真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち

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後継者から外されるだって!?(元夫視点)

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 リリアーヌを迎える前に私は国王陛下に直接会いにいった。
 
 本来であれば当主でもない者が会うことは不可能なのだが、リリアーヌの件だと言ったらすんなり了承してくれた。
 きっと陛下も今度こそは私と彼女を添い遂げさせようと考えてくれたのだろう。
 陛下も人の親だ。子の幸せを願うのは当然だものな。

 この私の予想は当たっており、陛下と謁見した際にリリアーヌとの結婚を申し出たらすんなり許しを貰えた。
 しかも『アルシア公爵は反対するだろうから余の名で婚姻の許可を出そう』と陛下の玉璽付きで婚姻許可証を出してくれた。

 やった! これで父上が反対しても押し通せる!

 いかに父上といえども国王陛下の命令を無視できるわけがないものな!

 ああ、やはり真実の愛は認められるべきものなのだ!

 陛下の許可も貰ったので改めて帰国したリリアーヌに会いに行こう。
 ああ、私の真実の愛……どれだけ君に会いたかったことか……!

 あの頃と変わらない愛らしい笑顔で私との再会を喜ぶ君が愛しくてたまらない。
 陛下に結婚の了承を得たことを話すと「やっと貴方の妻になれるのね」と涙を流して喜んでくれた。
 想いが溢れて止まらず、その日私達は契りを交わした。



「カミーユ! 貴様……儂の留守中によくもやってくれたな!!」

 帰国した父上は私と会うなり激怒した。
 父上がいない間にビアンカと離婚し、リリアーヌとの再婚を決めたのだからそれも無理はないか。

「父上、貴方の許可なく離婚したことは申し訳なく思います。ですがそれも真実の愛のため、致し方ないことで……」

「何が真実の愛だくだらん! 宝を捨てて塵を得るなどお前はとんだ愚か者だ!」

 塵だと!? それはリリアーヌのことか? いくら何でも言い過ぎだ!!

「王女に対して不敬ですよ父上! いくら貴方でも私の最愛を侮辱するのは許しません!!」

「五月蠅い! お前は王女が何をして戻されたか分かっているのか!? 隣国王家の世継ぎを始末しようとした殺人犯をアルシア家に迎えるなど正気の沙汰ではないぞ!!」

「は? 殺人……?」

「知らぬのか? リリアーヌ王女は隣国で王の子を身籠った側妃を毒殺しようとしたんだ。幸い未遂に終わったが、世継ぎとなるやもしれぬ子を殺しかけた罪は重い。本来ならば極刑になるところだが、他国の王女を始末すれば戦争に発展する可能性がある。なので、我が国と戦争になることを望まない隣国が穏便に『離縁』だけで済ましてくれたんだぞ。……まさかお前は王女が帰国した理由を知らんのか!?」

 リリアーヌが隣国の側妃を毒殺しようとした?
 あの清廉な彼女が……? なんでそんなことを……。

「……はあ、知らぬようだから教えてやる。リリアーヌ王女は隣国王との子を孕めなかった。それで世継ぎのため娶った側妃があっさり妊娠したものだから、王女としては面白くない。側妃に対してありとあらゆる嫌がらせを行い、ついには自分の宮に招いて茶に毒を盛った。だが常日頃から警戒していた側妃はこっそり茶器を自分と王女の物を交換し、事なきを得たようだ」

「そ、それはつまり……リリアーヌは自分が盛った毒を自分で飲んだということですか? でも、ならなぜ彼女は無事なのですか……?」

「それは王女が解毒薬を所持していたからだ。毒薬を扱う時には必ず解毒薬も所持するものだからな。毒を飲んだと気づいた王女が慌てて解毒薬を口にしたことで事が発覚したのだ。……愚かなことをしたものよ」

 リリアーヌがそんな恐ろしいことをするだなんて……。
 私が知る、心優しくか弱いあの頃の彼女はもういないのか……?

「言っておくが儂は毒殺自体を非難しているわけじゃない。が杜撰で愚かだと言っているんだ。この意味が分かるか?」

 やり方……? 父上は何を言っているんだ?
 毒殺に方法なんて関係ないじゃないか?

「……これが分からぬからお前は駄目なんだ。よいか、王族に嫁いだ王女の義務は『世継ぎの王子』を産むことだ。それが我が国との同盟を強化することに繋がり、国益となる。だが子が産めるか産めないかは天の采配によるものだ。子が産めない場合はどうしようもない」

 それは……確かにそうだな。子が産めない女性だっているし、それは本人が好きでそうなったわけじゃない。
 
 だが、それが今回の事件と何の関係があるんだ?

