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アフター
121 疑われるなんて聞いてないっ!
しおりを挟む「うつけ! お主は少し止まれっ!」
闘技場のロビーで、サヨのハリセンが俺の頭に炸裂する。
スパーンと叩かれて、俺はようやく周りを見た。
トモヤもセイヤも、ぜーはーと肩で息をして、床に膝をついている。
イライラとムカムカが高まっていた俺は、DFOにログインすると、炎都の酒場にいたトモヤとセイヤ、サヨを連れて、闘技場を訪れた。
ストレス発散には、戦闘が一番!
PvP戦を片っ端から申し込んで、連戦しまくった。
二十試合やって、二十試合とも全勝。
ロビーの掲示板に表示されているPvP日間ランキング一位に、俺達の新しいチーム<リゲル>が輝く。
試合中は観覧席から『戦姫ー!』と、何度も声援を受けた。
最近は、チヒロの妹の『チロ』よりも、<リゲル>の戦姫『チロ』という名前のほうが広がりつつある。
DFOも六年経った。プレイヤー層も徐々に入れ替わっている。そのうち『チヒロって誰?』という人が、どんどん増えてくるだろう。
「あ……悪い……」
俺は頬をぽりぽりとかいて謝った。
サヨはハリセンを手に持ったまま、バシンバシンと音を立てる。
「なにをそんなにカリカリしておるのじゃ? 周りの者を見ないなど、お主らしくもない」
「悪い! 本当にごめんっ!」
「闘うのは構わぬが、少し休憩を入れるぞ。良いな?」
「……うん」
サヨは一度落ちると言って、その場でログアウトした。
息が整ったトモヤは立ち上がって、俺に近寄る。
「チヒロがこんなにイライラしてるなんて、珍しいね」
「そうかな?」
「昨日の今日だし、まぁ察しはつくけどさ」
「…………」
「もう少しやる? 続けるなら、僕も一回落ちて休憩しようかな~」
「もうちょっとだけいい?」
「オッケー。分かった。セイヤはどうする? 今日はここでやめるなら、代わりにマサト呼ぶけど」
「ジョーダンでしょ? 全勝中だよ? こんな美味しいポジション譲るわけないじゃん!」
「じゃあ、15分後にまた集合しようか」
「オッケー! トモヤ、チヒロ、またあとでなー」
そう言うとセイヤも一度ログアウトする。そしてトモヤもログアウトした。
俺もトイレと飲み物済ませておくか……と一回落ちた。
ヘッドギアとリストを外して、電源を切ったスマホを見た。
「…………バーカ!」
バーカバーカ。バカ野郎。
アイツのせいで調子狂う。
『……悪いな。お前を取られるのかと思ったら、目の前が真っ白になったんだ』
前にナオキさんにキスされた俺を見たとき、お前こう言ってたじゃないか。
だったら、アキラさんとキスしてるお前を見た俺が、どう思うかなんて分かるだろ?
スマホの電源を入れる。
メッセージと着信が増えていた。
ピロンとメッセージが届く。
通知欄には『すまない』と書いてあるのが見えた。
またピロンとスマホが鳴る。
『会いたい』
うっと胸が詰まる。
俺は見なかったことにしてスマホの電源を落とすと、DFOに再度ログインした。
俺達は休憩後、『PvP戦、負けるまで寝れまテン』を開催。
50勝したとこで、もう無理と皆がギブアップした。
ログアウトして、歯磨きして、布団を入る前に時間を確認したら午前四時。
目を閉じると、すぐに寝てしまった。
***
<土曜日 9:11>
ピンポンと何度もインターホンが鳴る。
最初は無視していたが、あまりに何度も鳴らすので、モニターも確認せずに、ガチャッと直接玄関を開けた。
目の前にはレンがいる。
「…………なに?」
「……ちょっと中に入るぞ」
そう言うと、レンは俺を押しやって、中に入っていく。
(俺は一言も『いい』なんて言ってねぇ!)
玄関のドアを閉めると、俺はレンのあとを追いかけた。
「チヒロ。お前、あの飲み会の後、アキラと会ったのか?」
唐突にそう話を切り出された。俺は隠す必要もないので、「うん」と答える。
レンは、はぁとため息をついた。そして「なにを言われた?」と聞いてきた。
「アキラさんは、お前と昔セフレだったって」
「……他には?」
「お前とまたセックスしたいって……人のモノになったら、欲しくなったから、俺にお前を貰ってもいいかって……」
レンは右手で頭を抑える。眉間にも少し皺が寄っていた。
「ったく、アイツは」
「なぁ……本当なのか? 昔のセフレだったって」
「……ああ。かなり前だけどな、そこは本当だ」
「そうなんだ……本当に昔なだけ?」
「……どういう意味だ?」
あれ。俺なにを言い出してるんだろう。
口が止まらない。
「実は、ヤったりしてねーの? アキラさんって、レンと並んでも引けを取らないイケメンじゃん。再会してまたお互いにセックスしたいって思っても、不思議じゃないんじゃねぇ?」
「……おい、チヒロ」
「昨日だって、俺が帰った後で実は二人してヤってたんだじゃねーの!?」
レンが俺の両手をグイッと掴んだ。
眉を寄せて、怒りを露わにしている。
「お前、俺がそんなことをするヤツだと思っているのか」
「…………」
思ってない。
思ってないけど、でも、だって、そうじゃないなら、なんでアキラさんとキスしたんだよ。
不意打ちだって分かってる。自分でしたくて、したわけじゃない。
そういうのは俺も経験したから、分かってるさ。
(……俺はお前と二週間以上キスしてないのに、なんなんだよ)
プイッと横を向いた。レンは、深いため息をついて俺に話しかける。
「……じゃあ、お前は? 一昨日、ここにトモヤが来たんだろう?」
「は? 俺?」
「そのとき、お前達はなにをしたんだ? キスでもしたのか?」
「はぁ!? そんなことするわけねぇ!」
カチンときた俺はレンを睨みつける。
トモヤは俺を心配して、付き添ってくれただけだ。
アイツに失礼すぎるだろ。
それ以上に、俺の気持ちを疑われたみたいで、すっげー腹が立つ。
レンに噛みつこうとしたところで、先にコイツが口を開く。
「──お前が俺に言ってることは、そういうことだぞ」
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