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プロローグ
5.5
しおりを挟む屋上は世界の終わりを眺めることのできる特等席だった。
逃げ惑う人々、燃えさかる建物。悲鳴やクラクションやらサイレンといった騒がしく耳障りな音。非日常がそこにはあふれていた。
終わりの景色を、少年は静かに眺めていた。ついさっきまで自分たちが居た地上が地獄に変わっていても、思うことは一つ。助かった、という安堵だけだ。
空には、いくつものヘリが飛び交っていた。そのうちの一機がふらふらと不規則な動きを見せ、ビルに衝突した。爆発し、炎に包まれた機体が下に停車してあったバスを押しつぶした。
街はまるで、おもちゃ箱をひっくり返してしまったかのようだった。
「…………っ」
隣に立つ少女も、少年と同じ景色をその目に焼き付けていた。片手で長い箒を握りしめながら、今にも泣き出しそうな顔をしている。
見なければいいのに、と少年は思った。惨劇が終わるまで目をつむって、耳を塞げばいい。誰もそれを咎める者なんていない。もしかしたら、目の前で起こってることは全て悪い夢で、そいつが醒めてくれるかもしれないじゃないか。
じっと見つめていた少年の視線に気がついたのか、少女は顔を向けてきた。短い髪が風に揺れ、その瞳で見るものが、世界の終わりから少年へと移り変わる。
「えっと……」
少女に見つめられ、少年はその先の言葉が出てこなかった。
「元気出せよ」とか「大丈夫だよ」だとか、お決まりの言葉が浮かんでくるが、無力な気がした。さっきまでの自分たちの身に降りかかったことを考えれば、軽い気持ちの励ましなんて、虚しいだけだ。
「どうかしましたか?」
少女に訊かれ、少年は頬を指差した。
「はい?」
「血が、ついてる」
「あっ……ありがとうございます」
少女は血を拭おうと、スカートの中のポケットから、ハンカチを取り出す。だけれど、そのハンカチも血でぐっしょりと濡れていた。いや、ハンカチだけじゃない。彼女のスカートもブレザーも、真っ赤な血で染まっていた。
「そっちも、汚れてますよ」
少女は顔をほころばせて、少年を指差す。少年自身も、自分が血や臓物で汚れていることを知っていた。あれだけの返り血を浴びれば、当然だろう。
まだ固まってもいない、真新しい血液がお互いの学生服を染めていた。嗅ぎすぎて麻痺したせいか、血液独特の鉄臭さは感じなくなっていた。
「これから、どうしますか?」
少女に訊かれ、少年は再び視線を街に戻す。
「もう少しここにいよう」
「……わかりました」
そう言うと少女は、自分が手にしている箒を再び抱き寄せる。
崩壊する世界をその目に焼きつけながら、二人はその場に立ち尽くした。
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