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◆番外編◆ 新年に訪れた神宮寺家で☓☓☓
#5
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私に満足そうなニッコリ笑顔をお見舞いした隼さんが、再び前に向き直って歩き始めて。
熱くなってしまった顔を両手で忙しなくパタパタと扇ぎつつ、隼さんの後に続いて歩みを進め、大広間の襖まであと数歩というところで、またまたこちらへ振り返ってきた隼さん。
もう振り返ってくることもないだろうと思っていたし、顔の熱を一刻も速く冷ましたくて、そればかりに気をとられてしまっていた私は、危うく隼さんに衝突する寸前で、やっとこさ足を踏み留めることができたのだった。
よって、眼前には、振り返って私のことを見下ろしている隼さんの甘いマスクがドアップで映し出されていて。
その所為で、隼さんの『夜の営み』発言を思い出してしまったものだから堪らない。
漸く、落ち着きを取り戻しつつあった顔がまたまた熱を取り戻して、真っ赤に逆戻りだ。
焦った私がなんとか落ち着かせようと、大きな深呼吸をしようと思ったところで、何故かスーッと手を差し伸べてきた隼さん。
要さんといい隼さんといい、手まで綺麗だなぁ……な~んて呑気なことを思っていると、隼さんの綺麗な手によって顎先は捕らえられてしまっていて。
――こっ……今度は何事ですか!?
隼さんの不意討ちに、私が真っ赤なまま呆けていると、鼻先が触れてしまいそうなほどの至近距離に迫ってきた隼さんの声が聞こえてくるのだった。
「まだ少し顔が赤いようですが大丈夫ですか?」
「はっ……はいっ。大丈夫ですッ!」
隼さんの声でハッとなった私が、ビクンッと大袈裟なくらいに身体を跳ね上がらせて、後ろに精一杯身体を仰け反らせた瞬間、くっくと肩を震わせて笑いを零した隼さんが、独り言ちるようにして、
「美菜さんは本当に初心で可愛らしい方ですねぇ?」
そう言ってきたかと思ったら、今度は、私の顎先を捕らえていた手で、頬をそうっと撫で上げつつ、
「そんなふうに大袈裟に反応されたら、もっとイジメたくなってしまうでしょう? それとも、僕にイジメてほしくてわざとそんな反応をしているのですか?」
感情の読み取れない無表情を決め込んだ隼さんが、冷たい眼差しで冷ややかに見下ろしてきて、意地悪な言葉を放ってきた。
その表情が、以前、静香さんがらみで意地悪なことを言われた時の表情と重なって、途端に、胸の鼓動が嫌な音を立て始めてしまうのだった。
――ここに居たら危険だ。
危険を察知した頭の中のもう一人の自分が、そう言って警鐘を鳴らすのに、どういう訳か、隼さんに冷たい眼差しを向けられてしまうと、逃げようにも、身体が思うように動かない。
まるで、獲物に狙いを定めた肉食獣に崖っぷちまで追い詰められた草食動物にでもなった心地だ。
ーーもう、逃げ場がない。
そう思った私がギュッとめいっぱい瞼を強く閉ざして縮こまっていると、
「以前にも思いましたが、美菜さんは僕と性的嗜好の相性が良さそうなんですけどねぇ? あぁ、兄さんも少しSっけがあるから相性がいいのかなぁ……。まぁ、僕としては、もう少し気の強さと胸元にボリュームが欲しいところですが。美菜さんの泣きそうな表情にも案外そそられましたし、胸は愛でれば育つかもしれませんし。美菜さんのような初心な女性を調教して自分好みに仕込むのも、それはそれで愉しそうですし」
隼さんが放つ意味深で怪しげな言葉が次から次へと耳に流れ込んできて、『胸』の件から『調教』まで話が及んだ頃には、なんだか頭がクラクラとしてきて……。
「まぁ、でも、いくら僕でも兄嫁に手を出すわけにもいきませんしねぇ……てことで、美菜さん、あなたには指一本、失礼、指では触れてしまいましたが、手は出しませんのでご安心ください。あれ? 首から上が真っ赤ですが大丈夫ですか? 少々刺激が強かったようですねぇ? 僕としたことが、すみません」
「……いっ……いえいえ、だっ、大丈夫です。はい」
話し終えたらしい隼さんが私の異変を察知し気遣ってくれた言葉に、私は返す傍から動揺しすぎるあまり、踏み出した足をぐにゃりとひねってしまい素っ転びそうになったところを、隼さんによって抱きとめられ、事なきを得たのだけれど……。
恐らく、お手洗いに行ったまま戻ってこない私のことを案じて様子を見に来ようとしてくれていたらしい要さんが大広間の襖を開け放ったのと、運の悪いことにタイミングが重なってしまい。
隼さんに抱きとめられてホッと安堵の息を零した私の視界には、たった今襖を開け放った要さんの鬼のような形相が映し出されているのだった。
熱くなってしまった顔を両手で忙しなくパタパタと扇ぎつつ、隼さんの後に続いて歩みを進め、大広間の襖まであと数歩というところで、またまたこちらへ振り返ってきた隼さん。
もう振り返ってくることもないだろうと思っていたし、顔の熱を一刻も速く冷ましたくて、そればかりに気をとられてしまっていた私は、危うく隼さんに衝突する寸前で、やっとこさ足を踏み留めることができたのだった。
よって、眼前には、振り返って私のことを見下ろしている隼さんの甘いマスクがドアップで映し出されていて。
その所為で、隼さんの『夜の営み』発言を思い出してしまったものだから堪らない。
漸く、落ち着きを取り戻しつつあった顔がまたまた熱を取り戻して、真っ赤に逆戻りだ。
焦った私がなんとか落ち着かせようと、大きな深呼吸をしようと思ったところで、何故かスーッと手を差し伸べてきた隼さん。
要さんといい隼さんといい、手まで綺麗だなぁ……な~んて呑気なことを思っていると、隼さんの綺麗な手によって顎先は捕らえられてしまっていて。
――こっ……今度は何事ですか!?
