上 下
42 / 129

42 side にゃる美 歪み

しおりを挟む
『ちわ~! にゃる美ちゃん今日は早いね~』
『にゃる美配信はじまた』

 目に映るのは、ゲームと配信視聴者のコメント。
 にゃる美のいつもの風景。

「にゃは☆今日は早く起きたから始めちゃった☆」

 <エクソダス>のにゃる美と言えば、レン、セイヤ、レツヤと一緒にトップパーティーを組んでいるメンバーの一人だ。
 <エクソダス>のボス討伐動画を公開も、にゃる美がやっている。

 DFO最大人数を誇るチーム<エクソダス>
 チームに人が続々と増えているのは、彼女のおかげと言っていい部分もあった。

『そういや、にゃる美ちゃん。運営のイベント告知見た?』
「イベント告知? まだ見てにゃいなー☆」

 ウインドウを開いて、お知らせ欄をタップする。
 すると、そこにはウエディングイベントの告知があった。

「えーっ! にゃにこれ!? 結婚!?すごぉーい☆」

 ゲーム内で結婚が出来るイベント!?
 どういうこと!?
 目を皿のようにして、告知を読む。

『にゃる美ちゃん、俺と結婚しようぜ』
『抜け駆けすんな。俺にしようよ』
『いやいや拙者が』
『いや、お前誰www』

 コメント欄が、にゃる美への結婚申し込みで溢れ流れている。
 無視だ無視。にゃる美は、端から端まで告知を読んだ。

「にゃる美、結婚するならレンレンがいいなー☆」

 <エクソダス>のトップオブトップ、魔法剣士のレン。

 彼と結婚イベントが出来るなら、ここ最近落ちてきた動画の再生回数、視聴者数をもう一度増やす事が出来そうだ。

 そしてレンの結婚相手ともなれば、チームの回復職としての地位も、不動のものになるかもしれない。

 レンとセイヤ、レツヤは実力もあり安定しているが、にゃる美のいるポジションは競争が激しく、入れ替わりも多かった。
 実力不足と思われレンに「交代」と告げられれば、トップパーティーから降ろされる。

『にゃる美ちゃん、本当にレン好きだよね』
『レン様なら仕方ない』
『むしろ俺がレンと結婚したい』
『わかる』
「だぁって☆レンレンは、にゃる美の王子様だもん☆」

 配信コメントに返事をする。
 にゃる美の配信を見ている視聴者は皆、にゃる美はレンが大好きだと思っている。
 しかし、彼女の本心は別のところにあった。

(イケメンだろうが、ただのアバターに興味は無い。それよりも……これ以上、数字が落ちるとクレカの支払いキツいのよ……)

 再生数や投げ銭の収入を落とさない為にも、レンと結婚イベントをやりたい。
 いや、絶対にやる! と密かに意気込むにゃる美だった。

 ***

(レンレンから返事が無い……)

 今日の配信を終え、チームアジトに戻ったにゃる美が、チームメンバーに声をかける。

「ねぇ☆レンレン見なかった? どこにいるか知らない?」
「今日は、オレ見てないッスねー」
「あー……そういえばログインして、少ししたら外に行きましたよ」
「レンレンが外に……?」

 どこに行ったんだろう? と考えていると、レンとセイヤ、レツヤがアジトへ戻って来た。
 にゃる美はレンの元に駆け寄る。

「もう! レンレン連絡したのに、返事なーい☆」
「すまん。見てなかった」
「でもまぁ……会えたからいいや☆ねぇレンレン☆にゃる美と結婚してっ☆」

 配信で結婚イベント告知を知ってから、毎日のようにレンを追いかけ、結婚を申し込みをしていたのだが、レンからは「興味無い」とバッサリ切られていた。

(それで引き下がる訳には、いかないのよっ!)

「にゃる美と結婚したら、注目されて、もーっとチームメンバー増えるし、良い事づくめだと思うけど何がダメなの☆」
「………」

 溜め息をついたレンの後ろから、双子がひょっこりと顔を出す。

「にゃる美、レンはもう心に決めた人がいるんだよっ!」
「にゃる美、レンはもう結婚を申し込んだ子がいるんだよっ!」

 衝撃的な内容に呆然とする。
 今なんて……?

「レンレンが……結婚を申し込んだ…? 何それどういうこと? にゃる美が何回頼んでもダメなのに……なんで? 誰? 誰に申し込んだの!?」

 レンに言い寄ってるチームメンバー?
 街でキャーキャー言ってる女ども?
 誰よ? 誰? 誰誰誰誰!?

