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第拾弍章 兄と弟

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 時間は一旦現在に戻る。
 純白にして荘厳なバオム城。
 しかし美しい地上部分とは裏腹に地下は罪人、特に政治犯や重罪人を収容した頑強なる牢獄が存在していた。
 その中でも罪を犯した王族や貴族の専用区域がある。
 牢獄でありながら衣食住は保証されており、調度品も揃っていた。
 独居房という体裁ではあるが客室と呼んでも差し支えはないであろう。
 囚人も拘束されている訳ではない。不便があるとすれば用足しや入浴に見張りがつく事であるが、実際には見張りと云うよりは世話役である。
 ただし脱獄を図ろうものなら、その世話役は忽ち刺客へと変わると明記しておく。
 さて、その貴人区域で一つの騒動が起こっていた。

「兄上! クノスベでございます! 兄上!」

「お待ちください! 王子ともあろう御方が足を運んで良い場所ではありませぬ」

 バオム王家第ニ王子クノスベが血相を変えて地下牢に姿を見せたのだ。
 その顔は蒼白であり、入口を見張っていた騎士は初めは幽霊でも現れたのかと胆を潰したものである。
 宥める騎士を振り払うようにクノスベ王子は兄カイム王子が収容されている独房へと歩を進めていた。
 ここに来るのは聖剣を紛失した咎により切腹を命じられた兄を嘲笑う為に来て以来であったし、その時は“もうお会いする事は無いでしょう”と冷たく云い放っていたものである。

「兄上!」

 相手が王子である為に触れる事が出来ず、ただ宥める事しか出来ない騎士に拘束力は皆無であった為に数分後にはクノスベ王子はカイム王子の独房へと辿り着いた。

「な、何だ、これは?!」

 カイム王子の独房の鉄格子は茨に覆われていて中を見る事は出来なかった。
 さながら童話で囚われの身となった姫のようである。

「あ、兄上はどうなっている?! 御身は御無事なのか?!」

 カイム王子の見張り役を問いただすが、見張りは曖昧に首を振るだけである。
 埒が明かぬと騎士達に茨を取り除くように命じた。
 不気味な茨に逡巡を見せていた騎士達であったが、同行していたクロクスが剣を抜いて瞬く間に茨を切り刻む。その手並みと勇猛さに周囲から感嘆の声があがった。
 クロクスは今でこそバオム騎士団の中でも抜きん出た存在であるが、数年前までは騎士の家系であったから騎士となっただけという落ち零れであった。
 本人も努力をしていたし、家族や同僚もそれだけは認めていた。だが中々上達が見えずに仲間から取り残されていってしまい、ついには側室にしてバオム騎士団の団長であるレーヴェからも匙を投げられてしまったのだ。
 しかしカイム王子の指南役として突如として現れたゲルダに師事するように云われ、畏れ多くもあったがカイム王子と共に稽古をする事となった。
 彼女の課す稽古は基礎の反復を只管に繰り返すだけであり、やる事と云えば朝から晩まで素振りや走り込みのみであったのだ。
 またゲルダの指導は厳しく、剣の振りがぶれると容赦無く袋竹刀で“肘が曲がっておる”だの“腰が流れておる”だの叩きながら矯正するのである。
 このような稽古で強くなれるのかと内心は不服であったが共に稽古をしているカイム王子が一言も文句を云わずに同じ、否、倍の数も素振りをこなしているので文句も云えず、逃げる事も出来ずにいた。
 地味と思える基礎鍛錬であったが始めて二ヶ月もすれば重いと思っていた木刀も軽くなり、体の動きも滑らかになっている事に気付かされる。
 その頃になると木剣の先端に鉄の輪をはめて更に負荷をかけてきたが、それでも素振りを千本こなすのは苦痛では無くなっていたのだ。
 稽古開始から三ヶ月過ぎると打ち込み稽古も導入されるようなる。
 そこでもゲルダは手心を加えてはくれず、カイム王子共々血反吐を吐く毎日だ。
 いくら木剣や刃引より安全といっても皮革を被せた竹の棒で叩かれてはやはり痛い事に変わりなく、傷が疼いて眠れぬ夜を何度も経験したものである。
 しかもゲルダは稽古中にアドバイスらしい事を伝える事はない。
 ただ只管に打ち据えられ圧倒的なまでの力量の差を見せ付けられるだけであった。
 いい加減にゲルダの稽古が嫌になってきたクロクスであったが、ある日の事、信じられない光景を目の当たりにする事になる。
 なんとカイム王子が凄まじい速さで振り下ろされる袋竹刀に臆する事無く素早く身を寄せてゲルダの胴に一撃を入れたのである。

