336 / 427
◆番外編◆ なにより愛しいもの~side要~
#7
しおりを挟む
勘違いしてしまっている美菜の瞳は、普段もクリッとした円つぶらな瞳をしているが、それにも増して大きく見開いたビックリ眼まなこをさっきまでの愉悦の所為かウルウルさせている。
そのいつもより増し増しの可愛らしさと艶っぽさを孕んだ美菜のその愛らしさは破壊力半端ない。
それをまともに食らってしまった俺は、もうメロメロの骨抜き状態で、もう勘違いしたままでもいいんじゃないかと思ってしまいそうなのをなんとか抑えて。
「いや、そうじゃなくて、俺がもし『社長』になっても『副社長』って呼ぶのかって話だ」
ニヤけてしまいそうな表情を引き締め美菜にやんわり言って聞かせると。
「////」
美菜は自分の勘違いが恥ずかしかったらしく、たちまち顔だけじゃなく全身を真っ赤にさせてしまっている。
世の中にこんなにも可愛らしい生き物が他に居るだろうか?
――あぁ、もう、どうしてくれよう。
俺の中に眠っていた加虐心がムクムクと湧いて出てきてしまう所為で、美菜を無茶苦茶にしてやりたいなんて邪な感情が頭を掠めてくる始末。
俺はそれらを必死になって抑え込んで。
「……で、美菜は、これから俺のことをどう呼んでくれるんだ?」
けれど、『もう副社長なんて呼ばせないぞ』という有無を許さぬ物言いになってしまうのは、これで留めることのできた俺へのせめてもの褒美なんだから目を瞑つぶってもらいたい。
「……ふ、副社長はどう呼んで欲しいですか?」
美菜は真っ赤になりながらも少し考えてから、ボソボソと呟くような小さな声で返してきたから、「要がいい」変わらず俺は有無を言わせない空気を漂わせつつ言ったのだが……。
何故か美菜のついさっきまで真っ赤だった筈の顔からは、血の気が引いていくみたいにあっという間に真顔になってしまった。
その直後、一瞬だけ、美菜は悲しそうな暗い表情を覗かせたかと思えば、
「……な、夏目さんと一緒の呼び方は嫌なので、『要さん』じゃ、ダメ……ですか?」
自意識過剰かも知れないが、美菜から返ってきた言葉は、まるで夏目に嫉妬して対抗しているかのような物言いで。
少なくとも俺には、そう思ってしまうような含みを孕んでいるようにしか聞こえなかった。
さっきから次々湧き出てくる加虐心を抑え込んだ俺のそんな必死な努力なんて吹き飛ばしてしまうくらいの威力を孕んだものだったから堪ったもんじゃない。
――これ以上俺を煽ってどうするつもりだ?
この時、美菜が一体何を考えていたかなんて知る由もない俺は、こうやって自分勝手なことを思ってしまっていた。
そんな俺は、まるで夏目に対して嫉妬しているみたいなことを言ってきた美菜に、どうしてそう言ってきたのかっていう理由を、もっとちゃんとした言葉として聞き出してやりたいという欲求に勝つことができなくて。
だってこれまでは、契約のこともあり、自分の意見なんて主張してくることなんてほとんどなかった美菜がこうやってちゃんと嫌だと言ってきたんだ。
まぁ、これまでは、俺が美菜にそうさせてしまっていたのだけれど……。
でも、美菜のことだ。これからはなんでも遠慮なく言えと言っても、きっと遠慮してこんな風には言ってはこないだろうから、こんなこと滅多にないかもしれない。
だから、美菜の口から何かを聞けるかもしれないこのチャンスを逃すわけにいかないっていう俺の気持ちも多目に見てもらいたい。
そんな風に、自分の中で言い訳をして、自分勝手だとは思いつつも、自分の欲求を抑えることのできなかった俺は、
「『要』も『要さん』もそう違わないだろう? 俺は、できれば『さん』なんて付けずに『要』で呼んで欲しい。なのに、どうしてそんなに夏目と同じ呼び方を嫌がるんだ?」
なんていう、意地の悪いことを美菜に言ってしまっているのだった。
それなのに、美菜から返ってきた言葉は、俺の思っていた以上の、そのまたはるか上を行くようなものだった。
「……な、夏目さんだけじゃなくて。女の人とデキなくなってからの副社長と、こういう関係だった男の人にも『要』って呼ばれてたのかと思ったら、悲しくなって、泣きたくなってきて……。でも、副社長の名前も好きだし、私も名前で呼びたい。……でも、……でも、一緒じゃ……イヤなんだもん」
最初は言いにくそうに小さな声でボソボソと呟くようなものだったのが、言っているうちに、段々と感情的になってきた様子の美菜はしまいには泣き出してしまって。
まるで小さな子供みたいに泣き出してしまった美菜は、泣き顔を晒したくはないようで。
俺の視線から逃げるようにして、とうとう両手で顔を覆い隠してしまっている。
そういえば、EDになってからというもの、寄ってくる女が煩わしくて、ずっとゲイだと匂わせていたため、まだ美菜のことを好きだという自覚がなかった頃だったし。
美菜にも俺が夏目と同じようにバイだという風に言っていたんだったなぁと、美菜の言葉を聞いてやっと思い出すことができた。
そんな間抜けな俺が美菜にちゃんと説明してやろうと、これまでのことを思い返していたところへ、
「……わ、煩わしいこと言って、ごめん……なさい」
どういう訳だか、急にそう言ってきた美菜の最後紡ぎ出された『ごめんなさい』という悲しそうな涙で震えた切ない声が、途切れ途切れに何度か俺の耳に流れ込んできた。
そのいつもより増し増しの可愛らしさと艶っぽさを孕んだ美菜のその愛らしさは破壊力半端ない。
それをまともに食らってしまった俺は、もうメロメロの骨抜き状態で、もう勘違いしたままでもいいんじゃないかと思ってしまいそうなのをなんとか抑えて。
「いや、そうじゃなくて、俺がもし『社長』になっても『副社長』って呼ぶのかって話だ」
ニヤけてしまいそうな表情を引き締め美菜にやんわり言って聞かせると。
「////」
美菜は自分の勘違いが恥ずかしかったらしく、たちまち顔だけじゃなく全身を真っ赤にさせてしまっている。
世の中にこんなにも可愛らしい生き物が他に居るだろうか?
