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わらびもち

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元王太子の後悔①

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 父上にビクトリアとの婚姻を願って数日、何故か臣籍降下されることが決まった。

「は……? 私が伯爵? 王太子の私がどうして……」

「だからお前は廃嫡だと言ったろう!? せめて伯爵位を授けてやるのだからありがたいと思え。 安心しろ、ちゃんとビクトリアとの婚姻は済ませてあるから領地の発展に尽くすがよい」

「そんなっ……話が違います父上! 父上は私の望みを叶えてくれると仰ったじゃありませんか!? なのにどうして私が臣籍降下などを……」

「お前の願いはビクトリアを妻にすることだろう? それはきちんと叶えてやっているじゃないか。文句を言うようならビクトリアとの婚姻も無しにするぞ? それでもいいのか?」

 ビクトリアとの婚姻が無しに……?
 ダメだ! そんなことすればビクトリアは成金爺の慰み者になってしまう!

「くっ…………分かりました。その話お受けいたします……!」

 王太子の座に就けないのは悔しくてたまらないが、愛するビクトリアのためだ、我慢するしかない。
 彼女を救い、添い遂げる方が私にとってはよほど重要なことなのだから!


 あれよという間に私は王宮を追い出され、ビクトリアと共に伯爵領に送られる。
 そこは畑や森が広がる鄙びた場所で、よく言えば自然豊か、悪くいえば娯楽のない田舎だった。

「ちょっと、レイ! 何なのよここ!?」

「何って……ここが私達の新天地だよ。言っただろう? 臣籍降下して伯爵領を貰ったと。ここがそうだよ」

「それは分かっているけど! どうしてこんなに何もない場所なのよ!? 王都とは大違いじゃない!」

「ご、ごめん……。でも、こんな場所でも商人は呼べるからドレスや宝飾品は買えるよ? それに王宮にいたころのような面倒な仕事は何もしなくていいからさ……? 妃になるよりも気楽な生活だと思うよ?」

「え? わたくし仕事しなくていいの? 本当?」

「ああ、もちろん! ビクトリアは私のために綺麗でいてくれることが仕事だからね! 美しいままでいてくれるなら何もやらなくていいよ」

 私が援助した甲斐あって元の美しい姿に戻ったビクトリア。

 この美しさを保ってくれるのなら私はそれだけで満足だ。
 面倒な事は全て私が行えばいい。

「ふーん……それならまあ許すわ。 わたくしが綺麗でいればレイはそれで満足なのよね? ならそうさせてもらうわ」

 女王様然とした偉そうな口調も今の美しいビクトリアならば許容できる。
 唯一無二の存在である彼女とならこんな田舎でも楽しく暮らせるだろう。

 しかし私のこの考えがいかに甘かったか、それを知るのはそう遅くなかった……。



「ビクトリア! なんなんだこの請求書は!?」

 私の怒鳴り声にビクトリアはキョトンとした顔を見せる。
 そんな彼女は怒りで顔を真っ赤に染める私に能天気な態度で返事をした。

「なあに、そんな大声出して? 請求書って何の?」

「何のじゃなくて全部だ! ドレスに宝石、それに化粧品までこんな……」

「えー? だってレイが好きにしていいって言ったじゃない? 何よ今更」

「限度というものがあるだろう!? 予算は限られているのにこんな浪費されては暮らしていけないじゃないか! 君はそんなことも分からないのか!?」

「はあ……うるさいわね。なら最初から予算をわたくしに教えておけばいいでしょう? それすら教えられてないのに浪費だなんだと言われても困るわよ。どうして言わなかったの?」

「は? どうしてって……そんなの言わなくても分かるだろう!? それに君は伯爵夫人なんだから家の予算位知ってて当然じゃないか!」

「あのね……夫人の仕事を何もやらなくていいと言ったのはレイじゃないの? を知らされていないわたくしに予算のことを言うなんておかしいわ!」

 ビクトリアの悪びれない態度に苛立ったものの、確かに家の仕事を何もしなくていいと言ったのは私だ。
 それを指摘されると反論できない。

 言葉に詰まる私に彼女はため息をついてこう言った。

「ああもう……レイはあまりわたくしにお金を使ってほしくないのね?」

「い、いや……そういうわけじゃ……。ただその……もう少し控えてほしいだけで……」

「ああそう、分かったわ。ならを使用するのは控えることにするわ。それでいいわね?」

「分かってくれたのかビクトリア! さすが君は出来た妻だ! ありがとう!」

 さすがは聡明なビクトリアだ。私の言いつけを理解し、守ろうとしてくれるなんて。

 
 だがこの時の私はまだ気づいていなかった。
 ビクトリアと私の価値観が大きくことを。

 そしてその価値観の相違が後の私達の生活に大きな影響を及ぼすことを――――。
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