「カイム、寄れ」

 カイム王子を呼び寄せるゲルダに、王子とはいえ弟子が師に一撃を入れたのはマズかったかとクロクスは内心気を揉む事になったが、ゲルダがカイム王子の頭を撫でて優しく微笑んだので拍子抜けした。

「ようやってのけた。今の『飛び込み胴打ち』は良かったぞ」

「ありがとうございます! これもゲルダ先生の“近くにこそ安全な場所はあるものだ”や“技を発動した直後にこそ最大の隙が有る”というヒントのお陰です!」

 莞爾として笑うカイム王子にクロクスは金槌で頭を殴られたような衝撃を覚えた。
 ゲルダは決して打ち据えるだけでは無かったのである。
 稽古の中でヒントとなる言葉を随所に散りばめていた事に漸く気付かされたのだ。
 そしてカイム王子はゲルダの言葉を一言一句聞き逃さずに手掛かりとしてゲルダの上段打ちを破るだけの成長を遂げたのであった。
 ああ、なんて不甲斐無い。自分は折角稽古をつけてくれているゲルダに不満を募らせるだけで彼女の言葉をどれだけ聞き流してしまっていたのだろう。
 クロクスは己の情け無さに涙を流してゲルダに、否、二人に平伏した。

「申し訳ありませんでした! 私は日々の稽古を不満に思うだけでゲルダ様の意図に気付く事が出来ませんでした。これからは心を入れ替えて精進致しますので、今後も御二方と共に稽古をさせて下さい!」

 クロクスとしては破門を云い渡されても仕方ないと思っていたが、その覚悟は無駄となった。

「顔を上げい。それに気付けずに道場から去っていった者も少なくない中でお主は気が付く事が出来た。そのような弟子を破門にする理由はない。これからもしっかりと精進せい」

「そうだぞ、クロクス。折角出来た兄弟弟子がいなくなるのは私も寂しい。今後も私と共に切磋琢磨していつか立派なバオム騎士となって我が王国を守ってくれ」

「ゲルダ様! カイム王子! ありがとうございます!」

 クロクスは泣いた。男泣きに泣いた。
 その後のクロクスは宣言通りに命懸けで稽古に打ち込むようになり、いつしかバオム騎士団の中でも頭角を現すようになっていったという。
 そんなクロクスによって茨は細切れとなるのは当然の事であった。

「あ、兄上!」

 茨を斬ったクロクスを押しのけてクノスベ王子は独房の中を覗く。
 しかし中にはカイム王子の姿は無かった。
 その代わり、他の独房よりも充実した調度品が数多く備えておりワインや寝心地の良さそうなベッドまである始末である。
 王子とはいえ至れり尽くせりにするにも程があるだろう。

「こ、これは…いや、それより兄上はどうした?!」

 問い詰められた牢番は云いづらそうに答えたものだ。

「いやあ、その…この時分だと“飲む”か“打つ”か…“買う”事は無いと思いますが…」

「待て! まさか兄上は自由に牢を出入りしておられるのか?!」

「拙者を責められても困りますぞ。これは国王様のご命令にござる。“悪を見て悪を知らねば悪を取り締まる事は出来ぬ”という教えを実践しておられるのです。今後、王を継ぐにしても悪を仕切る悪・・・・・・と誼を結ぶ事は悪い事ではありませんぞ。早い話が必要悪ですな。“浜の真砂まさごは尽きぬとも世に盗人の種は尽きまじ”と申します。清濁併せて呑み込む器量を持たねば務まらぬのですから王様になるというのも大変ですな」

