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61 俺の姫プレイとオレの家

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 <日曜日 9:06>

「今日は、僕がチヒロの家に行ってみたい」

 朝起きると、トモヤが突然そんなことを言い出した。
 ニコニコと笑っているが、なぜだか『ノー』とは言えない雰囲気を感じる。

「いいけど……」
「ありがとう。楽しみだな~! 誰かの家に泊まるって、どれくらいぶりだろう?」
「えっ!? 泊まるの!?」

 てっきり、夜には帰るのかと思ってた!
 朝食を作って、テーブルへ運んできたトモヤが「ダメなの?」と聞いてくる。

「ダメじゃないけど……俺んち、トモヤの家より汚いよ?」

 部屋を片づける時間が、少し欲しい。
 洗濯物、干したままになってたかな?
 掃除機は……かけてねーな。
 昨日、ランニングから帰ってきて、着替えて即ここに来ちゃったし。

 頭の中でぐるぐると、家の状況が気になった。
 それと、あともう一つ。

「今日、俺んちに泊まって……明日、仕事は? どうすんの?」

 明日は月曜日。
 俺の家から直接、トモヤは仕事に行くのだろうか?

「ああ。それなら大丈夫。家で仕事してるから」
「そう、なんだ?」
「時間の縛りがない訳じゃないけど、比較的自由だからね」
「……ちなみに、何の仕事やってるのか聞いてもいい?」
「株のデイトレードなんだけど……」
「株! それでか!!」

 トモヤの机の上にある、この六台のモニターは、そういうことだったのか!!
 謎が解けて超スッキリ。
 トモヤがチャートだの、板だの、簡単に説明してくれたが、うん、うん。
 なるほど。さっぱり、わからん。

 朝食を食べ終えると、俺は自分が持ってきたものをデイバッグに詰め込み、トモヤは俺の家に持っていくものをバッグに詰め込んだ。

 ***


 <日曜日 14:33>

『シャルマン・フジ』

 マンション前に掲げられたプレートを見ながら、「ここなんだね」とトモヤが呟く。
 俺達は階段を上り、玄関のドアを開けた。

「トモヤ、ちょっと待っててくれる? 俺ちょっと、片付け──」
「お邪魔するね」

 俺を置いて、トモヤが先に中に入る。

「ちょ!?」

 トモヤはキョロキョロしながら、トイレや洗面所など、手当たり次第にドアを開け、中を確認している。俺はトモヤの肩に手を伸ばし、その行動を止めた。

「ちょっと待ってってば!」
「……チヒロ、ごめんね。つい、気になっちゃってさ。今日はタバコのニオイは無さそうだね?」
「え? あ、うん」

 突然のトモヤらしからぬ行動に驚いたが、俺が話したニオイのことを気にしていたのか。
 理由が分かり、俺は強く掴んでしまった肩から手を放す。

「部屋汚いって言ってたけど、キレイじゃない?」
「そうかな?」
「独り暮らしの男の部屋にしては、キレイなほうだと思うよ?」
「でも、掃除機かけてないから、ちょっとかけさせて」
「僕も手伝おうか?」
「いや、お客さんにやってもらうのは、ちょっと……」

 そう言って、俺はトモヤを一度、玄関先まで押し戻した。
 干しっぱなしになってた服を、全部クローゼットにぶち込む。
 ガーガーと掃除機をかけながら、折りたたみテーブルを位置を整える。

 玄関先まで一通り掃除機をかけ終わると、トモヤが「ねぇ」と話しかけてきた。

「……チヒロって、いつも家の鍵を玄関先に置いてるの?」
「え? うん」
「危なくない? 今、僕も簡単に触れるし」
「そうか? そもそもこの家に入る人間は、あんまいないしなぁ~」
「……ここ一ヵ月とか最近、この家に来た人はいる?」
「んー?」

 コードレス掃除機を元の位置に戻し、コードを差して充電する。
 トモヤは改めて「お邪魔します」と言って、部屋の中に入ってきた。

「ここ一ヵ月……そうだなぁ……置き配出来なかった荷物受け取ったり? 後はー……昨日話した、雪森さんにトイレ貸したくらいかな?」
「トイレを貸した? なんで? 公園で会う人なんだよね?」

 実は……と、雪森さんにトイレを貸した経緯を伝えた。
 トモヤは膝から崩れ落ちている。

「……チヒロ……ちょっと、こっち来て」

 手招きされて、何だ? と近寄る。
 トモヤは眼鏡をキラリと光らせ、俺のこめかみに拳を押し当てると、力いっぱいグリグリしだした。

「いだだだだだ!! いだい!!」
「君というヤツには、これでも、ぬるいくらいだよ!!」
「なんだよぉ……!」

 グリグリの刑を終えたトモヤは、額に手をあて、深い溜め息をついている。

「はぁ……チヒロのせいで、頭が痛い」
「いや、痛いのは俺なんですけど……」

 すっげぇ痛かった。まだズキズキする。

 俺は飲み物を淹れに、キッチンへ向かった。
 両手にマグカップを持ち、戻ると、トモヤは誰かにメッセージを送っているようだった。
 チラッと目に入った画面には、「入られてる」とか「セキュリティ」という言葉が並んでいる。

 折りたたみテーブルの上に、コーヒーを置く。
 トモヤは「ありがと」と言って、カップに口を付けた。
 二、三口ほど飲むと、トモヤは口を開く。

「チヒロ」
「なに?」
「僕としては、すっごく……ものすごーく嫌なんだけど、嫌で嫌で仕方ないんだけど……」
「だから……なに?」

 トモヤが、俺の顔を真剣な眼差しで見つめてきた。
 その顔はいつもの優しいトモヤと違いすぎて、ドキッと心臓が跳ね上がる。

「──君、少しの間でいいから、レンの家にいなよ」
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