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皇太子の愛
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王太子との婚約を解消し、帝国入りしたブリジット。
出迎えてくれた帝国皇太子ルイスを筆頭に皇家は熱烈に彼女を歓迎してくれた。
彼等の丁寧な対応や細やかな気遣いはもちろんのこと、ブリジットが特に感動したのは用意された部屋でのことだった。
彼女の部屋には皇太子から贈られた紅薔薇が豪勢に飾れられ、むせかえるような甘い香りが部屋中を包んでいた。
「すごい、愛の証である紅い薔薇がこんなにも……!」
「皇太子殿下は真にお嬢様を好いていらっしゃるのですね」
随行した侍女からこのように囃し立てられ、ブリジットは顔を真っ赤にして恥じらった。
こんなにハッキリと愛情を示されるなんて初めてなので困惑を隠せない。
あの元婚約者はブリジットに花の1本も贈ったことはない。
それどころか贈り物一つなかった。
義理すら果たさぬその態度、つくづくあの人と婚約を解消してよかったとブリジットは安堵した。
*
皇太子妃の教育も順調に進み、ブリジットと皇太子の仲も急速に深まったある日のこと―――。
「そろそろ夫婦になろうか、ブリジット」
「へ……? 夫婦? え? え……?」
皇太子のいきなりの求婚にブリジットは驚いて言葉を失った。
婚約をしているのだからいずれは結婚して夫婦になるのは当然なのだが、その時期は自分達が決めるものではないはず。
「あの……殿下、婚姻の時期は皇帝陛下がお決めになるのでは……?」
「ああ、結婚式の日取りなんかはそうだな。そういう公式的なことではなくて、君と結ばれ、真の夫婦になりたいということだ」
「結ばれる……? え? どういうことです……?」
皇太子の発言の意味がさっぱり分からないブリジットはキョトンとした顔を見せた。
そんなブリジットを皇太子は自分の方へ抱き寄せて唇を奪った。
「んんっ……? で、殿下……!」
「ブリジット……私はね、君との仲を誰にも邪魔されたくないんだ。本来であれば初めから君と結ばれるはずだったのに、ケンリッジ公爵が横槍を入れてきたせいでそれが叶わなかった。こうしてやっと君と婚約できてもまた邪魔が入るかもしれないと思うと不安で仕方ない……」
「まあ……殿下……」
そんなに私のことを……とブリジットがうっとりとした顔を見せると、皇太子は妖艶に微笑んだ。
「だからね、既成事実さえ作ってしまえばもう私達の仲を裂くことはできないと、そうは思わないかい? 身も心も結ばれてしまえば誰も邪魔はできないのだからね」
「え……? それってもしかして……」
既成事実、という言葉に頬を真っ赤に染めるブリジットに皇太子は再び口付けた。
深く口付けを交わし、彼女の女性らしい曲線を描く体をいやらしく撫でまわす。
「あ……殿下、だ、だめです……」
「ブリジット……私のことはルイスと呼んでくれ……」
「あ……ル、ルイス様……」
「そうだよ、それが君の夫の名前だ……。私が名を呼ぶことを許すのは君だけだ……愛しいブリジット」
男の色香を漂わせ、蕩けるような瞳で見つめられ、ブリジットは全身に痺れるような衝撃が走る。
帝国に来てから徐々に好意を寄せるようになった婚約者からそんな風に迫られたら拒めない。
むしろ嬉しいとすら思ってしまう。
「ルイス様……そんなに私が欲しいのですか……?」
「ああ、欲しい。初めて君を見たその時からずっと欲しくてたまらなかった……。婚約の打診を送り、君が来ることを期待していたのにやって来たのは別の令嬢だった時の絶望ときたらもう……。それに何故か君は王太子の婚約者になってるし、その令嬢は王太子の元婚約者だしで、あちらは帝国を馬鹿にしているのかと……」
皇太子に言われ、ブリジットは初めて祖国の対応のおかしさに気付く。
確かに初めからブリジットが帝国に嫁入りすればややこしいことにはならなかったし、彼女自身も王太子から傷つけられることもなかった。ケンリッジ公爵が欲をかかなければ全て丸く収まったはずだ。
ケンリッジ家も王太子の婚約者である娘を帝国に送るだなんて馬鹿げたことをよく考えついたものだ。
欲をかいた挙句に娘は国元に帰され、自分は莫大な賠償金を支払うはめになった。恥と損しか得ていない。
「私は絶対に君を妻にしたい。もう誰にも邪魔をされたくないんだ。ブリジット、君は私の妻となるのは嫌かい?」
「嫌だなんてことはありませんわ。ルイス様は私を宝物のように大切に扱ってくださいますし、私も貴方の妻となりたいです……」
宝物を扱うかのように大切にしてくれる婚約者にブリジットはすっかり心を奪われていた。
それこそ彼が望むなら自分の全てを捧げてもいいほどに……。
頬を染めて頷くブリジットに我慢できなくなった皇太子は彼女を抱き上げて寝室へと攫った。
こんな日の高い時間に……と抗議する彼女の口を己ので塞ぐ。
「愛しているブリジット、もう生涯君を離さないからな……」
好いた男性から熱の籠った瞳で見つめられ、甘く囁かれたら抵抗なんてできやしない。