 牢番は胸倉を掴まれながらものほほんと答えたものだ。
 これにはクノスベ王子も目が点となった。
 今、この牢番は“王を継ぐ”と云ったか?
 それは自分の事ではなく切腹を命じられた兄の事を指しているのは流石にクノスベ王子でも察する事ができた。

「騒がしいぞ。私の不在が周囲にバレたらどうする?」

 声のした方を見れば蜂蜜のように艶やかな金髪を背に流した美しい女性がいた。
 身の丈は恐ろしく高いが、細身である為か厳つい印象は受けない。
 いや、この声には聞き覚えがある。ましてや牢に入れられるまでは毎日のように見合わせていた顔がそこにあった。

「あ、兄上か?! そ、そのお姿は?!」

 母レーヴェの凜々しさと父王の柔和な目鼻を受け継いだ兄カイム王子がドレス姿で立っていたのだ。

「クノスベか。知れた事、牢内にいるはずの私が“王子で御座い”といった恰好そのままで街を歩く訳にはいかないだろう。変装だ、変装」

 逆にクノスベ王子が目の前にいる事に驚く事無く髪を首の後ろで括る。
 ドレスを脱いだカイム王子は下に騎士服を着ていた。
 この長身で女装をしたら逆に目立つのでは、とクロクスは訝しんだが、騎士として王子に恥を掻かせる事もあるまいと口を噤んだ。

「それでクノスベ、お前がここにいるという事は聖剣でも・・・・盗まれたか・・・・・?」

 いきなり核心に触れられてクノスベ王子は肛門から魂が抜けるほど仰天した。
 兄は自由に動けるようだが、それにしても情報が早過ぎる。
 聖剣をゴロージロなる怪人に奪われたのが午後であり、今は日の入りの時刻だ。
 いくら何でも馬を休ませずに一気に駆け抜けた我々より情報が先に届くなんてあり得ない話である。

「しかし世の中儘ならぬものだな。ゲルダが我が元から離れて約一年、漸く深い深い水底から大魚が動いたと思ったら釣れたのがクノスベ、お前だったとは…」

 牢番にドレスを手渡しながらカイム王子は憂い顔で溜め息をついたものだ。
 対してクノスベ王子はわなわなと震えて言葉が喉から出てこない。
 聞きたい事はいくらでもあったのに今や完全に頭が真っ白になっていた。
 そこへクロクスが挙手をする。

「発言をお許し頂けますか?」

「水臭い事を云わないでくれ、クロクス。君と私は同じ師の元で学んだ兄弟みたいなものだろう? 公式の場でなければ五分の付き合いをしたいのだよ、私は」

「畏れ多い事です。では、切腹のお沙汰は嘘という事ですかな?」

「沙汰自体は本物だ。だが、態々私の元から聖剣を盗むとしたら同じバオム王家であるクノスベしかおらぬ。だからこそ父上は敢えて私に切腹の沙汰を下して牢に入れられたのだ。そしてクノスベが聖剣を取り戻したという報せがくれば誰でも怪しいと思うであろう? 故にクノスベが帰還した際には“どこの誰が聖剣を盗み、どうやって取り戻したのか”をじっくりと訊問する手筈であったのだ」

 クノスベ王子は既に自分が詰んでいた事を知って愕然とする。
 いや、何故そこに考えが行き着かないのかとカイム王子は情けなく思う。

「しかしだ。まさかナルがゲルダを巻き込むとは思わなかった。ゲルダにはゲルダの役目・・があったと云うのに余計な事をしてくれたものだ」

 本当に儘ならないと、カイムは首を振った。
 ナルとはゲルダが去った後に後釜として聖女となった者で、辺境にいたゲルダにカイム王子の危機を報せに走った少女でもある。

「やはりゴロージロ老はゲルダ先生の手の者でしたか」

「ほほう、ゴロージロ老とは良いな。手の者も何も老人の姿はゲルダのもう一つの姿だよ。私の切腹の件をナルから聞いて救う為に動いてくれたのだろう。本当に私には勿体無いひとだよ」

