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1年ぶりの帰省
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15で王太子と婚約し、王妃教育のためと半ば攫われるように王宮に行ってしまったブリジットが1年ぶりに公爵家に戻り、マーリン公爵夫妻は歓喜した。
そして娘の口から聞いた王太子の非道な言動に彼等は憤慨し、激昂した。
「……あの青二才、私の可愛い娘を前の婚約者と比べて罵倒しただと? ふざけおって……!!」
「こっちは泣く泣く娘を送り出したというのに虐げるだなんて! ……あの王太子はよほど死にたいようね?」
元々公爵夫妻は娘を王家に嫁がせる気など毛頭なかった。
愛娘に相応しい相手を吟味し、いくつか候補が絞れたところでさあお見合いを、といった時に半ば強制されたのが王太子との婚約だ。断れるものなら断りたかった。
「他に候補者がいなかったから仕方なく了承したにすぎぬのに……娘を虐げるなぞ何を勘違いしたのか! ブリジットが婚約せねば王太子にすらなれぬと分からぬか!」
この国で王子が立太子するには侯爵家以上の身分の令嬢を婚約者にする必要がある。
なのでレイモンドはビクトリアと婚約を解消した時点で一度王太子の座から外され、ブリジットと婚約したことにより再び返り咲いたのだ。
「王家がしつこく懇願してくるから泣く泣くブリジットを手放したというのに……あの恩知らずが! もういい、こんな婚約は破棄だ! 頼まれても二度とブリジットは王家に嫁がせんからな!」
ビクトリアが国外に出てしまい、ブリジットも婚約しないとなると、もう王太子の婚約者になれる妙齢の女性がいない。となるとまたレイモンドは王太子の座から外されるが、それはもう自業自得であろう。
婚約者がいなければ王太子の座に就けない。
それなのにブリジットに見当違いな八つ当たりをしたレイモンドは第三者から見れば愚かであるとしかいいようがない。
そもそも客観的に見てブリジットに非は一つもない。
勝手に娘の婚約を解消したのはケンリッジ公爵で、資金援助の負い目からそれを止められなかったのは王家だ。
ブリジットもマーリン公爵家もとんだとばっちりを受けたに過ぎない。
それでもブリジットは家の為、国の為に望んでいない“王太子の婚約者”の座に就き、受けたくもない王妃教育に勤しんだ。
寝る間も惜しみ食事の時間も割いて教育を受けていたのに、婚約者から労いの言葉一つない。
それどころか前の婚約者と比べて蔑む始末。
こんな扱いを受けるために王太子の婚約者の座に就いたわけじゃない、とブリジットが憤るのは当然の結果だった。
「あちらがどれだけ謝罪しようが決して許さん。ブリジット、辛い想いをさせてすまなかった……。もうこれ以上お前に我慢などさせん。この父がお前を守るから安心しなさい」
父親の頼もしい言葉にブリジットは涙が出るほど喜んだ。
これで我慢を強いるような親ならブリジットは家に戻らず真っ直ぐ修道院を目指していただろう。
「はい、ありがとうございますお父様……」
安堵した次の瞬間、ブリジットはそのまま意識を失った。
王宮での過密スケジュールでずっと気を張り詰めていたうえに、王太子と顔を会わせるたびに嫌なことを言われ、心身共に限界だったのだ。
蓄積され続けたストレスと疲労を無意識に癒すかのように眠りにつき、そのままブリジットは3日間目を覚まさなかった。
そして娘の口から聞いた王太子の非道な言動に彼等は憤慨し、激昂した。
「……あの青二才、私の可愛い娘を前の婚約者と比べて罵倒しただと? ふざけおって……!!」
「こっちは泣く泣く娘を送り出したというのに虐げるだなんて! ……あの王太子はよほど死にたいようね?」
元々公爵夫妻は娘を王家に嫁がせる気など毛頭なかった。
愛娘に相応しい相手を吟味し、いくつか候補が絞れたところでさあお見合いを、といった時に半ば強制されたのが王太子との婚約だ。断れるものなら断りたかった。
「他に候補者がいなかったから仕方なく了承したにすぎぬのに……娘を虐げるなぞ何を勘違いしたのか! ブリジットが婚約せねば王太子にすらなれぬと分からぬか!」
この国で王子が立太子するには侯爵家以上の身分の令嬢を婚約者にする必要がある。
なのでレイモンドはビクトリアと婚約を解消した時点で一度王太子の座から外され、ブリジットと婚約したことにより再び返り咲いたのだ。
「王家がしつこく懇願してくるから泣く泣くブリジットを手放したというのに……あの恩知らずが! もういい、こんな婚約は破棄だ! 頼まれても二度とブリジットは王家に嫁がせんからな!」
ビクトリアが国外に出てしまい、ブリジットも婚約しないとなると、もう王太子の婚約者になれる妙齢の女性がいない。となるとまたレイモンドは王太子の座から外されるが、それはもう自業自得であろう。
婚約者がいなければ王太子の座に就けない。
それなのにブリジットに見当違いな八つ当たりをしたレイモンドは第三者から見れば愚かであるとしかいいようがない。
そもそも客観的に見てブリジットに非は一つもない。
勝手に娘の婚約を解消したのはケンリッジ公爵で、資金援助の負い目からそれを止められなかったのは王家だ。
ブリジットもマーリン公爵家もとんだとばっちりを受けたに過ぎない。
それでもブリジットは家の為、国の為に望んでいない“王太子の婚約者”の座に就き、受けたくもない王妃教育に勤しんだ。
寝る間も惜しみ食事の時間も割いて教育を受けていたのに、婚約者から労いの言葉一つない。
それどころか前の婚約者と比べて蔑む始末。
こんな扱いを受けるために王太子の婚約者の座に就いたわけじゃない、とブリジットが憤るのは当然の結果だった。
「あちらがどれだけ謝罪しようが決して許さん。ブリジット、辛い想いをさせてすまなかった……。もうこれ以上お前に我慢などさせん。この父がお前を守るから安心しなさい」
父親の頼もしい言葉にブリジットは涙が出るほど喜んだ。
これで我慢を強いるような親ならブリジットは家に戻らず真っ直ぐ修道院を目指していただろう。
「はい、ありがとうございますお父様……」
安堵した次の瞬間、ブリジットはそのまま意識を失った。
王宮での過密スケジュールでずっと気を張り詰めていたうえに、王太子と顔を会わせるたびに嫌なことを言われ、心身共に限界だったのだ。
蓄積され続けたストレスと疲労を無意識に癒すかのように眠りにつき、そのままブリジットは3日間目を覚まさなかった。
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