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69 俺の姫プレイと互角
しおりを挟む──ガンッッ!!
合わせ鏡のような動きをした二人がぶつかり合う。
刃が擦れ合い、花火のような火花がいくつも散った。
細かな打撃音が続く。大振りな両手剣のはずなのに、双方の動きはそれを感じさせないほど早い。
互いに一歩も退かぬ、息もつかせぬ攻防に観客席はゴクリと生唾をのんだ。
──ガイィンッ!
大きな金属音を響かせて、二人は後ろへ飛ぶ。
互いにMP回復薬を煽ると、スキルをタップし、また接近戦を繰り広げた。
振り下ろした剣が、
斬り上げた剣が、
獣の鋭い爪のような弧を描く。
二本の剣が交差する。
何度も繰り広げられる深紅の応酬に、観客は沸いた。
『すげー! 妹ちゃん、めちゃくちゃ強ぇ!!』
『チヒロさんと張り合うとかマジかよ』
『凄すぎて……手が震えるんだが……』
戦士、レベル、深紅の大剣──目に見えるものは同格。
現時点で二人の力量は互角に見えた。
***
(……なるほどな)
俺の動きを完コピした『俺』と闘うってこんな感じなのか。
次の一手が全く同じというのは、なかなかやりにくい。
だが、お前のおかげで俺のクセが見えてきた。
──ガァアン!!
コウヅキの深紅の大剣を弾き返すと、俺はバックステップで下がった。
もう一本、MP回復薬をゴクリと飲み干し、ふぅと息をはいた。
「よし、覚えた。猿真似のままで、俺に勝とうなんざ十年早えよッ!」
スキルを一気にタップ。タイミングをずらしてコンボを決める。
俺との動きが合わなくなったコウヅキの剣が空を切った。
それを狙って、俺は瞬時に間合いを詰め、コウヅキの横腹を叩く様に薙ぎ払う。
「──がっ!!」
コウヅキが派手に吹っ飛び、ステージの上を転がった。
「ここんとこ……怯えたり、逃げたりで、ずっと鬱憤がたまってたんだ。悪いが、ここで晴らさせてもらう」
俺は深紅の大剣を構え直し、スキルを回す。
立ち上がり、剣を構えようとしたコウヅキが、目を見開く。
「おせぇよ」
深紅の爪が無数に襲いかかる。
俺のラッシュ攻撃に、コウヅキは防戦するしかない。
敵を追うのは俺、
敵を殴り飛ばすのも俺、
叩き切るのも、薙ぎ払うのも──全部、俺!!!
「お前は狩る側じゃねぇ! 狩られる側だっ!!」
「ぐっ!」
コウヅキがバックステップで俺から距離を取る。攻撃のダメージで体が重くなっているようだ。
肩でハァハァと息をつく。そこへ<スノウ>の賢者からの回復魔法が届いた。
俺の背後にも<暁>が揃う。サヨからの回復魔法が俺に届いた。
コウヅキも俺も、互いに剣を構え直す。
「サヨ、マサト、トモヤ、向こうの三人を頼む」
「分かっておる。任せておれ」
「誰も君の邪魔はしませんよ。チヒロ君」
「すぐ片付けてくるよ、チヒロ」
三人はそう言うと、各々配置につき、魔法や攻撃を展開し始めた。
コウヅキが「くひっ」と笑い、恋焦がれたようなうっとりした顔で俺を見つめる。
「あぁ……やっぱり、貴方は最高だなぁ~。ほんっと大好き。大好きだ」
「お喋りをしている暇があるのか──よッ!」
──ガンッッ!!
互いの刃と刃が嚙み合った。押しても引いても動かない。──バインドだ。
俺はすぐさま手首を返し、剣の角度を変えてバインド解除。
そのまま剣を突くように滑らせ、コウヅキの喉元を狙った。
コウヅキはそれを避けて、スキルを回し、俺にラッシュ攻撃を仕掛ける。
俺達は幾度となく剣技を繰り出し、また距離を取り、MP回復薬を煽った。
***
『ぶはっ! く……苦しい』
『ゲームなのに息するの忘れるとは、これいかに』
『二人が回復薬飲むタイミングじゃないと、休憩できねぇ』
『文字通り、息が詰まるわ』
兄の圧勝ですぐに終わる。
そう思っていた試合で、妹のチロがまさかこんなに健闘すると思っていなかった。
レベルや装備だけでなく、プレイヤースキルも恐ろしく高い。
なぜ、聖女職をやっていたのか? と試合を見ている皆が疑問に思うほどだった。
「「チヒロってば、ノリノリじゃーん!!」」
<エクソダス>の双子が、目を輝かせて、観客席の手すりから身を乗り出している。
レンは後ろの席で足を組み、中央ステージを見下ろした。
転生薬使用後のチヒロが<聖女>ではなく<戦士>として遊んだのは、レイドボスとコラボカフェのボス、あとは少し前に行った氷竜くらいだろう。PvP戦はその間、一度も遊んでいないはずだ。
「……ったくアイツに、ブランクという文字は無いのか」
レンの口から零れる。
コラボカフェのボス戦で間近に見た、チヒロのトライアンドエラー。
エラーを修正していく力がここでも発揮されている。
コウヅキのデータが蓄積され、チヒロは相手の動きを読み始めた。
観客席では、貴重なチヒロの負け試合が見れるかもしれないと、チロを応援する声が増える。
妹の下剋上を期待するプレイヤー達は、チロが攻撃を仕掛ける度に、大声で合いの手を入れた。
──本物の『チヒロ』は周りの人間を魅了する。
観客席のギャラリー達は、自分たちが応援している相手こそが『チヒロ』であることを、知らない。
互角だと思われていた二人の均衡は、少しずつ崩れつつあった。
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