 カイム王子は愛おしげに腰に差した黒鞘の太刀に目を落とす。
 十四歳の誕生日プレゼントであり、数え年の十五歳即ち元服の祝いに贈られた三尺(約90センチメートル)の剛刀である。『水都聖羅すいとせいら』の兄弟刀で胴太貫をモデルにして作られた逸品だ。
 現在、十八歳となり身の丈もゲルダを遙かに超えて185センチメートルにまで成長したカイム王子に相応しい剣といえよう。
 また剣でありながら魔法を遣う際には杖の代わりとなり、魔法構築の補助、効果の増幅、あらゆる属性にも対応可能という世の魔法遣いが聞いたら嫉妬で地団駄を踏む事請け合いのとんでもない仕様も搭載されている。
 余談となってしまうが、『森王聖羅しんおうせいら』と名付けられた太刀はカイム王子が命を預ける愛刀となり、聖剣ドンナーシュヴェルトなどは、

『継承したにも拘わらず抜くどころか手に取ってすらくれぬ』

 と、溢しているとかいないとか。
 ともあれゲルダとカイム王子の絆はまだ断ち切れてはいなかったのである。
 むしろ遠く離れていても強固に結び付いていた。

「ところで、その様子だとゲルダと手合わせをしたのではないか? どうだった? いい勝負は出来たかな?」

「意地の悪い質問は無しです。ゴロージロ老がゲルダ先生であると見抜けなかったばかりか、たった一合で勝負が着きまして御座います。よもや甲冑の中に衝撃を貫通させる秘剣があるとは思いもしませんでした。いやはや直心影流じきしんかげりゅう、まだまだ奥が深う御座いますな」

「それはそうだろう。何せ、三百年を生きる師ゲルダでさえもまだまだ修行が足りぬと日々精進を重ねているのだからな。生涯これ全て修行と心得ねばならぬ。そうではないか?」

「おっしゃる通りかと」

 カイム王子とクロクスは爽やかに笑い合ったものだ。
 そこへ自失の状態から復帰したクノスベ王子が割って入る。

「お、お待ちを! 兄上はあの聖女を追放したのではないのですか?! 話を聞くにあの“酔いどれ”と兄上はまだ繋がりがあるように思えるのですが」

「“酔いどれ”? “様”を付けぬでもゲルダ殿と呼ばぬか、無礼者。我が妻への侮辱は弟といえども許さぬぞ」

 垂れ勝ちな柔和な目であるが、殺気を込めて睨めば迫力があるものだ。
 全身に怖気が走り、クノスベ王子は騎士や牢番の居る前でありながら平伏した。

「良いか。今のバオムはシュランゲ様が呼び寄せた僧侶達のせいで雷神信仰と新興宗教が入り交じり、誰が敵で誰が味方か分からぬ状態だ。そこで王家の威信をかけたと偽った儀式を行い、わざと失敗をする。そしてゲルダに責任を負わせて追放する形で王都から脱出させたのだ」

 諭すように云うカイム王子にクノスベ王子は顔を上げる。
 先程とは打って変わって兄は笑みさえ浮かべているが、逆にそれが不気味で恐ろしい。

「私が王都に残り、ゲルダが辺境へと流れる事で敵の目と戦力を分散させる事に成功した。相手が動くまで何年も待つつもりであったが、父上が病を得られた事で事態は大きく動いた…動いたのは良いが、クノスベ、お前が聖剣を盗むとは想像すらしていなかったぞ。最近では少々ぎこちなくなってきてはいたが、それでも兄弟の絆は不滅であると信じていたのだがな」

