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益者三友損者三友
しおりを挟む「ええと、これは玄武一家の三下の竜胆ぢゃ」
サギは竜胆を錦庵の面々に紹介した。
「三下ぁ?俺ぁ三下ぢゃねえぜ?」
「へ?違うのか?」
「当たり前だろうが。三下ってのは博徒の一番下っ端のことだぜ?俺はまだ博徒のうちにも入れてもらっちゃいねぇのによ」
「なんぢゃ、やっぱり使いっ走りのチンピラか?」
サギは遠慮ない。
「へへっ、まあな」
竜胆は実際に使いっ走りのチンピラなので気にするでもない。
「まあ、裏庭で立ち話もなんぢゃ。上がってもらえ。シメ、虎也の足枷を外してやれ」
我蛇丸はやおら腰を上げて縁側から座敷へ入った。
本日の吟味、あっさり終了。
カパッ。
「おっ、大福ぢゃっ」
サギが土鍋の蓋を開けると中に大福の包みが入っていた。
「ああ、軍鶏のお返し。蜜乃家に有り余ってる貰い物の菓子だけどよ」
手土産の器を返す時にお移りの菓子を入れてくるとは竜胆はなかなか心掛けが良い。
「こりゃ美味い大福なんぢゃぞ」
サギは喜色満面で大福の包みを錦庵の面々に見せる。
「お茶を淹れようかの」
シメは大福に手のひらを返したように笑んで調理場へ立った。
「ふおっ?餅がやわやわぢゃ」
「こりゃ美味いのう」
シメとハトは嬉しげに口に咥えた大福をビロ~ンと伸ばす。
「ところで、よう軍鶏鍋を置いていったのがわしぢゃと分かったのう?」
サギも口に咥えた大福をビロ~ンと伸ばす。
「あ、ああ、あの日はサギの他にゃ来るはずだった奴いねえし、軍鶏ってのがなんかサギっぽいし」
竜胆は歯切れが悪い。
「いや、土鍋を返しに来ただけなら桔梗屋へ行くはずぢゃ。普段はサギはあっちにおるんぢゃけぇのう。――竜胆とやら、お前、ホントはここへ虎也を探しに来たんぢゃろう?」
我蛇丸がギロッと眼光鋭く竜胆を見やる。
「うへ、なんでえ。バレちゃ仕方ねえ。ああ、夕べ、恵比寿の女中から虎也が児雷也と逢ってたとか、酔い潰れて鬼武一座の大男に背負われて帰ったとか聞いたからよ。けど、虎也は帰ってねえって同じ長屋の火消の連中が言うし、どこへ行っちまったのかなあって」
竜胆は恵比寿の女中からサギの姿もあったと聞いていたのだ。
桔梗屋に酔い潰れた虎也を連れていくはずはなし、他には錦庵しか思い当たらない。
「ふうん、虎也を心配して探しに来たということは、竜胆と虎也は仲良しなんぢゃなっ」
サギの言う仲良しは童の仲良しと同じで深い意味はない。
だが、
「へへっ、まあな」
竜胆は頭をポリポリと掻いて照れた。
「……」
虎也はといえば、竜胆が来てからずっと仏頂面して黙っている。
仲良しと言われても否定も肯定もしない。
「……」
我蛇丸は横目で竜胆を見ていた。
かなりの美少年ではあるが、だらしない姿勢や趣味の悪い派手な着物や品のない馬鹿っぽい表情や乱暴な言葉遣いが美しい顔立ちをすべて台無しにしている。
(やはり、児雷也のように非の打ち所のない類い稀なる美貌と麗質な立ち居振舞いを兼ね備えたというのはそうそうお目に掛かれるものではない)
我蛇丸はそう悦に入る。
「二人はいつからの仲良しなんぢゃ?」
サギが竜胆に訊ねる。
「ああ、ほれ、俺、十歳で芳町の陰間茶屋へ売られてきてすぐに明和の大火だったろ?江戸一帯が焼け野原だしよ、みんな田舎に疎開してたんだ。俺とメバル、ドス吉、虎也、松千代姐さん、蜂蜜姐さん、小梅、みんな一緒さ」
竜胆も口に咥えた大福をビロ~ンと伸ばす。
明和の大火は松千代が十三歳、虎也が十二歳、蜂蜜が十一歳、小梅が八歳の頃のことだ。
「ほおお、みんな幼馴染みなんぢゃな」
サギは納得顔をした。
「――ん?待て。何故、虎也がそんな童の頃に蜜乃家の人々と一緒に疎開しとるんぢゃ?」
我蛇丸はハタと疑問を持った。
まだ我蛇丸は熊蜂姐さんが玄武の親分の妾で、蜂蜜が玄武の親分との間に産まれた娘だという玄武一家と蜜乃家の繋がりしか知らない。
よもや、熊蜂姐さんが猫魔の三姉妹の母で、自分の実の祖母だとは知る由もないのだ。
「あっ、兄様にまだ話しとらんかったんぢゃ。うひひ、実はのう――」
サギがもったいぶって言い掛けると、
「――ご免っ」
裏木戸から低い声が聞こえた。
鬼武一座の坊主頭の大男だ。
「あっ、あの声は坊主頭ぢゃ。きっと虎也を引き取りに来たんぢゃ。吟味が済んだら簀巻きにして川へ投げ込むと言うとったからの」
サギが虎也に振り返る。
「す、簀巻きにして川へ?」
虎也はたちまち青ざめた。
あの坊主頭が角はなくとも鬼だというくらい虎也も気付いている。
いかに忍びの者だろうが人間が鬼に腕力で敵う訳もない。
「と、虎ちゃん。逃げようぜっ」
竜胆はあたふたと虎也の腕を掴んで座敷から縁側へ飛び出した。
「――あっ?」
竜胆は思わず足を止める。
「……」
目の前の裏庭には児雷也が立っていた。
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