魔法少女は華麗に舞い散る

Cecil

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最後は最愛の人に看取られたい

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西側の魔法少女である私には、仲間にもそして東の魔法少女にも言えない事が、本当は言おうとしたけど言えなかった事がある。
 言って非難されるのが怖い訳ではなかった。
 ただ七海さんが、私を助けたとは言わなかったと、ダークメアに襲われてる人を助けたとしか言わなかったと、七海さんと同じ学校に通う友達に聞いたから、だから七海さんを裏切る様で、隠し通してくれた彼女の気持ちに反する様で、言えなかった。
 西の魔法少女の一人である愛川莉絵は、ビルに挟まれて死角になっている場所に、花束を手向けると、ごめんなさいと私がミスらなければ、七海さん貴女は死ななかったと、涙を流しながら謝る。

明里との時間を大切にしながら、七海はダークメア退治にも精を出していた。
 聖からは無理せずにだからねと言われて、ここあからは、恋人が出来て大人の階段を昇った人は違いますにゃと、からかわれながらも七海は今まで以上にダークメア退治を、張り切って行っていた。
 明里が安心出来る世界にしたい。
 愛する人に危険の及ばない平和な世界にしたいと、ただそれだけだった。

最近は、ちょくちょく怪我をしている七海を見る。
 以前よりも、怪我をしている七海を見る頻度が高くなった様な気がする。
 自分が平和に安全に暮らせる様にと、七海が無理をしているのがわかる。
 わかるからこそ、明里はあまり無理はしないでねと、お願いだから毎日元気な姿を見せてねと何度も何度も七海にお願いする。
 お願いする事しか出来ない自分が、歯痒くて悔しくて、正直情けないのだが、ただの人間の女の子の自分では……
 だからこそ、せめて七海に美味しい物をと、料理を頑張っていた。
 七海の代わりにダークメアと戦ってあげる事が出来ない。
 年上なのに、お姉さんなのに……そして恋人なのに、恋人が怪我をしてまで自分の為に、力のない人達の為に命の危険と隣り合わせで戦っている七海を、最愛の人を見守る事しか出来ない事が、そんな弱い自分が本当に情けなくて、本当に嫌だった。

大丈夫だよ。
 心配しないでと笑顔で言うけど、私は知ってるよ。
 七海、貴女が、本当は無理をしてるのを、痛む身体に鞭を打ってまで、ダークメアと戦っている事を、だから今日位は今日だけは戦いを休んで、私の側にいて私を安心させて欲しい。
「七海、今日位は休んで、私と一緒に居てほしい」
「明里?」
「お願い! 不安なの。怖いの。だから、今日だけでいいから、今日だけは私の側に居て私を抱いてよ! お願い……だから」
 明里の泣きそうな顔を見ると、不安で押し潰されそうな顔を見ると、七海は断れなかった。
 二人に、今日は明里の体調が悪いから看病したいからと、そう嘘を吐いてダークメア退治を二人にお願いすると、今日は一日明里といると決めて、まだ午前中にも関わらずに明里を抱く。

いつもは、七海が受けの状態が多いのだが、この日は、七海自身わからなかったのだが、明里を抱きたいと、愛する人の感じる顔を見たいと思ってしまった。
 何度も何度も明里を抱く。
 食事をするのも忘れて、明里が何度絶頂を迎えようが、七海は明里を抱き続けた。
 言い知れぬ不安に襲われていたのは、明里だけではなくて、七海もだったのかもしれない。
 いつ命を落とすかわからない。
 常に死と隣り合わせである。
 その事が、死んだら愛する明里の側に居られなくなってしまう。
 愛する明里を、こうやって抱く事すら出来なくなってしまう。
 そんな不安が七海にはあった。

出来るのなら魔法少女なんて辞めて、明里と普通の女の子として、彼女と過ごして行きたい。
 でも、そんはささやかな願いすら叶わない事を理解しているからこそ、七海は明里との時間を何よりも大切にしていた。
 明里との食事を、明里との何気ない会話の時間を、明里とのお風呂を、そして明里とのセックスをとても大切にしていた。