「「なんと! チロりんでーす!」」
「おい。セイ、レツ」
「すぐにバレるよ。レン」
「すぐに広まるよ。レン」
「チロりんって、チー君の妹……?」

 ギュッと握りしめた手が痛い。
 きっと現実世界の自分も、手を握りしめたのだろう。

 チヒロの妹って……ただ、それだけじゃん。
 兄がトップランカーチームで有名ってだけで、妹は何も無いじゃん。
 なのに、何で? 何でレンは、あの子を選んだの?

「ねぇ~レン。<エクソダス>に誘おうよ。あの子ゲーム上手いよ。俺は気に入っちゃった」
「ねぇ~レン。あの子、聖女レベル56だけど、すぐにカンストさせて赤竜行こうよ。俺も気に入っちゃった」
「……そうか」
「……えっ?」

 双子が気に入っている?
 あの子の職業は聖女なの?
 あの子が<エクソダス>に入る?
 赤竜討伐って……じゃあ私は? にゃる美は?
 レンと結婚イベントだけじゃなく、トップパーティーからも落とされる……?
 もう私はトップじゃいられなくなる?

「ダメっ! そんなのはダメなんだから! にゃる美がレンレンと一緒に赤竜行くんだから!」
「「えーっ! 俺達、チロりんと行ってみたいのにー!」」

 ダメよ! ダメ! 
 今月はブランドバッグも買っちゃった。
 昨日は、通販で服もたくさん買ったんだから!
 これ以上、再生数も投げ銭も落とす訳には、いかないのよ!!

 双子がぶーぶー言いながら、レンと一緒にチームアジトの奥の部屋へと移動して行く。
 にゃる美はその後ろ姿をジッと見つめた。

「許さない……ただ、チヒロの妹ってだけのくせに……たいした実力も無いくせに……。兄の栄光にすがって姫プしてる女が、私の場所を取ろうだなんて生意気なのよ……」

 にゃる美のキャラクターが剥がれ落ち、ブツブツとつぶやいた。
 自分の足元が崩れそうな展開に、怒りで震えそうになる。

 どす黒い感情が、お腹の中をぐるぐると駆け巡る。
 にゃる美は、親指の爪をギリギリと噛んだ。

 ***


 あの日以来、気付くと親指の爪を噛むようになっていた。
 爪がガタガタと歪んでいる。

(あの女がゲームしたくないって、思うようにするにはどうしたらいいんだろう? どうしたらログインしなくなるかな?)

「あ~……また、爪ボロボロじゃん。サイアク」

 爪の歪みに気を取られて、思考の歪みに気付かないまま、にゃる美は今日も配信をする。

『ちわ~! にゃる美ちゃん今日は早いね~』
『にゃる美配信はじまた』

 目に映るのは、ゲームと配信視聴者のコメント。
 にゃる美のいつもの風景。

「はぁ……どうしたら、レンレンは……にゃる美と結婚してくれるのかなぁ☆」

 先日、レンの大切な人がチロだと知れ渡った。
 にゃる美は溜め息をつき、シュン……としている。
 配信に集まる視聴者は、にゃる美を応援してくれていた。

『にゃる美ちゃんのほうが、可愛いのに』
『エクソダスのトップヒーラーだしね』

 にゃる美を賛美するコメントが流れる中、一つの書き込みが、彼女の目に止まった。
 アイコンがユキのマークになっている人の書き込みだ。

『DFOの裏スレを見てみたら? 参考になりそうなことが書いてあるかも』

(……裏スレ?)

 配信中に、その書き込みに反応する事はしなかったが、何だかとても気になった。

 今日の配信を終えた後、ゲームもログアウトし、充電中のスマホを手に取った。
 DFOの裏スレについて調べる。

「へぇ~……すごい」

 ゲームシステムの裏をかいた手法、ギャンブルや賭博など、現実世界で行えば犯罪に問われる物まで、無数にスレが立てられていた。
 にゃる美は、その中でチロを追いやるのに、最も効果的だと思うモノを見つける。

「あは! いいものみーつけた☆ユキマーク君ありがとねぇ」

 そう言うと、にゃる美は笑顔を浮かべながら、右親指で募集スレに書き込みをする。
 ボロボロに歪んだ爪は、もう元に戻ることは無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

処理中です...