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芋虫ゴロゴロ
しおりを挟むあくる日。
「いってまいりますぢゃっ」
サギは遅めの昼飯を食べ終えてから桔梗屋へ遊びにすっ飛んでいった。
裏へ廻ると、
「芋虫ゴ~ロゴロ~♪」
小僧等が裏庭で芋虫ゴロゴロをして遊んでいた。
「わしも入れとくれっ」
サギは張り切って竹垣をピョンと飛び越える。
ところが、
「お前のようなケチンボと遊ぶものか」
「そうだ。一人でカスティラの耳、食べくさって」
「唐変木のおったんちん」
「おととい来やがれっ」
食い物の恨みは恐ろしい。
小僧等はさんざん悪態をつくとサギを無視して芋虫ゴロゴロを続けた。
「――へ――?」
サギは茫然とする。
まさかカスティラの耳を独り占めしたら遊んで貰えぬとは思ってもみなかった。
「芋虫ゴ~ロゴロ~♪」
小僧等が連なって雪隠の姿勢で裏庭を行ったり来たりする。
「――ぢゃって、カスティラの耳が美味うて、いっぱい食べたかっただけなんぢゃ――」
サギは裏庭の隅っこにしゃがんでイジイジと言い訳しながら小枝で地べたをなぞった。
「――ゴ~ロゴロ~♪」
列の後尾の千吉が気にしてサギを見て、
「なあ?可哀想だ。入れてやろう?サギさんは犬としか駆けっこしたことないと言うとったから人付き合いというのを知らなんだよ」
他の小僧等に頼んでくれた。
「ああ、そうか。サギさんはつい一昨日、江戸へ来たばかりの山出しの田舎者だから仕方ないなっ」
一番年長の一吉のお許しが出て、サギは芋虫ゴロゴロに入れて貰えることになった。
「うわぃ、わし、先頭ぢゃっ」
サギはコロッと嬉しくなって芋虫ゴロゴロの先頭になる。
しかし、
「芋虫ゴ~ロゴロ~♪」
ゆったりとした唄の調子にも合わせず、先頭のサギは勇んで屈み走りをした。
「わわっ」
「速いっ」
「足が追いつかんっ」
「うわあっ」
後ろの四人は足がもつれて互いの帯を掴んだままゴロゴロと横倒しに転がった。
「うひゃひゃっ、これぞ芋虫ゴロゴロぢゃっ」
サギは小僧等を指差して大笑いする。
「サギさんが先頭はダメだ。真ん中に入れ」
「おうっ」
その後、サギが真ん中になっても後尾になっても屈み走りで歩調を乱し、小僧等をゴロゴロと横倒しに転がした。
「サギさんが入ると足並みが揃わんっ」
幾度も転がって小僧等は辟易とする。
「うひゃひゃっ」
サギは小僧等が幾度も転がるのが愉快で腹を抱えて大笑いした。
足並みを揃えるなどという世間並みの芸当をサギは持ち合わせていなかった。
「サギさんはまるで娘っ子とは思えん」
「お花様とは大違いだ」
「顔だけ美しいが、まるっきり小僧と変わらん」
「男女だっ」
サギに転がされて癪な小僧等は口々に喚いた。
「――う――っ」
サギは低く呻く。
男女《おとこおんな》。
小僧等の言葉は逆の意味で図星を突いていた。
たしかに『くノ一』であるサギは当たり前の娘ではない。
さらに厳密に言えば『くノ一』は女子ではないのだ。
「わ、わし、これでも娘らしゅうしとるつもりぢゃ。ほれ、髪だって今日は朱色の紐を結んどるしっ」
サギは馬の尻尾のように結んだ長い髪から垂れ下がった朱色の紐を差して一生懸命に娘らしさを主張する。
『くノ一』の正体を知られてはならない。
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