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54 俺の姫プレイは終わり?
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──月、火、水、木、金
平日の俺は仕事へ行き、帰宅したら夕飯と風呂を済ませて、DFOにログインする。
『コウヅキ』の事は気味が悪いなと思うが、今のところ特に問題も無く過ごせていた。
アイツを気にしたところで、こちらが出来る対策なんてものは限られている。
ゲーム内では、接触しない。
これに尽きた。
実生活のほうは皆に相談した直後、マンション前では周囲を警戒したり、宅配も置き配に変更。
宅配のお兄さんを含め、自宅周辺での人との接触を減らしてみた。
引っ越しも視野に入れた方がいいのかと住宅情報サイトを覗いてみたが、希望の条件に合う物件は、すぐには出てこない。
「……住んで、一年もしない内に引っ越しとか厳しいしなぁ」
何も起きない日々が、俺の判断をどんどん遅らせ、鈍らせていく。
何しろ現時点では、俺そっくりなアバターを使ったプレイヤーが、俺の名前『コウヅキ』を名乗っているだけ。
実生活は、俺が『チヒロ』であることを知っている人物が、注意喚起と思われる手紙を入れていただけ。
それ以外は何も起きていない。
誰かに見られている気がするとか、後をつけられているとか、何かヒヤリとするような事も無かった。
このまま何も起こらないんじゃないかという気持ちと、懐にのしかかる引っ越し費用が、次に何かあったら考えるという事で良いんじゃないか……? という甘い考えの背中を押した。
***
<金曜日 19:48>
俺はゲームにログインすると、再度ギルの店へ足を運ぶ。
深紅の大剣を作って欲しいと頼めば、手持ちの素材が足りなくて作れないとの事だったので、今日は素材集めをする事にした。
バザーでピッケルを何本か購入し、竜馬に跨り、鉱石を採掘できるスポットへ向かう。
馬と一体になり、風を切って走っていると、トモヤからフレチャが飛んできた。
『チヒロ、今どこにいるの?』
『炎都の外。今から鉱石を取りに行く』
『一人で? 僕も一緒に行ってもいい?』
『いいけど、トモヤ他にやりた……』
『パーティー申請送るね。よろしく』
トモヤは『コウヅキ』の存在を知ってから、俺の心配をとてもするようになった。
ゲームにログインすれば、こうやって毎回フレチャが届く。
そして、俺が一人で行動してると知れば、飛んでくるようになった。
先に鉱石採掘スポットに到着した俺はピッケルを持って、カンカンと岩壁を叩いた。
くず石、鉄鉱石、プラチナ、そして稀に取れるレッドクリスタル。
レッドクリスタルを300個採掘するのが、本日の目標だ。
ただひたすらピッケルを振っていると、そこへトモヤがやってきた。
「僕も手伝うよ」
そう言って、隣でカンカンと岩壁を叩く。
「ありがと。悪いね!」
「今、掘ってるのはレッドクリスタルで合ってる?」
「そう! ギルんとこに、深紅の大剣の素材が無いらしくてさ~。だから今日は素材集め」
カンカンカン……叩きながら、俺達は雑談をする。
「その後、どう? また手紙が入ってたりしてない?」
「今のとこ、なんもなーい。案外、このまま何も起こらなかったりして~」
「気を抜くのは……オススメしないよ」
トモヤの声色が変わる。
経験者による言葉の重みというやつだろうか。説得力がある。
「わ……わかった……」
「本当に分かってるのかなぁ……?」
能天気に答えた俺に、トモヤが笑顔で、釘をブスブス刺してくる。
「分かったってば……」
「……そう?」
カンカンカンカン……。
一本目のピッケルが俺の手から崩れ落ちる。耐久値がゼロになった為だ。
俺は二本目を取り出し、また振り下ろした。
「チヒロ。もし、良ければなんだけどさ……」
「んー?」
「週末はうちに来ない? チヒロの安全と僕の安心も兼ねて、来てもらえたら嬉しいんだけど」
「迷惑にならない?」
「ちっとも。この前はゲーム終わった後も、話が出来たりして楽しかったし」
本当にいいのかな? と、チラリと顔を見れば、トモヤはニッコリ笑っている。
「トモヤが迷惑じゃないなら、行く」
「うん。どこかに出かける予定も無いから、いつ来てもらってもいいよ」
***
レッドクリスタルを300個集め終わった俺とトモヤは、ギルの店まで届けに行った。
「あー! 疲れたー!」
ぐーっと両手を伸ばして歩く。
トモヤがいなかったら、今もまだカンカンやってたんだよな……と思うと恐ろしい。
「お疲れ様」
「トモヤ、ほんとサンキュー!」
住宅街の中を歩いて、炎都の街中エリアを目指す。
<エクソダス>のチームハウスの前を通りかかると、またセイヤとレツヤが走ってきた。
「あ! チロりん見っけ!」
「あ! チロりん確保!」
隣にいたトモヤを突き飛ばし、双子はまた俺の腕をグイグイ掴む。
「ねぇねぇ、俺達、聞きたいことあるだけど」
「ねぇねぇ、この前チロりん『俺』って言ってたんだけど」
「「どういうこと!?」」
セイヤとレツヤが息をそろえて、俺に迫ってきた。
「「おかげで何も手に付かない」」「「ぐあ! ランキング落ちちゃう!」」と二人で暴れている。
あー……まぁ……コイツらになら、言ってもいいだろう。