「本人が子を成せないなら他の女が産ませた子を。今回の事件とて、王女は側妃ごと毒殺するのではなく、子を産んだ後の側妃だけ秘密裡に始末してしまえばよかったんだ。そうすれば子は正妃である王女の養子となるからな。養子といえどもさえいれば妃の地位は安定する。それが男児であればなおさらな。だが、それをしなかったばかりか、感情に任せて妊娠中の側妃を殺そうとしたから隣国に愛想をつかされたんだろうよ。頭が悪く使えない女だとな」

「そんな悪女のような真似をリリアーヌができるわけないじゃないですか! 彼女はか弱い普通の女なんだ!!」

「王家に産まれた女が普通で許されるか! 如何に己の利となるか、国益となるかを考えて実行できるのが『王族』だ! 愛や感情に流される者が国母になれるものか! だから陛下も愛想をつかして王女をお前に押し付けたんだ! 厄介払いとしてな!」

「それは違います父上! 陛下はリリアーヌに今度こそ幸せになってほしいと……」

「はっ! そんな甘い言葉に騙されるなぞ滑稽だな! 本当は王宮に置いておいても扱いに困るからだろうよ? 隣国王家から『使えない』と返品された王女を欲しがる家もない、かといって王宮に蟄居させるのは金がかかる、修道院も『犯罪者は無理』と受け入れを拒否したと聞く。……そうなるとお前に押し付けるしかあるまい?」

「そんな……それは余りにもひねくれた考えでは……」

「ならのもとに嫁ぐことが王女の幸せになるというのか? 儂はそうは思わないがな」

「……は? 後継者から外す?」

 父上は何を言っているんだ?
 どうして私を後継者から外すことになる?

「……はあ、何でこんな簡単なことも分からないんだ? 子が産めない王女を妻にすれば跡継ぎは望めない、そうだろう? 儂が跡継ぎを作らない者に次期当主の座を渡すと思うか? となればお前を後継者から外すのは当然じゃないか」

「あっ…………」

 そうだった……それはビアンカにも言われたことだった。
 貴族夫人の一番の義務は跡継ぎを産むことだと。それが出来ない場合は離婚事由にもなると……。
 なら、子が産めないリリアーヌを妻にした私は跡継ぎを作らないと宣言しているようなものだ……。

「ですが……子ならば親戚から養子をとればいいのでは……」

「……お前、ビアンカと何が原因で離婚したか忘れたのか? 子が産めないから離婚した、と儂は聞いたが? 親戚から養子をとるというのなら、なぜビアンカとの間でそうしなかったのかと世間は騒ぐに決まっているだろう?」

 あ……そうだ! ビアンカとは『子が望めない』ことを理由に別れたんだった……。

「ち、父上……ビアンカとは、その……」

「閨を共にしていないのだろう? とっくに知っとるわそんなこと! こんなことになるのなら、ビアンカはまだ若いから子作りも焦る必要はないと楽観視するのではなかったわ! お前のような盆暗には勿体ないほど出来た嫁だったというのに……」

「あ……では、ビアンカとやり直します! ビアンカを正妻として迎えれば問題ないです!」

 リリアーヌには申し訳ないが第二夫人となってもらおう。
 私の子を産み、公爵夫人となるのは父上お気に入りのビアンカしかいないのだから仕方ない。

「そんな恥知らずな真似ができるか!! お前が勝手に離婚するから、帰国して早々に儂は伯爵家に直々に頭を下げて詫びてきたのだぞ!? 結婚の時も下げ、離婚で下げ、もうお前のために下げる頭は儂にはない! 儂の跡は弟の孫に継がせる。弟の息子にはお前と違ってもう10になる男児がいるからな。そちらに教育を施したほうが早い」

「そんな!? お考え直しください! 父上……父上―――!!」

 私の制止を振り切り父上は部屋から出ていってしまった。

 私が父上唯一の子なのに……跡を継げないなんておかしいじゃないか!
 あのときビアンカと離婚しなければこんなことにはならなかったのに!!

 ビアンカとまたやり直せば……。父上はビアンカを気に入っていたのだから、彼女を妻に迎えれば私を跡継ぎに戻してくれるはずだ!

 恥知らずだろうが気にしていられない! すぐにビアンカを迎えに行こう!

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