隼さんの不意討ちに、私が真っ赤なまま呆けていると、鼻先が触れてしまいそうなほどの至近距離に迫ってきた隼さんの声が聞こえてくるのだった。
「まだ少し顔が赤いようですが大丈夫ですか?」
「はっ……はいっ。大丈夫ですッ!」
隼さんの声でハッとなった私が、ビクンッと大袈裟なくらいに身体を跳ね上がらせて、後ろに精一杯身体を仰け反らせた瞬間、くっくと肩を震わせて笑いを零した隼さんが、独り言ちるようにして、
「美菜さんは本当に初心で可愛らしい方ですねぇ?」
そう言ってきたかと思ったら、今度は、私の顎先を捕らえていた手で、頬をそうっと撫で上げつつ、
「そんなふうに大袈裟に反応されたら、もっとイジメたくなってしまうでしょう? それとも、僕にイジメてほしくてわざとそんな反応をしているのですか?」
感情の読み取れない無表情を決め込んだ隼さんが、冷たい眼差しで冷ややかに見下ろしてきて、意地悪な言葉を放ってきた。
その表情が、以前、静香さんがらみで意地悪なことを言われた時の表情と重なって、途端に、胸の鼓動が嫌な音を立て始めてしまうのだった。
――ここに居たら危険だ。
危険を察知した頭の中のもう一人の自分が、そう言って警鐘を鳴らすのに、どういう訳か、隼さんに冷たい眼差しを向けられてしまうと、逃げようにも、身体が思うように動かない。
まるで、獲物に狙いを定めた肉食獣に崖っぷちまで追い詰められた草食動物にでもなった心地だ。
ーーもう、逃げ場がない。
そう思った私がギュッとめいっぱい瞼を強く閉ざして縮こまっていると、
「以前にも思いましたが、美菜さんは僕と性的嗜好の相性が良さそうなんですけどねぇ? あぁ、兄さんも少しSっけがあるから相性がいいのかなぁ……。まぁ、僕としては、もう少し気の強さと胸元にボリュームが欲しいところですが。美菜さんの泣きそうな表情にも案外そそられましたし、胸は愛でれば育つかもしれませんし。美菜さんのような初心な女性を調教して自分好みに仕込むのも、それはそれで愉しそうですし」
隼さんが放つ意味深で怪しげな言葉が次から次へと耳に流れ込んできて、『胸』の件から『調教』まで話が及んだ頃には、なんだか頭がクラクラとしてきて……。
「まぁ、でも、いくら僕でも兄嫁に手を出すわけにもいきませんしねぇ……てことで、美菜さん、あなたには指一本、失礼、指では触れてしまいましたが、手は出しませんのでご安心ください。あれ? 首から上が真っ赤ですが大丈夫ですか? 少々刺激が強かったようですねぇ? 僕としたことが、すみません」
「……いっ……いえいえ、だっ、大丈夫です。はい」
話し終えたらしい隼さんが私の異変を察知し気遣ってくれた言葉に、私は返す傍から動揺しすぎるあまり、踏み出した足をぐにゃりとひねってしまい素っ転びそうになったところを、隼さんによって抱きとめられ、事なきを得たのだけれど……。
恐らく、お手洗いに行ったまま戻ってこない私のことを案じて様子を見に来ようとしてくれていたらしい要さんが大広間の襖を開け放ったのと、運の悪いことにタイミングが重なってしまい。
隼さんに抱きとめられてホッと安堵の息を零した私の視界には、たった今襖を開け放った要さんの鬼のような形相が映し出されているのだった。
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