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第一章 謎の男

第四話 ほぼムス。朋華の推理

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 なに? この微妙な空気は。二人で顔を見合わせちゃって。
 ふんっ、こんなことでわたしは負けないわ!
 あの謎の男はテロリストグループの一員なのよ、きっと。

「だって、区役所へ毎日来るってことは何かを探ってるんだよ」
「何を?」

 すかさず、おじさんからツッコミが入る。

「ずっと同じ場所で同じ時間にいるから、んーと……誰かの行動パターンとか?」
「誰の?」
「やっぱ偉い人じゃないかなぁ。区長さんとか?」
「区長?」
「うん、区長さん。……ダメ?」
「お昼休みに売店前をうろうろしている区長さんを見たことある?」
「……ない」
「でしょ?」
「あ"-っ! 何かそのドヤ顔、ムカつくー」

 ちょっとは話に乗っかってくれたっていいじゃない。
 まったくもう!

「おじさん、朋華ちゃんの話を聞いてあげなよ」

 ユウキちゃんがフォローしてくれた。
 ありがとう、かわいい妹分よ。

「ごめん。ちゃんと聞くよ。で、どうしてテロリストだと思ったわけ?」
「まー、テキトーなんだけどね」

 呆れながらも一応は聴くポーズをとっている二人。

「まず、なんであの場所かってことだと思うの」


 わたしなりの推理は、こうだ。

「売店前のホールって、入り口からすぐの所だから入るのも楽。ってことは、何かやってから逃げるのも楽ってことでしょ?」

 おじさんがあごに手を添えて短く切りそろえたひげをなでている。

「確かにそうだね」

 ユウキちゃんはソファから身を乗り出して相槌を打つ。

「それと、やっぱり誰かを見張ってるんじゃないかなぁ。人の出入りもチェックしやすいし」

 二人とも顔がマジな感じになって来たじゃない。これは手応えありかも。

「もう一つ決定的なのは電話が置いてあった台、ということよね。電話は無いけどコードが取り出せる穴は残ってるから、どこかにアクセスして監視システムの遠隔操作が出来るんじゃないかな」

 そうなの。電話ケーブルの取り出し口が残ってるんだ。
 既設の電話回線を利用したリモートアクセスなんて、ちょっとそれっぽくない?

「ケーブルが見える状態で残ってるの?」
「ううん。金属の丸いプレートで塞がれてる」
「見えないのに、そこからケーブルが出ていたなんてよく分かったね」
「何ていう映画か忘れちゃったけど、前にDVDで観たことがあるんだよね、そんな感じの話」
「へぇ、そういう映画も観るんだぁ。なんか意外」

 ユウキちゃんが言う通り、普段はアニメばかりだけれどね。

「朋華の観る映画って言うと、進撃の〇人や東●喰種、寄△獣のイメージだもんな」
「他にも教えてあげたでしょ。文ストとか」
「あぁ、あれは面白かったね。文豪の名前を登場人物に使うっていうアイデアがいい。異能力の名前に代表作を使うのもイメージしやすいし。そう言えば、前から思ってたんだけどさ、朋華って鏡花ちゃんぽいよな。夜叉白雪やしゃしらゆきを使いこなしそうだし」
「んー、それってなんか微妙」
「まぁこの話テロリスト説は、朋華の妄想にしてはよく出来――ぃがっ!」
「……妄想、言うな」

 わたしの異能で斬られなかっただけでもマシと思いなさい。


「マジな話、確かにテロを実行するなら、その場所が適しているかもしれない。でもあの区役所を目標とする理由がないよね。毎日、決まった時間に来て風貌を周囲の人に印象づけてしまっているのも、テロリストならばマイナス要因だよ」
「う"ー……」

 おじさんの正論に反撃の言葉もない。

「じゃ、テロリスト説は却下ということでよろしいでしょうか」

 むんっ、と伸ばした右拳をお腹の前で受け止められた。
 ふふっ、お見通しだぜと油断した表情を見せたその時、左拳で脇腹をえぐる。
 ぐほっ、それはやっちゃダメなやつ、マジに痛いと目で訴えている。
 腰に両手を当て、にっこりとドヤ顔オーラを放った。


「ハイハイ、二人ともじゃれ合うのはそのくらいにして」

 大人だなぁ、ユウキちゃんは。
 一番若いのに。

「さっきも言ったけど、リストラされたオジサンでしょ、きっと」
 彼女のクールな瞳にも、の小さな文字が浮かんで見えた。
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