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53 俺の姫プレイとドッペルゲンガー

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「ビックリしすぎて……強制ログアウトかかっちまった……」

 ヘッドギアとリストを外した俺は、冷蔵庫にあるミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、ゴクリと飲んだ。

「俺の顔で、俺の名前……」

(誰だ? リア友……とか?)

 いや、違うな。
 アイツらは社会人になって、DFOを卒業した。
 もし、ゲームを再開したのなら、俺に連絡があってもおかしくないと思う。

 それに、気になる事がある。

(アイツ……『チロ』が『俺』だって、知ってる気がする)

 俺の顔をして、ギルの店で深紅の大剣を買って、「チロちゃん」って呼んだのは、ただの偶然……?
 名前はアバター名を見たから……とか?

 偶然にしては不自然すぎる。
 無理矢理、偶然という事で片付けようと思ったが、ダメだった。

 ぐるぐると答えの出ない迷路にハマっていく。
 知らない、分からないは、必要以上に不安を駆り立てた。

「……こういう時は、信頼できるヤツに相談が一番かな」

 ***


 チリンチリン


 炎都の酒場の扉が開く。
 強制ログアウトをした翌日、俺は<暁>メンバーとレンを酒場の個室へ呼んだ。

「うつけ、どうしたのじゃ? ここにレンまで呼んで……」

 隣に座ったサヨが、声をかける。
 俺はテーブルに肘をつき、口元で手を組む。
 その姿はさながら、どこかの司令官のようだ。

「なぁ……『コウヅキ』ってプレイヤー、知ってる?」
「「「「コウヅキ?」」」」
「うん。アバターの見た目は完全に『チヒロ』で、赤竜持ち。あと、使ってる武器は多分、深紅の大剣」

 プレイヤー名を言われても、ピンと来なかったようだが、プレイヤーの外見を聞くと「ああ」とマサトが反応した。

「最近、7chのDFOスレで噂になってきてる方ですね? 何やら、チヒロ君復活! って盛り上がってますけど」

 マサトがそう言いながら、ウインドウを開いて、掲示板を俺達に見せてきた。
 サヨは動画ページを開いて、そいつを検索している。

「ほほぅ。こやつか。確かに見た目は『チヒロ』じゃな」

 サヨが『コウヅキ』のボス討伐動画を再生し始めた。
 双竜との闘いが流れる。コウヅキは、やはり前衛職のようだ。
 トモヤもレンも見入っている。

「見た目だけじゃなく、この人『戦士』でカンストしてるんだね」
「……名前が『チヒロ』なら、完全にドッペルゲンガーだな」

 ボスと戦う前にやる癖も、戦闘も、何もかもが、俺そっくり。
 マサトは指をスッスッと動かし、掲示板をずっとチェックしていた。

「DFOスレだと『コウヅキ』は、チヒロ君のラストネームなんじゃないかって書かれてますね」
「……俺、ラストネームの存在なんて、トモヤと再会して初めて気づいたんだぞ? 使ったことねぇ」
「チヒロは、自分に必要ない情報はバッサリ忘れるタイプだからねぇ……」

 双竜戦の動画も後半に差し掛かる。
 俺のドッペルゲンガーは無駄な動きもなく、攻撃を重ねている。
 そして、双竜を撃破。
 チームメイトと喜んでいる姿が映っていた。

「しかし……この、うつけモドキは胡散臭いのぉ! ずっと見ておると、背中が痒くなりそうじゃ」
「ええ。本当に。サヨ様の言う通りです。こんな爽やかなチヒロ君は、チヒロ君ではありません!」
「猪突猛進じゃないチヒロなんて、チヒロじゃないよね」
「……チーム以外のプレイヤーにも笑顔で対応しているな。前言撤回する。コイツはお前の要素、皆無だ」

「え、あの……俺、ディスられてる……?」

 なぜだろう。メンタルにダメージを喰らっている気がする。

「それで、この『コウヅキ』とやらが、どうしたのじゃ? ソックリさん如きで、あれこれ言うお主でもあるまい?」
「実は、皆を信頼して言うんだけど、俺の本名って『上月千尋こうづきちひろ』っていうんだよね」
「え?」
「は?」
「……なんと」
「…………」

「昨日、ギルの店でコイツに会ったんだ。どうにも『チロ』が『俺』だって知ってる気がするし、会ったのも偶然じゃない……と思ってる」
「ちょ、ちょっと待って、チヒロ」
「リア友がふざけてるのかと思ったけど、そもそも『チヒロ』から『チロ』になった事を知らないはずだし。他に心当たりなんて…………あ」

 俺の脳裏に、くしゃっとなったルーズリーフが浮かんだ。
 レンが俺の反応を見逃さない。

「何かあるのか?」
「そういえば……この前レンとトモヤに会った日。郵便受けに『上月千尋さんへ』って書いてある手紙が入ってたんだよな……」
「? その手紙が、どうかしたんですか?」
「どうも直接投函された手紙みたいでさ、『貴方が<暁>のチヒロさんと知ってる者です』って書いてあった」
「うつけ……お主の自宅を、知り合い以外に把握されておるという事か?」
「あ。でも、手紙はそれっきりだったし。内容もあとは『変な若い男が来たら、絶対に関わらないで』としか書いて無かった。その後、何も無かったから、特に気にしてなかったな……」

 レンとトモヤが、口元に手をあてて考え込んでいる。

「……レン」
「……ああ。もしかすると、ストーカーの類……と考えていいのかもしれないな」
「ストーカー?」

 俺は二人に問う。トモヤが眉をハの字にして俺の顔を見た。

「僕も、レンも、ストーカーはある程度、経験あるからね」

 あー……二人ともイケメンだから。
 経験者は語るってやつ?

 マサトが眼鏡をクイッと上げる。

「手紙の主、または手紙に書かれている若い男と、この『コウヅキ』をイコールとするのは、少々強引にも思えますが、タイミングを見ても、まぁ、最有力候補位には考えても良いかもしれませんね」
「そうじゃのう。アバター名を『チヒロ』じゃなく『コウヅキ』にしている事を考えたら、お主にアピールしたかったのかもしれぬ」
「俺に……アピール……?」
「確かに、そうだね。『チヒロ』に成り代わりたいのであれば、名前も『チヒロ』にするのが妥当じゃないかな」
「……お前にアピールして、コイツは一体何がしたいんだ……?」

 皆が動画の『コウヅキ』を見た。
 動画再生が終わり、画面が暗くなる。

 双竜戦の動画をアップしていた名前は<スノウ>
 DFOランキングで一位になっていた、あのチームと同じ名前だった。
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