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92 俺の姫プレイと執着

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『──お前……あの夜、なぜ俺にキスしたんだ?』

「は……?」
「……お前、寝ている俺にキスした、だろ?」
「は? は? えっ? なっなななな、何で知って……!?」
「……その反応、やっぱりそうか。夢ではなかったんだな」
「!!」

 コイツ、カマかけたのかよっ! くそっ!
 ぐわっと一気に顔が赤くなる。

「あれは何だ? どういうことだ?」
「どっどうもこうも、ない! 気のせいだ!」

 俺はレンの手をひっぺがして、ドアを開けようとする。
 レンは逃げようとする俺の両手を掴んで、ドンッとドアに押し付けた。
 向き合う形になってレンと対面する。
 
「チヒロ……お前……まさか、俺を好きなのか?」
「はぁ!? んなわけあるか!!」
「じゃあ、あれは何だ?」
「あ……れは……その……」
「何だ? 言え」
「だーっ! あれは! ちょっと試したかったつーか!」
「……試す?」

 俺の返答が予想外だったのか、俺の手を掴んでいたレンの手が緩んだ。

(──今だ!!)

 手を引き抜いて、すかさずウインドウを立ち上げ、俺はログアウトボタンを押した。

「おい! チヒロ!!」
「じゃーな!」

 **

 俺はヘッドギアを外して、大の字になって布団に転がった。

「あー……もう、あの時レン起こしちゃったのか」

 あの夜、レンの寝ている顔を見ていたら、ふと思いついたことがあったんだ。
 吊り橋効果で変な感覚になっているのなら、自ら行動した場合はどうなんだと。

 抱きしめられたから、
 ……って言われたから、
 キスされたから……。

 俺が危ない時に助けに来てくれたから……って、全部された側。

 されるばかりだから、感覚が狂ったのか?
 じゃあ、自分がする側になったら、何か分かるんじゃないか? と思いついて実行した。

(……寝てるし、ちょうどいいと思ったんだよ)

 自分からキスして得られた結果は、よく分からん……という答えだった。

 一応、俺にも彼女がいた時期はある。
 その時と比べてみたら、何か分かるのかなぁ~とも思ったんだが……。

「そもそもな~……」

 付き合った経験があると言っても、半年も経たない内に別れることが多かった。
 いや、多いと言えるほど沢山付き合った訳じゃないんだけどさ。

 向こうから告白してくれて、付き合って、向こうから別れを切り出される。
 三人と付き合って、三人ともこうだった。

『千尋君は、私のこと……好きじゃないでしょ。私ばかりが好きでツラい……もうやめたい。ごめんなさい』
 
 俺なりに好きだったと思うけど、今までの恋はすぐに終わりを迎えた。

 一度だけ、姉貴に別れた時に言われたことを相談したことがある。
 そのとき姉貴は、あー……と何かを納得したような顔で、苦笑してた。

『あんたは昔っから人に執着しないからねぇ~。でも、そんなあんたのそばが居心地良いって、周りが放っておかないのよね。そして執着されて、勝手にあんたに幻滅して離れていくの。今回もきっとそのパターンね』

 姉貴は俺の肩をポンポンと叩いて「仕方ないよ。千尋自身が好きで好きで仕方ないって、執着する側にならないとさ、長続きしないんじゃないの~」と言われた。

(……執着かぁ)

 執着って、雪森みたいなこと?
 あれほど極端なのは無かったけど、思い起こせば男友達に「俺だけと遊ぶよな?」みたいなことを言われたことは、何度かある。
 その度に、またかよ……と思って、俺はそいつらから離れていった。

(好きで好きで仕方ない気持ちって……相手が嫌がってても、自分の気持ち押し付けたくなる感情なのかな? あれを『好き』って呼ぶのか?)

 そうだとするなら、そんな気持ちになってる自分が想像つかないし、あまりそうなりたくない気もする。

「……トモヤに聞いたら……分かるのかな」

 アイツも執着される側の人間だろう。
 それに俺という人間を理解してくれてる。
 トモヤに聞いたら、このよく分からないものを解決する糸口が、見えるかもしれない。

「よし! 明日、朝イチでトモヤの家に行こっ!」

 そうと決まったら、さっさと寝るに限る!
 俺は歯磨きをして、布団にダイブしたて

 ***

 <土曜日 9:09>
  

『ピンポーン』


 俺はトモヤの家のインターホンを鳴らす。
 カシャンと鍵が回った音がして、玄関のドアが開いた。

「おはよう。今日はいつもより早いんだね」

 柔らかい笑顔のトモヤが顔を出す。

(あ。いつものトモヤだ)

 トモヤの笑った顔はやっぱ良いよな。
 見てて、こう……気持ちがほわっとするんだ。

 眉を下げて、どこか寂しそうな笑顔じゃないほうがいい。
 いつものほうが似合ってる。

「おはよう。もしかして今起きたばっか? 寝ぐせついてる」
「えっ!? ほんと!? どこ?」

 慌てるトモヤを見て、俺は笑う。

 この時の俺は──今までの俺は、トモヤなら何でも笑って許してくれるって、思っているところがあった。

 だから、俺に対して、あんなに怒ったところを見たのは初めてだったんだ。
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