ブリジットはそのまま彼に身を委ね、積もりに積もった想いを全て受け入れた―――。
出迎えてくれた帝国皇太子ルイスを筆頭に皇家は熱烈に彼女を歓迎してくれた。
彼等の丁寧な対応や細やかな気遣いはもちろんのこと、ブリジットが特に感動したのは用意された部屋でのことだった。
彼女の部屋には皇太子から贈られた紅薔薇が豪勢に飾れられ、むせかえるような甘い香りが部屋中を包んでいた。
「すごい、愛の証である紅い薔薇がこんなにも……!」
「皇太子殿下は真にお嬢様を好いていらっしゃるのですね」
随行した侍女からこのように囃し立てられ、ブリジットは顔を真っ赤にして恥じらった。
こんなにハッキリと愛情を示されるなんて初めてなので困惑を隠せない。
あの元婚約者はブリジットに花の1本も贈ったことはない。
それどころか贈り物一つなかった。
義理すら果たさぬその態度、つくづくあの人と婚約を解消してよかったとブリジットは安堵した。
*
皇太子妃の教育も順調に進み、ブリジットと皇太子の仲も急速に深まったある日のこと―――。
「そろそろ夫婦になろうか、ブリジット」
「へ……? 夫婦? え? え……?」
皇太子のいきなりの求婚にブリジットは驚いて言葉を失った。
婚約をしているのだからいずれは結婚して夫婦になるのは当然なのだが、その時期は自分達が決めるものではないはず。
「あの……殿下、婚姻の時期は皇帝陛下がお決めになるのでは……?」
「ああ、結婚式の日取りなんかはそうだな。そういう公式的なことではなくて、君と結ばれ、真の夫婦になりたいということだ」
「結ばれる……? え? どういうことです……?」
皇太子の発言の意味がさっぱり分からないブリジットはキョトンとした顔を見せた。
そんなブリジットを皇太子は自分の方へ抱き寄せて唇を奪った。
「んんっ……? で、殿下……!」
「ブリジット……私はね、君との仲を誰にも邪魔されたくないんだ。本来であれば初めから君と結ばれるはずだったのに、ケンリッジ公爵が横槍を入れてきたせいでそれが叶わなかった。こうしてやっと君と婚約できてもまた邪魔が入るかもしれないと思うと不安で仕方ない……」
「まあ……殿下……」
そんなに私のことを……とブリジットがうっとりとした顔を見せると、皇太子は妖艶に微笑んだ。
「だからね、既成事実さえ作ってしまえばもう私達の仲を裂くことはできないと、そうは思わないかい? 身も心も結ばれてしまえば誰も邪魔はできないのだからね」
「え……? それってもしかして……」
既成事実、という言葉に頬を真っ赤に染めるブリジットに皇太子は再び口付けた。
深く口付けを交わし、彼女の女性らしい曲線を描く体をいやらしく撫でまわす。
「あ……殿下、だ、だめです……」
「ブリジット……私のことはルイスと呼んでくれ……」
「あ……ル、ルイス様……」
「そうだよ、それが君の夫の名前だ……。私が名を呼ぶことを許すのは君だけだ……愛しいブリジット」
男の色香を漂わせ、蕩けるような瞳で見つめられ、ブリジットは全身に痺れるような衝撃が走る。
帝国に来てから徐々に好意を寄せるようになった婚約者からそんな風に迫られたら拒めない。
むしろ嬉しいとすら思ってしまう。
「ルイス様……そんなに私が欲しいのですか……?」
「ああ、欲しい。初めて君を見たその時からずっと欲しくてたまらなかった……。婚約の打診を送り、君が来ることを期待していたのにやって来たのは別の令嬢だった時の絶望ときたらもう……。それに何故か君は王太子の婚約者になってるし、その令嬢は王太子の元婚約者だしで、あちらは帝国を馬鹿にしているのかと……」
皇太子に言われ、ブリジットは初めて祖国の対応のおかしさに気付く。
確かに初めからブリジットが帝国に嫁入りすればややこしいことにはならなかったし、彼女自身も王太子から傷つけられることもなかった。ケンリッジ公爵が欲をかかなければ全て丸く収まったはずだ。
ケンリッジ家も王太子の婚約者である娘を帝国に送るだなんて馬鹿げたことをよく考えついたものだ。
欲をかいた挙句に娘は国元に帰され、自分は莫大な賠償金を支払うはめになった。恥と損しか得ていない。
「私は絶対に君を妻にしたい。もう誰にも邪魔をされたくないんだ。ブリジット、君は私の妻となるのは嫌かい?」
「嫌だなんてことはありませんわ。ルイス様は私を宝物のように大切に扱ってくださいますし、私も貴方の妻となりたいです……」
宝物を扱うかのように大切にしてくれる婚約者にブリジットはすっかり心を奪われていた。
それこそ彼が望むなら自分の全てを捧げてもいいほどに……。
頬を染めて頷くブリジットに我慢できなくなった皇太子は彼女を抱き上げて寝室へと攫った。
こんな日の高い時間に……と抗議する彼女の口を己ので塞ぐ。
「愛しているブリジット、もう生涯君を離さないからな……」
好いた男性から熱の籠った瞳で見つめられ、甘く囁かれたら抵抗なんてできやしない。
ブリジットはそのまま彼に身を委ね、積もりに積もった想いを全て受け入れた―――。
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