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第一章 謎の男
第三話 『輪舞曲』の元マスター、ユキさんの推理
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てっきり、今回はわたしたちの話なんか聞いていなくて、二時間ドラマに集中していると思ってたのに。
声の主は事務所の隣にある喫茶店『輪舞曲』の元マスター、ユキさん。
お店は娘さん夫婦に任せて暇にしているのでよくここへ遊びに来ている。レトロな喫茶店のカウンターに立っていたら絵になるような、細身でお洒落なおじいさんだ。今日も襟の大きなシャツに紺のベスト、コーデュロイのジャケットでキメている。
おじさんの亡くなったお父さんとは幼なじみで、昔からおじさんも可愛がってもらっていたらしい。
この日もふらっとやって来て奥の方でテレビを見ていたはずが、謎の男の推理バトルにいきなり参戦してきた。前にわたしの自転車がなくなった時にも、ユキさんは「ストーカーの仕業じゃないか」って言ってたんだよね。
「きっと朋華ちゃんをこっそり見張ってるんだよ」
全然こっそりなんかじゃないよ。相手は堂々とお弁当を食べてるし。
それにわたしがいる売店の方なんか全然気にしてないもん。
独り言ってゆーか、ユキさんの独り推理が続く。
「わざと目立つようにしてるのかもしれないな。自分を印象づけるために」
なるほどぉ……って、んな訳ないから。それなら売店へ何か買いに来るでしょ。
そもそもストーカーなら、たまに行くバイト先じゃなくってこの辺をうろうろしてるんじゃない?
「小学生の頃と違って背も高くなったし、モデルさんみたいに綺麗になったからね」
え、あ、いや。確かに身長は伸びたけれど……。
ここは苦笑いするしかない。
「ほんと、朋華ちゃん、背が伸びたよね」
小柄なユウキちゃんがうらやましそうに言う。
わたしからすれば彼女の方が女の子らしくて可愛いと思うんだけど。
「今は何センチあるの?」
「百六十七かな」
「少し痩せたし――ぃぎっ!」
おじさんの余計な一言には光の速さで反応。
腰の入った正拳突きをおへその辺りに喰らわしてやった。
「女子にそういうこと言う!? まったく……」
「いや、可愛くなっ――ぁがっ!」
「可愛い、って言ったらブッ殺すって言ったよねぇ」
いつもより二段階ひくい声でにらみつける。
わたしは自分に自信がない。
もっと自信を持ってと言われても、素直に受け止められない。
わたしなんて可愛くないんだ、だからお父さんも――。
つい、そう思ってしまう。
そんな気持ちをおじさんは分かってくれている気もするけれど。
(もういい加減、照れ隠しに腹パンするのは止めろよぉ)
(照れ隠しなんかじゃないもん)
小声で文句を言いながら肘で小突いてきたので、負けじとやり返す。
(それと、乱暴な言葉遣いも止めなさい)
(いやだ)
(そもそもユキさんに文句言えよ)
(えー、言える訳ないじゃん。心配してくれてるのは分かるし)
(なら、腹パンもやめろよ)
(それは別もの~)
「いつも仲良いよねー、二人は」
ユウキちゃんが呆れてる。
「バイトの帰りも気をつけないと。後を尾けられるかもしれないよ」
ユキさんのストーカー説はまだ終わっていなかった。
「ハイ、気をつけます」
ここは素直に答えておかないと。
やっと安心したようで、ユキさんも二時間ドラマの世界へと戻って行った。
まさかストーカーの訳はないだろうけれど、ちょっと真剣に謎の男の正体を考えてみなきゃ。
「でね、マジな話、あの人はテロリストだと思うの」
声を潜めて二人の顔を見渡した。
声の主は事務所の隣にある喫茶店『輪舞曲』の元マスター、ユキさん。
お店は娘さん夫婦に任せて暇にしているのでよくここへ遊びに来ている。レトロな喫茶店のカウンターに立っていたら絵になるような、細身でお洒落なおじいさんだ。今日も襟の大きなシャツに紺のベスト、コーデュロイのジャケットでキメている。
おじさんの亡くなったお父さんとは幼なじみで、昔からおじさんも可愛がってもらっていたらしい。
この日もふらっとやって来て奥の方でテレビを見ていたはずが、謎の男の推理バトルにいきなり参戦してきた。前にわたしの自転車がなくなった時にも、ユキさんは「ストーカーの仕業じゃないか」って言ってたんだよね。
「きっと朋華ちゃんをこっそり見張ってるんだよ」
全然こっそりなんかじゃないよ。相手は堂々とお弁当を食べてるし。
それにわたしがいる売店の方なんか全然気にしてないもん。
独り言ってゆーか、ユキさんの独り推理が続く。
「わざと目立つようにしてるのかもしれないな。自分を印象づけるために」
なるほどぉ……って、んな訳ないから。それなら売店へ何か買いに来るでしょ。
そもそもストーカーなら、たまに行くバイト先じゃなくってこの辺をうろうろしてるんじゃない?
「小学生の頃と違って背も高くなったし、モデルさんみたいに綺麗になったからね」
え、あ、いや。確かに身長は伸びたけれど……。
ここは苦笑いするしかない。
「ほんと、朋華ちゃん、背が伸びたよね」
小柄なユウキちゃんがうらやましそうに言う。
わたしからすれば彼女の方が女の子らしくて可愛いと思うんだけど。
「今は何センチあるの?」
「百六十七かな」
「少し痩せたし――ぃぎっ!」
おじさんの余計な一言には光の速さで反応。
腰の入った正拳突きをおへその辺りに喰らわしてやった。
「女子にそういうこと言う!? まったく……」
「いや、可愛くなっ――ぁがっ!」
「可愛い、って言ったらブッ殺すって言ったよねぇ」
いつもより二段階ひくい声でにらみつける。
わたしは自分に自信がない。
もっと自信を持ってと言われても、素直に受け止められない。
わたしなんて可愛くないんだ、だからお父さんも――。
つい、そう思ってしまう。
そんな気持ちをおじさんは分かってくれている気もするけれど。
(もういい加減、照れ隠しに腹パンするのは止めろよぉ)
(照れ隠しなんかじゃないもん)
小声で文句を言いながら肘で小突いてきたので、負けじとやり返す。
(それと、乱暴な言葉遣いも止めなさい)
(いやだ)
(そもそもユキさんに文句言えよ)
(えー、言える訳ないじゃん。心配してくれてるのは分かるし)
(なら、腹パンもやめろよ)
(それは別もの~)
「いつも仲良いよねー、二人は」
ユウキちゃんが呆れてる。
「バイトの帰りも気をつけないと。後を尾けられるかもしれないよ」
ユキさんのストーカー説はまだ終わっていなかった。
「ハイ、気をつけます」
ここは素直に答えておかないと。
やっと安心したようで、ユキさんも二時間ドラマの世界へと戻って行った。
まさかストーカーの訳はないだろうけれど、ちょっと真剣に謎の男の正体を考えてみなきゃ。
「でね、マジな話、あの人はテロリストだと思うの」
声を潜めて二人の顔を見渡した。
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