上 下
100 / 141

100 俺の姫プレイとご主人様

しおりを挟む
 <土曜日 11:17>

「…………あ」
「こんにちは」

 秋葉原の電器屋の六階で、俺はまたナオキさんに会った。
 人の多いこの街で、こんなに何度も会うものなのだろうか……?

 雪森は偶然を装って俺に会いに来た。
 その過去の経験が、俺の警戒を強める。

「偶然ですね。お買い物ですか?」
「ええ……まぁ……」

 警戒しているのがバレバレなのか、ナオキさんはクスッと笑う。

「大丈夫ですよ。こんな場所で取って食ったりしません」
「えっ、あ、ええと……」

 俺の考えていることなんて、お見通しだったようだ。
 バツが悪くて、俺はナオキさんから目を逸らす。
 なんとなく店内へ向けたその目が、とある人物を捕えた。
 向こうも俺の存在に気づいたようで、こちらへ近づいて来る。

「トモ──」
「なんでお前がチヒロといる!?」

 トモヤは俺の腕を掴んで引っ張り、その背に隠した。
 温厚なトモヤが怒っている?
 怒っている相手は、ナオキさん……?

「おや? もしかして、彼はトモヤ君のお友達でしたか」
「どういうつもり? 何を考えている?」
「何も。彼がキミの友達だと、今初めて気づいたんですよ? それだと何も出来なくないですか?」
「……本当に初めて気づいたのか怪しいね。とっとと去ったらどう?」

 やり取りを見る限りだと、この二人は知り合い?
 俺は二人の顔を交互に見比べた。

「すみませんねぇ~……もう少しキミとお話したかったんですけど、また今度……」
「今度なんてものは来ない。お前はチヒロに関わるな」

 俺は背中側にいて、トモヤがどんな顔をしているのか分からないが、周囲にいるお客さんが小さくヒッと声を上げている。

「怖いですねぇ……なるほどね。この前言っていたのは、この彼ですか」
「……お前には関係ないだろ。さっさと行け」

 ナオキさんは肩をすくめて、トモヤと俺の横を通って行く。
 その時、すれ違い様に俺はスッと尻を撫でられた。

「ほあっ!?」
「またね。チヒロ君」

 俺は尻を押さえ、ナオキさんは俺の尻を撫でた手をフリフリと振って去って行った。
 俺の姿を見たトモヤが、何があったのか察する。
 トモヤは俺の手を取ると、エスカレーターのある方角へとグイグイ引っ張って行った。

「チヒロ……除菌シートを買おう。あいつが触ったところ全部拭こう」
「ちょ……ちょっと待っ……!」
「あと、なんで君があいつを知ってるのか、今からじっくりゆっくり話を聞かせてもらうからね」
「ちょ! トモヤ……歩くの早いって!」

 俺は前のめりになって転びそうになる。
 そしてこの後、トモヤに説教されることになった。

 知らない人から、物を貰ってはいけません。

 俺はこの歳になってまで、そんなことを言われるとは思ってもみなかったのだった。

 ***


 side ナオキ

 電器屋で朋也君に会った数日後、仕事から帰宅した俺はすぐ自室へと向かった。
 手に持った封筒の中身を取り出して、机の上にバサリと置く。

 朋也君から頼まれた『お仕置き』を実行したその翌日から、俺はあることを知り合いに頼んでいた。
 ある程度の情報がまとまったらしいので、今日それを受け取ったのだ。

『上月千尋』

 彼に関する情報と数枚の写真。
 俺はネクタイを緩めて、写真を手に取り、それを眺めた。

「……あんなに朋也君に想われている相手は、一体どんな人物なのかと思ってたんですが……彼だったんですねぇ」

 元気な柴犬みたいな雰囲気の彼。
 ペラッとめくった次の写真には、彼と朋也君が写っていた。
 その写真の中の朋也君は、俺が見たことないような笑顔を浮かべている。

「いい顔だなぁ……」

 またペラッと写真をめくった。
 次に出てきたのは、超絶美形の男とチヒロ君。

「朋也君にあんなに想われているのに、他にも男がいるんですか……なかなか侮れない彼ですね」

 写真の中の二人は、深くキスしていた。
 超絶美形の彼が、かなりチヒロ君に熱を上げているように見える。

「あの首に散りばめられたキスマークはこの彼……? それとも朋也君も一緒に……? でも、チヒロ君と朋也君はセックスはしてないんですよねぇ……?」

 腕を組んで顎に手を当て、ふーむと考える。

 二人はチヒロ君を取り合っている三角関係?
 それとも共有している……とか?
 
 俺は写真を置いて、書類の方に手を伸ばした。
 ペラペラとめくるが、さすがにそこまで詳しいことは分からないか。

「……三角関係だと仮定して、チヒロ君がこのイケメンの彼を選んでくれたら、朋也君は俺の元に来てくれますかねぇ?」

 目を瞑れば、絶対零度の表情を浮かべた朋也君の姿が浮かぶ。

 俺はネクタイをしゅるりと外し、ワイシャツのボタンもいくつか外して、その中に手を滑り込ませた。 
 乳首を引っ掻きながら、俺はご主人様のことを考える。

 数年ぶりの連絡、そして数年ぶりのご褒美はとても良かった。

「……はっ……あっ……もっと」

 足りない。これじゃ足りない。
 ご褒美もあれだけじゃ物足りない。もっと欲しい。

 久々に与えられた甘美な刺激が忘れられない。
 チヒロ君を──彼のことを突っついたら、またご褒美がもらえるかな?

 俺はスラックスをずらして、右手を伸ばす。
 硬くなったソレを激しく扱いた。

「ふっ……うっ……んんっ……!」

 また踏んで、俺を叱って。

 腰が浮いて、ビクビクッと身体が震える。
 まぶたの裏に浮かぶ朋也君に向けて、俺は精を吐き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完結】薄倖文官は嘘をつく

七咲陸
BL
コリン=イェルリンは恋人のシルヴァ=コールフィールドの管理癖にいい加減辟易としていた。 そんなコリンはついに辺境から王都へ逃げ出す決意をするのだが… □薄幸文官、浮薄文官の続編です。本編と言うよりはおまけ程度だと思ってください。 □時系列的には浮薄の番外編コリン&シルヴァの後くらいです。エメはまだ結婚していません。

悪役令息の兄には全てが視えている

翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」 駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。 大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。 そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?! 絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。 僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。 けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?! これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...