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アイリスの店
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あれからそう日数が経たないうちにクリスフォード様は二度に渡ってスピナー公爵令嬢を邸に招いた。
何故か私を招待した日に被せて。
陛下まで巻き込んで交わした誓約をよくもまあアッサリと破れたものだ。
その無謀さに呆れる。
スピナー公爵令嬢との二度目の逢瀬をわざわざ私の目に晒してくれたので、誓約通り婚約破棄の手続きを父主導のもと進めてもらった。
これでようやく自由の身。
もう目の前で婚約者が別の女性と仲睦まじく戯れている様を見なくて済む。
それがとても嬉しい。
「お嬢様! ようやくあの屑男の阿呆面を見なくて済むんです! 気分を変えて街へ出かけませんか?」
「いいわね。そうだ、久しぶりにアイリスのお店に行こうかしら?」
サリーからの嬉しい提案を私は喜んで受け入れた。
そういえば外出も久しぶりだ。ずっとあの婚約者のことで心を悩ませていたから外に出ることが億劫になっていたから。
悩みが消えると体まで軽くなったように感じる。
弾む気持ちで装いを整え街へと繰り出した。
「ん? アイリスのお店、何だか物々しい雰囲気が漂ってますね?」
「あら、ほんとうね。前来た時よりも警備兵の数が増えてるわ……」
王都の中心街にある店“アイリス”。そこは国で一番繁盛しているといわれる商会のブティックだ。
常ならばそこは出入り口に警備員が一人いるだけだったのに、今日は3人も立っている。
まるで何かを警戒しているかのような物々しさだ。
店の中に入る際にも警備員たちがこちらをジロジロ見てくるので何だか居心地が悪い。
いったい何があったのだろうと顔を見合わせた私達に可憐な声がかかる。
「お嬢様? それにサリーも! お久しぶりです!」
ピンクブロンドの髪を結い上げた可憐な美少女が華やかな笑みを浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
彼女の名はアイリス、この店のオーナーだ。
「アイリス、久しぶりね。あら? 何だか元気がないようだけど、どうかしたの?」
「あ……ご心配をおかけして申し訳ございません。実は先日、店に変なお客様が来たものでして……」
「変な客?」
「ええ、そうなんです。店に入って私を見るなり『ああっ! 貴女、ヒロインね!?』と訳の分からない台詞を叫び、ぎゃあぎゃあと騒ぎ初めまして……」
「え? 何その人、気でも触れているのかしら……?」
「ええ、そうとしか思えないほどおかしな人でした。その後も『誰狙いなの!? もしかして逆ハー狙い? なんてふしだらなの!』と訳の分からない言葉で怒り出して……。幸い他のお客様がいなかったからよかったものの、今度また来たら困るということで警備員を増やしたんです」
「危険人物じゃない! 憲兵に突き出してもよかったんじゃないの?」
「ええ、主人に話したらお嬢様と同じことを言ってました。でも、多分……そのお客、王太子殿下の婚約者のご令嬢っぽいんですよね……」
「え? それって……スピナー公爵令嬢のこと……」
そう尋ねようとした瞬間、勢いよく店のドアを開ける音が響く。
思わずそちらを向くと、そこには渦中の人物であり、もう二度とお目にかかりたくなかった黒髪の令嬢が佇んでいた。
何故か私を招待した日に被せて。
陛下まで巻き込んで交わした誓約をよくもまあアッサリと破れたものだ。
その無謀さに呆れる。
スピナー公爵令嬢との二度目の逢瀬をわざわざ私の目に晒してくれたので、誓約通り婚約破棄の手続きを父主導のもと進めてもらった。
これでようやく自由の身。
もう目の前で婚約者が別の女性と仲睦まじく戯れている様を見なくて済む。
それがとても嬉しい。
「お嬢様! ようやくあの屑男の阿呆面を見なくて済むんです! 気分を変えて街へ出かけませんか?」
「いいわね。そうだ、久しぶりにアイリスのお店に行こうかしら?」
サリーからの嬉しい提案を私は喜んで受け入れた。
そういえば外出も久しぶりだ。ずっとあの婚約者のことで心を悩ませていたから外に出ることが億劫になっていたから。
悩みが消えると体まで軽くなったように感じる。
弾む気持ちで装いを整え街へと繰り出した。
「ん? アイリスのお店、何だか物々しい雰囲気が漂ってますね?」
「あら、ほんとうね。前来た時よりも警備兵の数が増えてるわ……」
王都の中心街にある店“アイリス”。そこは国で一番繁盛しているといわれる商会のブティックだ。
常ならばそこは出入り口に警備員が一人いるだけだったのに、今日は3人も立っている。
まるで何かを警戒しているかのような物々しさだ。
店の中に入る際にも警備員たちがこちらをジロジロ見てくるので何だか居心地が悪い。
いったい何があったのだろうと顔を見合わせた私達に可憐な声がかかる。
「お嬢様? それにサリーも! お久しぶりです!」
ピンクブロンドの髪を結い上げた可憐な美少女が華やかな笑みを浮かべてこちらに駆け寄ってきた。
彼女の名はアイリス、この店のオーナーだ。
「アイリス、久しぶりね。あら? 何だか元気がないようだけど、どうかしたの?」
「あ……ご心配をおかけして申し訳ございません。実は先日、店に変なお客様が来たものでして……」
「変な客?」
「ええ、そうなんです。店に入って私を見るなり『ああっ! 貴女、ヒロインね!?』と訳の分からない台詞を叫び、ぎゃあぎゃあと騒ぎ初めまして……」
「え? 何その人、気でも触れているのかしら……?」
「ええ、そうとしか思えないほどおかしな人でした。その後も『誰狙いなの!? もしかして逆ハー狙い? なんてふしだらなの!』と訳の分からない言葉で怒り出して……。幸い他のお客様がいなかったからよかったものの、今度また来たら困るということで警備員を増やしたんです」
「危険人物じゃない! 憲兵に突き出してもよかったんじゃないの?」
「ええ、主人に話したらお嬢様と同じことを言ってました。でも、多分……そのお客、王太子殿下の婚約者のご令嬢っぽいんですよね……」
「え? それって……スピナー公爵令嬢のこと……」
そう尋ねようとした瞬間、勢いよく店のドアを開ける音が響く。
思わずそちらを向くと、そこには渦中の人物であり、もう二度とお目にかかりたくなかった黒髪の令嬢が佇んでいた。
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