僕たちはまだ人間のまま

ヒャク

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第95話「君は好きな人」

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「悠太郎くんは、好きな子いるの?」
「えっ、、、」

画面の中にいる子役2人は見つめ合っている。
近所に住んでいて唯一の遊び相手だった2人は自然と惹かれていき、小さな頃から「結婚しよう」と言い合い、約束をするのだ。

「子役達が可愛い」
「俺の方が可愛いよ鷹夜くん!!」
「うわうっさ」

午前0時40分過ぎ。
やっと仕事を終えて合流した芽依と鷹夜は先にシャワーを済ませて後は夕飯を食べて寝るだけと言う状態にしてからテレビをつけた。
合鍵は元に戻っている。
鷹夜には芽依の家の、芽依には鷹夜の家の合鍵が渡り、お互いにキーホルダーに付け直された。
小さいテーブルの上には酒の缶と夕飯が並んでいる。
2人とも帰ってくるのが遅かったので、またコンビニで買った弁当や惣菜だ。

「湖糸さん」
「悠太郎くん」

30分経つと主役2人の高校時代が始まった。

「竹内メイ来たあ~~~!!」
「あっ、無理、恥ずかしいッ」
「ちゃんと見ろよ~~!!」

それぞれ腹が満たされた2人はテーブルを退かし、ベッドに背中を預けながらカーペットに座って足を伸ばしてドラマを見始めている。
自分の演技が目の前で始まった芽依は恥ずかしさに悶えて、両手で顔を覆いながらもぞもぞと暴れた。

「はあ、やっぱり格好いいなあ竹内メイ」
「隣にいるよ、、」
「そんな部屋の隅で丸くなってる竹内メイいらん」

いつの間にか芽依はベッドの隣、部屋の隅にある冷蔵庫の前に転がっている。
顔は手で覆ったままで、指の隙間からジッと、ドラマを見ている鷹夜を見つめている。

「松本遥香めっちゃ可愛い、、」
「え!?俺は!?」
「うざいな、、はいはい、可愛い可愛い」
「たーかーやーくーんー」
「うざっ」

余程恥ずかしいのか、芽依はドラマはもう見ておらず鷹夜にちょっかいを出しに元の位置に戻ってきて彼の腕に絡み付いた。
鬱陶しそうにするでもなく、鷹夜はチラッと彼を見ただけで直ぐにテレビ画面に視線を戻す。
第1話は主人公2人が再び会社で再会し、過去に何があったかを少しずつお互いが思い出して切なくなると言うものだ。
松本はセーラー服からオフィスカジュアルな服装まで着回していて、芽依は学ランからスーツ姿まで披露している。

「芽依くんがスーツ着てるの新鮮」
「役では着ること多いけど、会社で働いてるわけじゃないからね~」
「、、、俺のスーツ姿ってときめく?」

鷹夜は唐突に浮かんだ疑問を芽依へ投げ掛けた。
そばに置いてあったピーチサワーの缶を持ち上げて傾けひと口飲むと、鼻に甘い香りが抜けて、口の中は甘くてしゅわしゅわした。

「え、」
「え?、、えっ??」

芽依の不意をつかれたような声にそちらを向く。

「え、いや、えっと」

(顔、真っ赤やないかい)

芽依の顔を見てそう突っ込もうと思ったのだがやめておく事にして、鷹夜はそっぽを向いて同じように顔に熱が広がるのを感じた。

(ときめいてるんですね、、!!)

分かりやす過ぎる反応に心臓が跳ねたのは言うまでもない。
芽依はこう言うところがある。
意図せず自分の反応だけで人をドキドキさせるところが。
鷹夜は右手のそばにあるサワーの缶を見下ろしてカチ、カチ、と爪をあてて音を出した。
ドラマはまだ流れているが、もうそろそろエンディングに入る。

「、、そりゃときめくよ。好きだし、普通に格好いいもん」
「っ、そっか」

意を決してそう言った芽依は体育座りをして膝を抱え、脚の間に顔を埋めた。
耳まで真っ赤になった姿をチラリと見つめて、鷹夜もまた体温が上がるような感じがしている。

(自分の方が格好いいくせに)

初めからずっと見ているだろうスーツ姿にときめくと今更言われ、馬鹿な質問をしてしまったな、と恥ずかしくなって来た。
言わせてしまったようなものだ。
ザリザリとうなじを触ってから、隣にいる丸まった図体の大きな男に手を伸ばし、サラサラの髪に触れて雑に撫でる。

「ありがとな」

ドラマはエンディングの曲が流れ始めた。
部屋の中はそれ以外、シン、と静まりかえっている。

「、、キスしたい」
「何でだよッ!!」
「いてえッ!!」

パンッ!!と思い切り頭を叩かれて、芽依は涙目になって顔を上げ、鷹夜を睨んだ。
叩いた本人は手が痛くなったのか大事そうに右手で左手をさすって労りながら同じく芽依を睨み返した。

「いいじゃんしたいんだから!!そう言う雰囲気だったし!!」
「油断も隙もねえな!!付き合ってない人とそう言うことする人どうかと思いまあす!!」
「クッ!頭硬い方の人かッ!!」
「ぁんだってえ!?」

結局また取っ組み合いになったのはお互いに照れ隠しが40%、残りの60%は酔った勢いとノリだった。
間もなくしてピーチサワーの缶が倒れ、部屋の中に甘ったるい香りが広がった。

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