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人を惹きつける者達
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よくもこんな回りくどい真似を…………!
何も正攻法でくればよいものを、こんな回りくどい方法で詰めるとは性格が悪い。
おまけにこの皇子はやけに人を惹きつけるような話し方をする。
そのせいで不覚にも警戒心が薄れてしまい、流されるまま答えてしまった。受け答えに十分気を付けるべき立場であることも忘れて……。
(この感じは前にもどこかで……そうだ、あのやたら度胸があって、思わずこちらが聞き入ってしまうような話し方をしていたあの娘……。フロンティア子爵の娘と同じ……)
この、やたらと人を魅了する話し方はあの娘によく似ている。
おまけにこの皇子もあの娘も妙にひとを惹きつける雰囲気をしていた。
見目が美しいのは勿論のこと、人一倍落ち着いている姿がそう思わせるのか。豪快で迫力のあるシーグラス翁とはまた違った魅力のようなものがある。
ああ、あの娘に関わるのではなかった…………。
アリッサが全ての元凶というわけでもないのに、何故か国王の頭には自然とそんな思いが浮かんだ。
私欲を満たそうとして身分の低い令嬢を生贄にしようとしたことへの罪悪感はない。あるのは、生贄として選んだのがあの娘でなければ……という身勝手で他責志向な思いだけ。
上位の者の欲を満たすために選んだ下位の者は自分達より遥かに高貴な血筋の持ち主だった。本人もその血筋に相応しく泰然としており、対面した時に只者ではないと気づくべきだった。
なんかやたらと迫力のある令嬢だったな……と呑気に構えていた自分が情けない。
「おや、国王陛下、如何なさいましたか?」
華やかな笑みを浮かべる皇子だが、国王の目にはそれがひどくどす黒いものに見えた。全部分かっているからこんな余裕の表情を浮かべていられるのだと。
「…………貴殿らは、余に何を望む」
彼等の目的を分かったうえで国王はそう告げた。
分かっている。あんな馬鹿げた王命を撤回しろと言いたいのは分かっている。
だが、王命の撤回は退位を意味する。そしてそれだけではない。よりにもよって皇家の血筋の令嬢に理不尽な命令を下した。これはもう国家間の問題と言っていい。謝罪と退位だけではすまない。
償いが必要だ。いや、この場合は賠償になるか……。
「随分な物言いではございませんか。陛下は儂の可愛い孫に何をなさったか自覚がないようだ……」
それまで黙っていたシーグラス翁の低く威圧的な声音にその場の空気が冷えた。
国王は改めてこの覇王然とした老貴族を怒らせたことに気づき、威厳など何処かに行ってしまったかのように身を縮こまらせた。
「お、お言葉だがっ! 子爵令嬢が侯爵夫人になるというのはそう悪くない申し出で……」
そこで自分の非を認めて謝罪すればよかったのだが、自尊心の強い国王は咄嗟にそれが出来なかった。彼の発言を「悪手だ」と言いたげに眉をひそめる皇子と執事服を身に纏った青年。案の定シーグラス翁の表情は更に険しいものとなり、場の空気もさらに下がった。
「いくら侯爵夫人の地位が手に入ると言っても、罪を犯している家になど嫁がせるわけがないだろう? それではまるで結婚自体が罰のようなものではないか」
「え? 罪を犯している? ……バーティ侯爵が、ですか?」
罪、といきなり言われて国王は唖然とした。
バーティ侯爵といえば平民の愛人に傾倒して仕事もろくにしない駄目な男だとは聞いたが、それ自体は罪に問うものではない。いったい“罪”とは何のことを言っているのだろうか……。
「なんだ、知らんのですか? あの家は領地で違法薬物を栽培していますよ」
「は……? 違法薬物!?」
とんでもない発言に国王は驚きを隠せなかった。
何も正攻法でくればよいものを、こんな回りくどい方法で詰めるとは性格が悪い。
おまけにこの皇子はやけに人を惹きつけるような話し方をする。
そのせいで不覚にも警戒心が薄れてしまい、流されるまま答えてしまった。受け答えに十分気を付けるべき立場であることも忘れて……。
(この感じは前にもどこかで……そうだ、あのやたら度胸があって、思わずこちらが聞き入ってしまうような話し方をしていたあの娘……。フロンティア子爵の娘と同じ……)
この、やたらと人を魅了する話し方はあの娘によく似ている。
おまけにこの皇子もあの娘も妙にひとを惹きつける雰囲気をしていた。
見目が美しいのは勿論のこと、人一倍落ち着いている姿がそう思わせるのか。豪快で迫力のあるシーグラス翁とはまた違った魅力のようなものがある。
ああ、あの娘に関わるのではなかった…………。
アリッサが全ての元凶というわけでもないのに、何故か国王の頭には自然とそんな思いが浮かんだ。
私欲を満たそうとして身分の低い令嬢を生贄にしようとしたことへの罪悪感はない。あるのは、生贄として選んだのがあの娘でなければ……という身勝手で他責志向な思いだけ。
上位の者の欲を満たすために選んだ下位の者は自分達より遥かに高貴な血筋の持ち主だった。本人もその血筋に相応しく泰然としており、対面した時に只者ではないと気づくべきだった。
なんかやたらと迫力のある令嬢だったな……と呑気に構えていた自分が情けない。
「おや、国王陛下、如何なさいましたか?」
華やかな笑みを浮かべる皇子だが、国王の目にはそれがひどくどす黒いものに見えた。全部分かっているからこんな余裕の表情を浮かべていられるのだと。
「…………貴殿らは、余に何を望む」
彼等の目的を分かったうえで国王はそう告げた。
分かっている。あんな馬鹿げた王命を撤回しろと言いたいのは分かっている。
だが、王命の撤回は退位を意味する。そしてそれだけではない。よりにもよって皇家の血筋の令嬢に理不尽な命令を下した。これはもう国家間の問題と言っていい。謝罪と退位だけではすまない。
償いが必要だ。いや、この場合は賠償になるか……。
「随分な物言いではございませんか。陛下は儂の可愛い孫に何をなさったか自覚がないようだ……」
それまで黙っていたシーグラス翁の低く威圧的な声音にその場の空気が冷えた。
国王は改めてこの覇王然とした老貴族を怒らせたことに気づき、威厳など何処かに行ってしまったかのように身を縮こまらせた。
「お、お言葉だがっ! 子爵令嬢が侯爵夫人になるというのはそう悪くない申し出で……」
そこで自分の非を認めて謝罪すればよかったのだが、自尊心の強い国王は咄嗟にそれが出来なかった。彼の発言を「悪手だ」と言いたげに眉をひそめる皇子と執事服を身に纏った青年。案の定シーグラス翁の表情は更に険しいものとなり、場の空気もさらに下がった。
「いくら侯爵夫人の地位が手に入ると言っても、罪を犯している家になど嫁がせるわけがないだろう? それではまるで結婚自体が罰のようなものではないか」
「え? 罪を犯している? ……バーティ侯爵が、ですか?」
罪、といきなり言われて国王は唖然とした。
バーティ侯爵といえば平民の愛人に傾倒して仕事もろくにしない駄目な男だとは聞いたが、それ自体は罪に問うものではない。いったい“罪”とは何のことを言っているのだろうか……。
「なんだ、知らんのですか? あの家は領地で違法薬物を栽培していますよ」
「は……? 違法薬物!?」
とんでもない発言に国王は驚きを隠せなかった。
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