こんなにも、誰かを愛する事なんてもう二度ないだろうと、初恋が実って本当に良かったと、誰かを心から愛せる喜びを愛してもらえる喜びを知れて本当に良かった。
 そして恥ずかしいけど、セックスの快感を愛する人に絶頂へと導いて貰える悦びと、愛する人を絶頂へと導く悦びを知れて、本当に良かった。
 七海は、明里に感謝しながら優しく時に激しく明里を愛した。
 もしかしたら、七海は自分の命が長くない事を、悲しい事に本能的に理解していたのかも知れない。

明里の我儘で、数日学校を休んでまで明里と過ごした。
 いつもの大人の明里とは思えない程に、明里は七海に甘えていた。
 七海もそれを受け入れて、明里との時間を楽しみながら過ごした。
 これが二人で過ごした最後の時間になってしまった。

悲しい別れは突然やって来るものである。
 その日七海は、一人で街を巡回しながら、ダークメアが現れるポイントを纏めていた。
 奴らが現れるポイントが、ある程度絞れれば、力のない無力な人々が襲われる可能性を下げる事が出来るのではないか。
 明里の為でもあり、勿論その他大勢の為でもあった。

巡回中に、魔法少女がダークメアと戦っているだろうと思われる声を聞き、七海は声のする方に全力で駆け出した。
 
七海が現場に到着すると、一人の魔法少女が複数のダークメアと戦っていた。
 魔法少女は、完全に追い込まれている。怪我をして、まともに動けない様だ。
 そんな状況になりながらも、必死に抵抗を続けている魔法少女の目の前に、一人の魔法少女が現れて、大丈夫? と声を掛けながらダークメアを駆逐していく。
「貴女は、東の魔法少女」
 東のと言う言い方で、彼女が西側の魔法少女だと理解した七海だが、今は東も西も関係ない。
 
無事に彼女を避難させる。
 避難させたら、後は自分がこいつらを駆逐すればいい。
「私は七海でいいよ。君は?」
「愛川莉絵」
「莉絵かいい名前だね。莉絵、君は避難しなさい。ここは私が引き受けるから」
 莉絵が、でもと言った瞬間に、複数のダークメアが攻撃を仕掛けてきた。
 莉絵を守る為に、七海はダークメアの攻撃をまともに受けてしまった。

大量の鮮血の中七海は、大丈夫だから早く逃げなさい! と莉絵を急かす。
「で、でも、そんな傷じゃ貴女も危ないし」
「私なら大丈夫だから、早く……逃げなさい!」
 大量の出血で、意識が朦朧とする中七海は、莉絵に逃げなさい! と何度も叫んでいた。

莉絵はごめんなさいと絶対に死なないでと、泣きながら走り去った。
 莉絵が逃げたのを確認すると、七海はさぁ反撃の時間よと、真っ赤に染まるお腹を押さえるとダークメアを駆逐し始めた。
 その姿は、まるで鬼神の様相を呈していた。
 自分の血を振り撒きながら、次々とダークメアを駆逐していく七海。
 鬼神と化した七海によって、大量にいたダークメアは全て駆逐されていた。

「さすが私ね。でも、この傷はヤバイよね」
 出血が止まらない上に、莉絵を助ける為に無理をしてしまった。
 体力も魔力も、もう限界である。
 七海は、その場に崩れ落ちると、空を見上げながら、明里ごめんねとこんなに早く逝なくなってしまって、最後に明里の顔を見たいなと、明里の笑顔を思い浮かべる。
 やっぱり明里は、最高の恋人だよ。
 いつ死ぬかもわからない自分と恋人になってくれた。
 沢山愛してくれた。
 何度も何度も抱いてくれた。
 こんな自分に、愛される喜びと愛する喜びを教えてくれた。
 七海は、明里本当にありがとう。そしてごめんねと言うと、そのまま意識を失ってしまった。

