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82 俺の姫プレイと熱 ☆

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「それならおいで、僕が消してあげる」

 目の前のトモヤがニコッと笑う。

 これ、消してくれんの? 消えるの?
 ……ほんと?

 雪森のことなんて、もう思い出したくない俺は、トモヤをぎゅっと抱きしめ返した。
 そんな俺の背中をトモヤはポンポンと叩く。

「……その前に、お風呂出ようか。僕も濡れちゃったから、レンに着替えを借りなきゃ」

 **

 風呂を出て、着替えを済ませたタイミングで、またお腹の虫がグゥと鳴る。
 トモヤにクスクスと笑われた。とりあえず先にレンの作ったご飯を食べることにする。

 三人で談笑している間は、雪森のことを忘れられていた。

 手を洗うとき、歯を磨くとき、──鏡に映る俺が目に入ると、服の中に隠し切れないキスマークの痕が、ほんの数時間前のことを思い出させる。

 トイレから戻った俺は、ソファーに座っているトモヤの隣に腰を下ろした。
 レンの服を着ているトモヤの袖を、くんっと引っ張る。

「チヒロ? どうしたの?」
「……いつ消してくれんの」

 自分でも変な催促をしているなと思うけど、それよりもアイツの痕跡を感じたくない。
 全部消したい。今はそれが最優先だ。
 トモヤは袖を掴んでいる俺の手をポンポンとする。

「確認するけど、本当に僕のことは怖くない?」
「え? なに? 怖くないけど……」
「じゃあ、レンは? 怖くない? 抱きしめられても、平気?」
「えっ……!?」

 先日、抱きしめられて、おでこにキスされた時のことを思い出し、カッと顔が熱くなりそうになる。

「チヒロ……?」
「あ、うん。たぶん平気」

 俺が返事をすると、トモヤはレンを呼ぶ。
 キッチンで飲み物を準備していたレンが、その手を止め、ソファーへやってきた。
 俺を間に挟むようにして、隣に座る。

 トモヤがレンに説明をする。
 雪森の痕跡を消すのだと。
 互いのストッパーも兼ねて、レンも加わることになった。
 俺がやめて欲しいときに、もし止まらなかったら殴り飛ばせと言っている。

「もし、怖いとか気分が悪くなったりしたら、我慢しないでちゃんと言ってね」
「……チヒロ、絶対だからな」

 そう言って、二人は俺の手を取り、キスを落とした。

 ***

 トモヤが右から、レンが左から、俺の首に、鎖骨に吸い付く。
 二人の唇の肉感、舌と歯が当たってるのがよく分かる。
 トモヤの柔らかい髪とレンのサラサラとした髪。そのどちらもが俺の肌を撫でていく。

 「……はっ……あ……」

 なんか……すごい。視界の暴力すぎる。
 超絶と妖艶な二人が、俺の身体にキスをしているのだと思うと、『なんかすごい』としか言えない。

 ちゅっちゅと音を立てながら、二人は雪森の痕をひとつひとつ潰して回った。
 穢された証が、あざやかなくれないの花弁へと生まれ変わる。

「……チヒロ、大丈夫?」
「うっ……うんっ」
「……なら、続けるぞ。あとはどこだ? お前はどこが汚いと感じているんだ?」
「くちっ……と、乳……首」

 答えた後で、はぐっと口を噤んだ。
 ついポロッとそのまま言ってしまった。
 あとから羞恥が襲ってきて、顔が火照る。

「ちょ、ちょっと待って、今のはナシ。な……んんんっ!」

 俺の乳首が、二人の唇に包まれて消えた。
 さっきまでとは全く異なる、快感へと繋がる強い刺激に、声をあげそうになる。
 首の回りをキスされるのとは、訳が違った。

(なんだこれ、なんだこれ……ちょっと待って)

 コイツらは自分達の顔が良いことを、もっとしっかり自覚して欲しい。
 一人でもドキドキするのに、二人同時にというのは本当に心臓に悪い。
 上目遣いでこっち見ないで。俺を見ないで。

「あっ、ちょっ……んんッ……!」

 舌先が乳輪をなぞるように円を描く。かと思えば、チロチロと先端を舐め始めた。
 歯で軽く噛んで引っ張り、じゅるっと音を立てて強く吸い付く。
 ジンジンとした甘い痺れに、俺の腰が浮きそうになった。

「はっ、はぁ……んあっ……くっ!」

 俺を見つめる瞳の奥に、雄の色がチラチラと見え隠れする。
 二人に求められているような感覚に襲われて、快感がゾクゾクと背中を走った。

(やっっば……い)

 俺がまるで悪女にでもなって、二人を従えさせている……そんな気分になり、尾てい骨の奥がズクンと疼いた。
 カッカッと更に体温が上昇する。

 レンの顔が近づいた。
 俺とコイツの距離がゼロになる。
 頭の添えられたレンの大きな手。
 あの日と同じように、舌がぬるりと入ってきた。

 俺の口の中に残る、アイツの──雪森の残滓ざんしを、レンが甘い蜜へと変えていく。
 甘くとろけるその舌を、俺は夢中になって追いかけた。

「はっ……んあ……レ、んぅっ」

 あつい。熱い。うっすらと額に汗が浮かぶ。
 心なしか目も潤んできた。

 そんな俺を見て、レンが眉をひそめる。
 レンは唇を離すと、俺のおでこに手をあてた。

 大きな手が冷たくて気持ちいい……。

「おい、チヒロ。お前……熱が出てないか?」
「……へ?」

 自分じゃよく分からない。ただレンの手が気持ち良いので、おでこにスリスリと摺り寄せた。
 トモヤも俺の首元に手を伸ばす。

「うわっ、本当だ。もしかして結構上がってる?」

 レンが体温計を取りに、ソファーから離れる。
 戻ってきて、俺の熱を測った。ピピピと計測の終わった音が鳴る。

『38.1度』

 濡れタオルを持ってきたトモヤが俺の身体を拭きあげて、服を着せてくれる。
 レンは、俺を横抱きにして部屋へと運んだ。
 トモヤが布団をかけ、お腹の辺りをポンポンと叩く。

「精神的なストレスからきてるのかもね。ゆっくり休んで」
「……うん」

 おでこが熱い。全身があつい。
 でも、二人のおかげで、ずっと纏わりついていた嫌なものが剥がれ落ちた。
 身体は少しだるいけど、気持ちはどこかスッキリしている。
 
「レン、トモヤ……助けに来てくれて、ありがと」

 目が覚めた後で、ちゃんと言えていなかった言葉を伝える。
 
「どういたしまして。後のことは僕に任せてね。アイツにはもう手を出させないから」
「? うん?」

 口元に人差し指をあてたトモヤが、不敵な笑みを浮かべた。
 何をするのか聞いてはいけないやつだ……たぶん。

「……もう寝ろ」

 レンはそう言って、俺の頭を撫でた。

 やっと心から安心して息ができる。
 ほっと息を吐いて、俺はまぶたを閉じた。
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