上 下
43 / 129

43 俺の姫プレイと氷竜とトモヤ 1

しおりを挟む
 <土曜日 8:26>

 週末のルーティン。
 朝、起きたら、近くの公園までランニング。
 スポーツブランドのロゴが入ったジャージを着て、俺は走った。

「はぁ……はぁ……」

 軽く汗ばんだところで、公園に到着。
 公園に着いたら、軽くストレッチ。
 ぐいぐいと体を動かしていると、かすかに犬の鳴き声が聞こえる。

「この声はもしかして……」

 キャンキャンと声が聞こえてきた方へ、俺は顔を向けた。

 最近、公園で出会った女の子。チーちゃんの声だ。
 ふわふわの茶色い毛玉と一人の男性が、俺の方へと近づいてきた。

「おはようございます。上月さん」
「おはようございます。 おおー! チーちゃん今日も元気だなー!」

 飼い主さんと挨拶をして、俺はもふもふとした毛を、ワシャワシャと撫でまくった。


 チーちゃんとの出会いは、数週間前に遡る。
 いつものようにランニングをし、ストレッチしていたら、俺に向かってワンコが走ってきた。
 リードの持ち手は地についており、犬の後をついて来る、ただの紐と化す。
 行動を制限されない、自由なワンコは興奮気味に走っており、その後ろから飼い主さんが「待って」と追いかけていた。

 それを見た俺は、走って来るワンコをガシリと捕獲する。

「すっすみません。ありがとうございます」
「いえいえ」

 ふわふわ毛玉のポメラニアンが可愛くて、別れ間際に触らせてもらう事にしたのだが、俺はその時、指をカプリと噛まれてしまった。

「だっ大丈夫ですか!? すみません」
「大丈夫です。ごめんな~ビックリさせちゃたかな」

 痛みや傷、出血も無かったのだが、心配性の飼い主さんは、もし何かあったら連絡して欲しいと必死だった。
 そういった経緯があり、俺は飼い主さんと互いに自己紹介をし、連絡先を交換した。

「俺は上月千尋こうづきちひろです。」
「俺は雪森奏ゆきもりかなでといいます。この子はチーちゃん。本当にすみませんでした。上月さん」

 雪森君とチーちゃんとは、この日以降、週末に会うと話しをするようになった。
 週末のもふもふ充電は、俺のちょっとした癒しになったのだった。

 ***


 朝のルーティンを終えた俺は、シャワーを済ませ、着替えた。
 デイバッグの中に、必要になりそうなものを入れて、靴を履き、また外へ出る。

 今日はトモヤの家に遊びに行くのだ。

 SNSで送られてきた住所を検索し、最寄り駅へ辿り着く。
 向かう途中のコンビニで、飲み物やお菓子を買って、俺はトモヤの住んでいるマンションに到着した。

「マンション前に着いた……ぞ」

 スマホでメッセージを書き込む。
 するとすぐに既読がつき、トモヤがマンション前まで降りてきた。

「いらっしゃい。道は迷わなかった?」
「へーきへーき」

 トモヤの案内でマンションの中に入っていく。
 トモヤの部屋は三階だ。俺達はエレベーターではなく、階段を使ってのぼった。

 玄関を開け、中に入る。
 部屋の中は白とダークブラウンを中心とした家具で整えられていた。
 おしゃれなその部屋の中で、ひときわ異彩を放った場所がある。
 トモヤのパソコン前。モニターが六台、上下左右にズラリと並んでいた。

「トモヤ、モニター……多くね?」
「あー……これは、ちょっとね。仕事で使うんだ」
「ふーん」

 トモヤはトラックボールマウスをクルクルと動かし、一番大きなモニターに氷竜戦の画面を映し出した。

「さっそくだけど、見る?」
「見る見る! 待ってました! っと、その前にこれ」
「わざわざ買ってきてくれたの? ありがと。じゃあ、僕はお菓子をお皿に移してくるよ」
「へーい」

 俺はトモヤがキッチンから戻ってくる前に、氷竜戦の動画再生ボタンをカチッと押した。

 ***


「チヒロ~、これ、飲み物はどっちが……?」
「ふんふふんふん~♪」

 チヒロは既に動画に集中していた。
 ボス戦の時に必ず歌っている鼻歌が聞こえる。
 瞬きを忘れたように見入ったチヒロは、ゲーミングチェアの上で、体育座りをしている。

(もしかして、これもチヒロの癖なのかな?)

 そんなことを思いながら、チヒロが持ってきてくれたお菓子と飲み物を、テーブルの上にコトリと置いた。

 **

「あー! ここでやられちゃったのかー!」

 まず一周目の視聴が終わったようだ。
 もう少し先が見たかったようで、チヒロが顔を覆っている。

「チヒロの目から見て、氷竜はどう?」
「めっちゃ面白そう!」
「……そうじゃなくてね」
「トモヤの言う通り、モーションがちょっと分かりづらいな」

 僕とチヒロで、あーじゃない、こーじゃないと話し合いをしていく。
 何度も動画を見返し、僕とチヒロで意見が割れる箇所が出てきた。

「……譲らないね?」
「譲らねぇよ」
「そう。分かった。ここは後日検証かな……うーん、次はいつ挑戦できるかな~?」

 僕はカレンダーを見る。
 前衛職は他から引っ張ってきてる為、なかなか気軽に行けないのがネックだ。
 僕が悩んでいると、チヒロがバッグを開けて、ゴソゴソとしだした。

「こんな事もあろうかと思って! 持ってきた!」

 バッグの中から出てきたのは、ヘッドギアとリスト。
 DFOを遊ぶために、必須な物達。

 しっぽを振って、全力で喜んでいるワンコのような顔をしたチヒロが、僕に向かってこう言った。

「──なぁ! 今から、ちょっとだけ検証しようぜ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

処理中です...