明里から、七海が帰って来ないと連絡を受けた二人は、街中を探し回る。
 七海の魔力を探るが、全然探知出来ない。
 魔力を探知出来ないと言う事は、かなり危険な状態であると考えられる。
 多少怪我をした程度では、魔力が探知出来なくなる事はまずない。
 生まれつきの魔法少女なら、ある程度経験を積めば、魔力で魔法少女か普通の人間なのかの判断がつく。

陽菜の様に、成り立ての魔法少女には無理だが、陽菜も経験を積んでいけば、ある程度は魔力を探知出来る様になるだろう。

「聖、全然七海の魔力がわからないんだけど、聖はわかる?」
「いいえ。かなり危険な状況にあるのは間違いないわ。だから、急いで見つけましょう」
 聖とここあの二人は、焦る気持ちを抑えながら、ダークメアが現れそうなポイントをしらみ潰しに、探していく。
 捜索を開始してから、一時間が経過した頃やっと路地裏に倒れている七海を発見して、二人は七海に駆け寄る。

「七海! だいじよ……何て酷い怪我なの」
「聖、こっちにダークメアの残骸がある。それも大量にだよ」
「って事は七海は、一人で大量のダークメアの相手をしたと言うの?」
 二人は、七海に回復を施すが効果は薄い。
 大量に出血している為に、表面上は回復した様に見えるが、七海の意識は戻らない。
「聖、こっちに七海以外の血痕があるから、七海は誰かを助けて」
 二人は、どうして七海がこれ程までの重傷を負ってしまったのか、その理由を知りたかったが、先ずは七海を病院に連れて行くのが先決である。
 二人は、詮索を中止して、七海を病院へと運んでから、明里に連絡を入れた。

聖から連絡を受けた明里が、病室へと駆け込む。
 ベッドの上には、酸素マスクを付けられた七海が、七海の周りには沢山の器具が置かれているのが見える。
 それだけで、明里は七海が危ないのだと理解した。
 
七海は、魔法少女だから、いつかはこんな日が来るかもしれないとは、覚悟はしていたけれど、あまりにも早すぎる。
 恋人になって、僅か数ヶ月しか経っていないのに。
 何年も経っているのなら、もっと動揺せずにいられたのかもしれないけれど、数ヶ月じゃ無理だよ七海。
「七海は、どうなの?」
「持って数日だそうです」
「どうして? 何があったの?」
「明里さん。私達にも詳しくはわかりませんけど、大量のダークメアの死骸の一部がまだ残されていましたから、それと七海以外の血痕も」
 聖は、明里に多分ですけどと前置きをした上で、現場の状況から聖なりに導き出した推論を話す。
 ここあは、崩れ落ちそうな明里を支えながら、泣くのを必死に堪えている。

「七海、もう一度だけでいいから目を開けてよ。明里って、お姉ちゃんって呼んでよ」
 泣き崩れてもおかしくないのに、明里は量の瞼に大粒の涙を浮かべながら、必死に笑顔で、優しく七海に何度も語りかける。
 明里の思いが通じたのか、七海が目を開ける。
「七海!」
 三人は、七海と何度も呼びかける。
「あ、明里……聖……ここあ……しくじっちゃった」
 苦しそうに七海が、ごめんねと謝っている。
「そんな事はいいの。七海、死なないよね? 私を一人にしないよね?」
「ご、ごめんね……こんなにも早くに……明里を一人に……する事になって」
「嫌だよ。そんな事言わないでよ」
 我慢の限界に達した明里は、泣きながら一人は嫌だと、私が世話するから死なないでよ! と七海に何度も泣きながら懇願している。
「七海、何があったの?」
 聖は、七海がもう保たないだろうと思い何があったのかを、七海の手を握って泣きじゃくる明里の背中を摩りながら質問する。
「襲われてた人がいて……助けに入ったんだけど……逃す時に……攻撃を受けて……でもちゃんと逃がせたよ」
 そう笑顔で答える七海。
 明里は、死んだら許さないと、もっと思い出を作りたいと、子供の様に泣きじゃくるだけだった。

