって明るい声で「勿論にございます」と答えるのが精一杯だ。
(国王陛下が私に何の用なのかしら……?)
国の最高指導者からのお誘いは、ベロニカの心をひどく緊張させた。
「太陽が眩しいわね……」
聞き取り調査中はなるべく部屋の外に出ないでほしいと言われ、ベロニカは律儀にその期間は一歩も出なかったのだ。おかげで降り注ぐ陽光が眩しくて仕方ない。
王宮の回廊や庭園は自由に散歩してくれて構わないと許可を得たので、ベロニカは侍女を数人連れてそちらに足を進めた。
「綺麗ね……」
流石は王宮の庭園、見事なまでの美しさ。
季節の花に加え、品種改良されてここでしかお目にかかれない花までもあり、まさに百花繚乱だ。
(こんな綺麗な場所を、あの人と歩けたらいいのに……)
日常の様々な部分でベロニカは初恋の君を思い出していた。
綺麗に終わるはずだった初恋は、ちっとも綺麗に終わってくれない。
こうしている今だって、会いたくて触れたくてたまらない。
思わずため息をつきそうになるのをこらえ、ふと回廊の方に顔を向けるとそこには思いもよらない人物がいた。
「え? 侯爵閣下……?」
会いたくてたまらなかった人がこちらに向かって歩いてくるのが目に映る。
呆気に取られているベロニカの眼前にまで侯爵が近づいてきたと思ったら、すぐにその顔が視界から消えた。
「え!? ちょっと、お止めください閣下……!!」
「すまなかったベロニカ嬢! またうちの愚息が君に多大な迷惑を……!」
なんと侯爵はベロニカに向かって深々と頭を下げたのだ。
侯爵が伯爵令嬢に、しかも王宮で。周囲の好奇な視線が一気に二人へと注がれる。
「閣下! ここでそのようなことをされては困ります! ほら、皆こちらを見ておりますし……」
恋焦がれる人に会えたことは喜ばしいが、ここでそんな目立つ行動をとられるのは困る。
「しかし……もう何度も何度も君には迷惑をかけっぱなしで……」
「いえまあ、それはそうですけれども……。とにかく今は頭を上げてくださいませ!」
申し訳なさそうに頭を上げた侯爵に、ベロニカは『仕方のない人』と言わんばかりの屈託ない笑みを見せる。
侯爵もそんな愛らしい笑みを見せる少女に見惚れ、二人はしばし見つめ合った。
(……やっぱり、この人のことが好き……)
終わるどころかますます燃え上がるこの恋心をどうしたらいいだろう。
会話もなく見つめ合う二人。
ただ周囲だけがどうしたのかとざわつき始めた、その時だった。
「侯爵よ、こんな場所にレディを立ち止まらせるものではないぞ」
涼やかで威厳のある声が聞こえ、そちらを振り向くと同時に二人共慌てて頭を垂れる。
「国王陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
ここは国王の住まう王宮だ。国王がいることは当然なのだが、まさかこちらに声をかけられると思っていなかった。ベロニカは内心驚きながらも表には出さず、完璧な淑女の礼をとる。
「うむ、余はこれからヴィクトリア嬢に用があるのでな。侯爵は疾く帰るがよい」
「お言葉ですが陛下、私はまだ彼女に謝罪しきれておりません。愚息がこれほどの迷惑をかけたというのに何の詫びもしないなど、私の気が済みません」
「それは後日改めてするがよい。このような場所で話をされても迷惑なだけだ。ほら、とっと帰れ」
国王にすげなくあしらわれた侯爵は、渋々ながらもその場を去った。
去り際に「また後日、改めて詫びをする」とベロニカに囁いて。
「うむ。それでは改めてヴィクトリア嬢、長きに渡る協力ご苦労だった。この後しばし時間を貰いたいが、構わぬかな?」
国王からそう尋ねられるが、実質これは命令のようなものだ。
主君からそう聞かれて「駄目です」なんて言う臣下なぞいない。
ベロニカだって明るい声で「勿論にございます」と答えるのが精一杯だ。
(国王陛下が私に何の用なのかしら……?)
国の最高指導者からのお誘いは、ベロニカの心をひどく緊張させた。
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