 クノスベ王子は反論したくても出来なかった。
 今となっては何故聖剣を盗んだのか、自分でも解らなくなっていたからだ。
 確かに側室の子である兄が次代の王となる事に不満が無かった訳ではないが、それも幼い頃より母シュランゲから自分の境遇が如何に不遇であるかを吹き込まれてきたからというのもあった。
 しかしながら、善く善く考えてみれば、自分は王になりたいという願望も無ければ、王を継承した後の展望も無かったのである。
 いや、展望というか夢はあったのだ。
 元々クノスベ王子には医者になりたいという願望があった。
 それというのも性病に苦しむ娼婦達を見て、彼女達を一人でも救いたかったのだ。
 それだけに終わらず、女性が身を売らずに暮らしの生計が立つようにするにはどうしたら良いのか、心ある貴族や騎士、商人の子息を集めて討論していたではないか。
 しかも聖女ゲルダに師事して医学の勉強をしていたはずであったのだが、いつから医の道から外れて身の丈に合わぬ願望を抱くようになったのであろうか。
 途端にクノスベ王子は自分自身が恐ろしくなったのである。

「あ、兄上…私はいつから志を見失っていたのでしょう?」

「その澄んだ目、正気に戻ったか? 元々お前は謀略とは無縁の優しい男、無垢ゆえにシュランゲ様と敵の言葉に惑わされていたのだろう」

「兄上、お許し下され。これまでの事の全てを父上に包み隠さず告白し、必ず切腹の沙汰を取り下げて頂きます。後は今回の聖剣騒動の責任を取って私が腹を切れば全てが丸く収まりまする」

「莫迦者! お前が死んで全てが終わる話ではないぞ。その後の事を考えよ。遺されたシュランゲ様はどうなる? あの御方はそれで大人しくなる方ではない。むしろ怒り狂って復讐に走りかねん。それにお前を操っていた敵との繋がりも消えてしまうであろう。そうなったら折角掴んだ尻尾を斬り落とされてしまうではないか。辛いかも知れぬがお前は汚名を背負い、生きて償いの道を歩んで貰わなければならぬのだ」

「兄上……分かりました。私に出来る事は何でも命じて下され」

 決意を込めてカイム王子を見れば、兄は優しく微笑んで頭を撫でてきた。
 こうして頭を撫でられるのは初めて梅毒に苦しむ娼婦を救う事に成功した時に師や兄に褒められて以来ではないだろうか。
 時間にして一年と少し前であったが、遠い昔のように感じられた。

「そう鯱張しゃっちょこばるな。我らは兄弟であろう。それにお前こそ世に必要な男だ。立派な医者となって多くの命を救え。それがお前の償い、否、生きる道ではないか。そうであろう?」

 かつて『水の都』で救われた時のように笑いかけるとクノスベ王子は感極まったのか、滂沱の涙を流したものだ。

「莫迦。泣く奴があるか」

 カイム王子はクノスベ王子を立たせると自らの独房の中へと導いた。

「今日は色々あって疲れたであろう。久しぶりに兄弟揃って夕餉を楽しもうではないか。たまには牢でする食事も乙なものだ。取って置きのワインもあるぞ」

「あ、兄上…私の記憶が正しければ、そのワインは父上秘蔵のビンテージワインではありませぬか?」

「固い事を云うな。そこにいるベロニカも云っていただろう? 王家は清濁併せて呑み込むものだと。つまり多少は悪い事を覚えねばならぬという事だ。飲むべし、飲むべし」

「あ、あははははは……」

「カイム王子も段々ゲルダの兄弟に似てきましたな」

 悪戯っぽくウインクをするカイム王子にクノスベ王子は乾いた笑い声を上げ、クロクスは苦笑し、牢番という形でカイム王子を護衛していたベロニカは呆れるという三者三様の反応を見せていた。
 その後、四人は身分を越えて食卓を共に囲んで夕餉を楽しんだ。
 彼らは大いに語り合い。将来へと思いを馳せるのであった。

「そういえば兄上とゲルダ先生は如何様な策を用いられたのですかな?」

「そうだな。丁度クロクスもいる事もある。良い機会だ。ゲルダ追放の真相を語って進ぜよう」

 カイム王子はワインで喉を潤すとゲルダが如何にして王都から出て行ったのかを静かに語り始めた。
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