「うちからも質問いいかな?」
「最後……だから……何でも聞いてよ」
「七海は、魔法少女として生まれて幸せだったかにゃ? 明里さんの恋人になれて愛されて幸せだったかにゃ?」
「も、勿論だよ。明里には……感謝しかないし、二人にも……ありがとうの……き、気持ちで一杯だよ」
「そっか、ありがとう七海。後は心配しないで大丈夫だから、明里さんも七海が大好きなこの街も、聖とうちで守るから」
「お願い……します。明里……こんな私を……いつ死ぬかわからない私を……愛してくれて……本当にありがとう」
「七海。私こそありがとうだよ。小さい頃から、お姉ちゃんって慕ってくれて、恋人になってくれて、沢山沢山抱いてくれて、キスも沢山してくれて……本当に……ありがとう」
 大粒の涙を零しながら、明里は笑顔で七海に感謝を述べる。

「明里、聖、ここあ、本当に今までありがとう」
 そう伝えると、七海は再び意識を失ってしまった。
 それから僅か数日で、七海は亡くなった。
 西の魔法少女を助けたとは、最後まで言わなかった。
 言ってしまえば、ここあはその魔法少女を、愛川莉絵を一生恨んでしまうかもしれない。
 最悪莉絵を殺すかもしれない。
 同じ魔法少女なんだから、東も西も関係ないよと、皆んなで仲良くやろうよと、協力しようよと、いつも話していた。
 七海は最後まで、それを貫いて犠牲になった。
 西の魔法少女を助けて、天国へと旅立って行ったのだ。

七海が死んだと、風の噂で聞いた。
 莉絵は、やっぱり助からなかったんだと、あれだけの怪我を負えば、いくら魔法少女でも助からないよね。
 自分を助けなければ、自分の様な西の魔法少女を助けなければ、七海は死ななかったのにと、申し訳ない気持ちで七海が命を落とした現場に花を手向ける。

七海の死の原因が莉絵にある事は、莉絵を助けた為に七海が命を落としてしまった事は、死んだ七海と莉絵の二人しか知らない。

おっとりしているが、ダークメアには容赦はしない莉絵だったのだが、さすがに数が多すぎた。
 エリナと美代子に助けを呼ぶ事すら出来ずに、攻撃を受けて怪我をしてピンチになり半分諦めかけていた時に、七海が現れて助けてくれた。
 そして自分の代わりに犠牲になった。
「七海さん。七海さんが、ダークメアをあの時のダークメアを全て倒したと、噂に聞きました。凄いですねって、助けて頂いてありがとうございますって、直接言いたかったのにどうして死んでしまったんですか……死なれたらお礼も言えないじゃないですか」
 莉絵は、花を手向けながら、どうして死んでしまったんですか? と泣きながらごめんなさいと何度も謝っていた。
 
西側の魔法少女ではあるが、七海の死をキッカケに彼女は魔法少女が協力出来る道はないかと模索し始める事になる。
 勿論エリナと美代子の二人には内緒ではあるが、七海の死は無駄にはならなかったのである。
 歪み合っていたはずの、西側の魔法少女の一人である愛川莉絵の考えを変えたのだから、莉絵は出来るかわからないけど、時間は掛かるかもしれないけど、もう七海さんの様な犠牲を出さない為にも、東と西が協力出来る様に頑張りますねと、またここに来てもいいですか? と言うと力強く現場を後にした。

七海の死が莉絵を変えた。
 そして莉絵と同じ考えを持つ東の魔法少女になった陽菜。
 この二人が出会うのは、もう少し後になる。

明里は、七海の死後かなり落ち込んではいたが、毎日勉強を頑張っていた。
 彼女は、魔法少女専門のカウンセラーになりたいと、七海の死をキッカケに思いカウンセラーになる為の勉強を始めたのだ。
「七海見ててね。私、頑張るから……恋愛は暫くは無理だけどね」
 心から七海を愛していたから、気持ちを切り替えるのは容易くはない。
 暫くは、七海を想いながら生きて行こうと明里は、ゆっくりだが一歩ずつ前を向いて歩き始めた。
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