理不尽には理不尽でお返しいたします

わらびもち

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事件の幕引き

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「貴方の処遇が決定したので伝えに来ました」

「ふん、やっとか。ようやくこの薄汚い場所から出られると思うと清々する」

 バーティ侯爵を取り調べた若い女性取調官は彼の処遇を伝える為再び牢へと訪れた。相変わらずの偉そうな態度にうんざりするが、それもだと気を取り直す。

「結論から言うと、この件の全責任をとってもらうことに決まりました。これは国王陛下が直々に下された判断ですので覆ることは有りませんので、ご承知おきを」

「は…………? はあああ!? 何だそれは! どうして無実の僕が全責任を負わなくてはならない!?」

「そんなの当たり前でしょう? 貴方はあの領地に責任者なんですよ? 責任者という意味分かります? 何か起きた時に責任を負う者のことをいうのですよ」

「そんなこと知るか! 僕の知らない間に起きたことなんだ! 僕には何の関係もない!」

「関係大有りです。あのですね、貴方は領主という立場にいながらどうして責任を負わなくてよいと思うのですか? そんなことは貴方の中だけの話です。世間では通用しませんよ」

「うるさい! 綺麗ごとを言うな! どうして何も悪事を犯していない僕が責任をとらなくてはならない!? おかしいだろう、そんなの!」

「綺麗ごと、というか常識を申し上げているだけなんですけどね……。それに悪い事は十分していますよ? 領主でありながら領地を長年において放棄した。これは立派な業務違反です。領主は国王陛下に領地の管理を任されている立場にあります。にもかかわらずそれを放棄したとなると国王陛下の命令に背いたも同然。立派な国家反逆罪ですよ」

「こ、国家反逆罪……? 嘘だ……僕は陛下の命令に背いていない! だから取るに足らない下位貴族の令嬢との婚約だって受け入れた!」

「? ……ああ、フロンティア子爵令嬢との婚約の話ですか。今はそれは関係ありません。話を逸らさないでください。それで、話を戻しますが貴方は領地を放棄しただけでなく、成り代わった領民が栽培していた禁止植物を販売して得た税で暮らしていました。客観的に見ると貴方がそれを指示していたと言っても過言はないですよ?」

「そんなの知らない! 領民がどうやって税を納めていたなんて知るわけがないだろう!?」

「だから、それは知っていなくては駄目なのですよ。それにこの国では本来領地で栽培された物を売る仕事は領主の役目ですよ? そこから税を抜いた金額を領民に還元する方法がこの国での一般的なやり方です。貴方はそれすらしていなかったではありませんか? 平民は細かい計算が出来ないからこういう方法をとっているというのに、それすらも放棄して情けない……。まあ、領民が何処にそれを売りつけていたかは不明ですけども」

「だって、それは……僕の仕事じゃないと……」

「いえ、貴方の仕事です。仮に当主が病等でそれを行うことが困難になった場合に限り妻が代行しますが、基本的には当主の仕事です」

「妻が……? でも、妻代わりのジェシカは平民だからそういう難しいものは出来ないし……」

「それはそうでしょうよ。だからきちんと教育を受けた貴族令嬢を当主の座を継ぐ前から娶る必要があるのです。これは貴族の常識ですよ? それを無視して平民の愛人を囲い続けてきたからこうなっているのです」

 長年に渡り自分にとって楽な方向に身を任せてきた結果がこれだ。
 責任ある立場でありながら責任を放棄した代償を支払う時が訪れた。ただそれだけのことだと取調官は何の温度も無い眼差しを侯爵へと向けた。

「そんな……あんまりだ! 僕はただ自分に正直に生きただけなのに……」

「正直に生きた結果がこれなのでしょう。諦めて反省した方がいいですよ」

 反省したところで罰は軽くなりませんけどね、と心の中で呟く。
 もうそういう次元の話ではない。責任をとる以外に彼に残された道はないというのに、未だにそれを理解出来ないでいた。

「陛下に会わせてくれ! 説明をすればきっと分かってくださるはずだ! 僕に罪はないということを……!」

「いや、話聞いていました? 貴方は無実ではありませんよ。知らなかった、知ろうとしなかったことが貴方の罪です。その怠惰で無責任なところが罪なのだとまだ分かりませんか?」

「だってあんまりじゃないか! 何の弁明もせずこんな……」

「何もしてこなかったくせに弁明だけはしようとしますか……笑えますね」

 やるべきことをやらず、守るべき領民を放置し、好き勝手に遊び暮らしていたくせに今更何を言うかと取調官は鼻で笑った。

「最期だからお聞きしますけど、当主としての責任から目を背け続けた代償をどこかで支払うとは思っていなかったのですか?」

「…………だって、何年間も誰にも何も言われなかったのだぞ? 許されたのだと思うだろう……」

 侯爵の両親は既に他界し、古くからいる使用人も彼を見限って辞職した。
 結果、彼に苦言を呈す人間は誰もいなくなった。それで何を勘違いしたのか、彼は自分が好き勝手しても許される人間だと本気で思い込んだ。富も身分も好きな女も手に入れて有頂天になっていた。

「何故だ……何故こんなことに! ジェシカのせいか? それともフロンティア子爵令嬢が邸に来たからか?」

「この期に及んで他人のせいにしますか。他責志向が過ぎますね。誰のせいでもなくご自分のせいでしょうよ。まあ、は責任感のある人になれるといいですね」

 来世、という言葉に反応した侯爵は反射的に顔をあげて取調官に縋るような目を向けた。しかしそれで同情心を誘えるわけもなく、逆に嘲笑される始末。それでもめげることなく侯爵は目の前の自分よりも年若い女性に縋りついた。

「な、なあ……ここから出られたら君を侯爵夫人にしてやってもいいんだぞ? だから頼む、どうにかして陛下に口添えを……」

「気持ちの悪い事を言わないでください。あんな前代未聞の犯罪が起きた場所になんて誰が嫁ぎたいと思うものですか。それに私程度が陛下に直訴なぞ出来るわけがないでしょう?」

 往生際が悪い、と取調官はため息をついた。

「そんな……嫌だ! こんなのあんまりだろう!? 僕が何をしたっていうんだ?」
「何って、貴族としての責務を放棄していたでしょう? そんなことをしていれば人生を放棄することになると何故分からないのです? 逆にそんな状態で何年も現状を維持出来ていた事の方が奇跡に近いですよ」

 侯爵の泣き言に取調官は何度も反論するが、同じようなことしか繰り返さないので早々に面談を切り上げた。

「待ってくれ……お願いだ! 僕は、僕はどうしたら……」

「どうしようもありませんよ。時間はまだあるので、自分の行いについて懺悔でもしていたらいかがですか?」

 それを最後に取調官はさっさと牢を後にした。
 残された侯爵は茫然自失となった後机に顔を伏せてすすり泣いた。

 一人になった牢の中で彼は己の行いについて悔やみ始めた。
 あの時ジェシカと会わなければ、周囲の忠告を聞いて貴族令嬢を娶っておけば、こんなことにはならなかったのに……と変えられない過去を嘆く。

 貴族らしい潔さなど皆無の侯爵は毒杯を差し出したとしても間違いなく抵抗するだろうと判断され、提供する食事に毒を混入するというやり方でひっそりと刑を執行された。こうしてバーティ侯爵領で起きた事件は公にされることなく強引に幕を閉じたのであった。
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