俺は両手を腰にあて、二人に向かって宣言した。
「――実は俺、姫プレイを辞めることにしたんだ」
平日の俺は仕事へ行き、帰宅したら夕飯と風呂を済ませて、DFOにログインする。
『コウヅキ』の事は気味が悪いなと思うが、今のところ特に問題も無く過ごせていた。
アイツを気にしたところで、こちらが出来る対策なんてものは限られている。
ゲーム内では、接触しない。
これに尽きた。
実生活のほうは皆に相談した直後、マンション前では周囲を警戒したり、宅配も置き配に変更。
宅配のお兄さんを含め、自宅周辺での人との接触を減らしてみた。
引っ越しも視野に入れた方がいいのかと住宅情報サイトを覗いてみたが、希望の条件に合う物件は、すぐには出てこない。
「……住んで、一年もしない内に引っ越しとか厳しいしなぁ」
何も起きない日々が、俺の判断をどんどん遅らせ、鈍らせていく。
何しろ現時点では、俺そっくりなアバターを使ったプレイヤーが、俺の名前『コウヅキ』を名乗っているだけ。
実生活は、俺が『チヒロ』であることを知っている人物が、注意喚起と思われる手紙を入れていただけ。
それ以外は何も起きていない。
誰かに見られている気がするとか、後をつけられているとか、何かヒヤリとするような事も無かった。
このまま何も起こらないんじゃないかという気持ちと、懐にのしかかる引っ越し費用が、次に何かあったら考えるという事で良いんじゃないか……? という甘い考えの背中を押した。
***
<金曜日 19:48>
俺はゲームにログインすると、再度ギルの店へ足を運ぶ。
深紅の大剣を作って欲しいと頼めば、手持ちの素材が足りなくて作れないとの事だったので、今日は素材集めをする事にした。
バザーでピッケルを何本か購入し、竜馬に跨り、鉱石を採掘できるスポットへ向かう。
馬と一体になり、風を切って走っていると、トモヤからフレチャが飛んできた。
『チヒロ、今どこにいるの?』
『炎都の外。今から鉱石を取りに行く』
『一人で? 僕も一緒に行ってもいい?』
『いいけど、トモヤ他にやりた……』
『パーティー申請送るね。よろしく』
トモヤは『コウヅキ』の存在を知ってから、俺の心配をとてもするようになった。
ゲームにログインすれば、こうやって毎回フレチャが届く。
そして、俺が一人で行動してると知れば、飛んでくるようになった。
先に鉱石採掘スポットに到着した俺はピッケルを持って、カンカンと岩壁を叩いた。
くず石、鉄鉱石、プラチナ、そして稀に取れるレッドクリスタル。
レッドクリスタルを300個採掘するのが、本日の目標だ。
ただひたすらピッケルを振っていると、そこへトモヤがやってきた。
「僕も手伝うよ」
そう言って、隣でカンカンと岩壁を叩く。
「ありがと。悪いね!」
「今、掘ってるのはレッドクリスタルで合ってる?」
「そう! ギルんとこに、深紅の大剣の素材が無いらしくてさ~。だから今日は素材集め」
カンカンカン……叩きながら、俺達は雑談をする。
「その後、どう? また手紙が入ってたりしてない?」
「今のとこ、なんもなーい。案外、このまま何も起こらなかったりして~」
「気を抜くのは……オススメしないよ」
トモヤの声色が変わる。
経験者による言葉の重みというやつだろうか。説得力がある。
「わ……わかった……」
「本当に分かってるのかなぁ……?」
能天気に答えた俺に、トモヤが笑顔で、釘をブスブス刺してくる。
「分かったってば……」
「……そう?」
カンカンカンカン……。
一本目のピッケルが俺の手から崩れ落ちる。耐久値がゼロになった為だ。
俺は二本目を取り出し、また振り下ろした。
「チヒロ。もし、良ければなんだけどさ……」
「んー?」
「週末はうちに来ない? チヒロの安全と僕の安心も兼ねて、来てもらえたら嬉しいんだけど」
「迷惑にならない?」
「ちっとも。この前はゲーム終わった後も、話が出来たりして楽しかったし」
本当にいいのかな? と、チラリと顔を見れば、トモヤはニッコリ笑っている。
「トモヤが迷惑じゃないなら、行く」
「うん。どこかに出かける予定も無いから、いつ来てもらってもいいよ」
***
レッドクリスタルを300個集め終わった俺とトモヤは、ギルの店まで届けに行った。
「あー! 疲れたー!」
ぐーっと両手を伸ばして歩く。
トモヤがいなかったら、今もまだカンカンやってたんだよな……と思うと恐ろしい。
「お疲れ様」
「トモヤ、ほんとサンキュー!」
住宅街の中を歩いて、炎都の街中エリアを目指す。
<エクソダス>のチームハウスの前を通りかかると、またセイヤとレツヤが走ってきた。
「あ! チロりん見っけ!」
「あ! チロりん確保!」
隣にいたトモヤを突き飛ばし、双子はまた俺の腕をグイグイ掴む。
「ねぇねぇ、俺達、聞きたいことあるだけど」
「ねぇねぇ、この前チロりん『俺』って言ってたんだけど」
「「どういうこと!?」」
セイヤとレツヤが息をそろえて、俺に迫ってきた。
「「おかげで何も手に付かない」」「「ぐあ! ランキング落ちちゃう!」」と二人で暴れている。
あー……まぁ……コイツらになら、言ってもいいだろう。
俺は両手を腰にあて、二人に向かって宣言した。
「――実は俺、姫プレイを辞めることにしたんだ」
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