――あぁ、もう、どうしてくれよう。
俺の中に眠っていた加虐心がムクムクと湧いて出てきてしまう所為で、美菜を無茶苦茶にしてやりたいなんて邪な感情が頭を掠めてくる始末。
俺はそれらを必死になって抑え込んで。
「……で、美菜は、これから俺のことをどう呼んでくれるんだ?」
けれど、『もう副社長なんて呼ばせないぞ』という有無を許さぬ物言いになってしまうのは、これで留めることのできた俺へのせめてもの褒美なんだから目を瞑つぶってもらいたい。
「……ふ、副社長はどう呼んで欲しいですか?」
美菜は真っ赤になりながらも少し考えてから、ボソボソと呟くような小さな声で返してきたから、「要がいい」変わらず俺は有無を言わせない空気を漂わせつつ言ったのだが……。
何故か美菜のついさっきまで真っ赤だった筈の顔からは、血の気が引いていくみたいにあっという間に真顔になってしまった。
その直後、一瞬だけ、美菜は悲しそうな暗い表情を覗かせたかと思えば、
「……な、夏目さんと一緒の呼び方は嫌なので、『要さん』じゃ、ダメ……ですか?」
自意識過剰かも知れないが、美菜から返ってきた言葉は、まるで夏目に嫉妬して対抗しているかのような物言いで。
少なくとも俺には、そう思ってしまうような含みを孕んでいるようにしか聞こえなかった。
さっきから次々湧き出てくる加虐心を抑え込んだ俺のそんな必死な努力なんて吹き飛ばしてしまうくらいの威力を孕んだものだったから堪ったもんじゃない。
――これ以上俺を煽ってどうするつもりだ?
この時、美菜が一体何を考えていたかなんて知る由もない俺は、こうやって自分勝手なことを思ってしまっていた。
そんな俺は、まるで夏目に対して嫉妬しているみたいなことを言ってきた美菜に、どうしてそう言ってきたのかっていう理由を、もっとちゃんとした言葉として聞き出してやりたいという欲求に勝つことができなくて。
だってこれまでは、契約のこともあり、自分の意見なんて主張してくることなんてほとんどなかった美菜がこうやってちゃんと嫌だと言ってきたんだ。
まぁ、これまでは、俺が美菜にそうさせてしまっていたのだけれど……。
でも、美菜のことだ。これからはなんでも遠慮なく言えと言っても、きっと遠慮してこんな風には言ってはこないだろうから、こんなこと滅多にないかもしれない。
だから、美菜の口から何かを聞けるかもしれないこのチャンスを逃すわけにいかないっていう俺の気持ちも多目に見てもらいたい。
そんな風に、自分の中で言い訳をして、自分勝手だとは思いつつも、自分の欲求を抑えることのできなかった俺は、
「『要』も『要さん』もそう違わないだろう? 俺は、できれば『さん』なんて付けずに『要』で呼んで欲しい。なのに、どうしてそんなに夏目と同じ呼び方を嫌がるんだ?」
なんていう、意地の悪いことを美菜に言ってしまっているのだった。
それなのに、美菜から返ってきた言葉は、俺の思っていた以上の、そのまたはるか上を行くようなものだった。
「……な、夏目さんだけじゃなくて。女の人とデキなくなってからの副社長と、こういう関係だった男の人にも『要』って呼ばれてたのかと思ったら、悲しくなって、泣きたくなってきて……。でも、副社長の名前も好きだし、私も名前で呼びたい。……でも、……でも、一緒じゃ……イヤなんだもん」
最初は言いにくそうに小さな声でボソボソと呟くようなものだったのが、言っているうちに、段々と感情的になってきた様子の美菜はしまいには泣き出してしまって。
まるで小さな子供みたいに泣き出してしまった美菜は、泣き顔を晒したくはないようで。
俺の視線から逃げるようにして、とうとう両手で顔を覆い隠してしまっている。
そういえば、EDになってからというもの、寄ってくる女が煩わしくて、ずっとゲイだと匂わせていたため、まだ美菜のことを好きだという自覚がなかった頃だったし。
美菜にも俺が夏目と同じようにバイだという風に言っていたんだったなぁと、美菜の言葉を聞いてやっと思い出すことができた。
そんな間抜けな俺が美菜にちゃんと説明してやろうと、これまでのことを思い返していたところへ、
「……わ、煩わしいこと言って、ごめん……なさい」
どういう訳だか、急にそう言ってきた美菜の最後紡ぎ出された『ごめんなさい』という悲しそうな涙で震えた切ない声が、途切れ途切れに何度か俺の耳に流れ込んできた。
0
お気に入りに追加
1,144
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します
佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。
何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。
十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。
未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる