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◆番外編◆ 消えないもの~side要~

#9

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椅子から落ちずに済んだものの、あまりの驚きに椅子の背面に抱き着くような体勢で。

夏目のことを凝視し続けることしかできない俺の間抜けな姿を楽しげに見下ろしてくる夏目、というなんとも滑稽でなんとも異様な光景だ。

夏目の言うように、酒を呑むというよりほぼ毎回のように酒に呑まれてしまっていたため、その時の記憶なんてなかったから、夏目の言葉を待つしか方法が他にないのだから仕方ないのだが……。

「やっぱりかよ? お前、やったと思ってたんだな? 言っとくけど俺、男とする時でも攻めの方だからな……って、分かるよな? 女抱くのと一緒で、アレ突っ込む方。一緒っつっても突っ込む場所はアナーー」

「ちょっと待て、ストーップ!」

夏目の話に集中して黙って聞いていた俺の耳に、なにやら可笑しなモノが流れ込んできたため慌てて制した俺に。

一瞬不思議そうに小首を傾げた夏目だったが、そこは優秀な秘書である夏目、俺の言いたいことを察したようで。

「俺がいくらバイだからっつっても、酒に酔ってる大事な親友、しかもノンケの要に、無理矢理突っ込むようなことできないからな?

まぁ、アレが勃たないって泣くように言うから、酔った勢いで、試しに手でやってやったりはしたけどさぁ。

いっつも要は『美優、美優』って悩ましげに連呼するから、その気にもなんねーし? だから、俺も要も突っ込んだりしてねーから……ってことで、一件落着、OK?

まぁ、それでも、美菜ちゃんには言わない方がいいだろうけどなぁ……。

けど、これでなんの気兼ねもなく美菜ちゃんのこと抱けるだろう?」

俺が聞きたかった肝心なことを話してくれたはいいが、何やら気になるところもチラホラあった気がしないでもないのだが……。

まぁ、でも、俺と夏目は、どうやらそういう関係にはなってはいないようだった。

……が、しかし、そうだったからって、美菜のことをすぐどうこうしようなんて気持ちになれる筈がない。

ついさっき、夏目にも言われてしまったように、今までのことを振り返ってみてみれば……。

美菜のことを好きになって、傍に居させたかったからといって、無理矢理契約を交わさせた挙句、美菜のことを振り回しといて、自分勝手にもほどがある。

美菜に、こんな俺のことを好きになってもらえたのが不思議なくらいだ。

それに、美優とのことを美菜にどう話せばいいものか……。

まだ婚約はしていなかったものの、俺は美優と結婚まで考えていた。

それを美菜に話したとして、美菜だってきっといい気なんてしないだろうし。

一つが解決しても、こうやってあとからあとから懸念材料が出てきてしまう。

好きだって気持ちだけじゃどうにもならないことがあるってことを思い知らされた気がした。

俺が今まで美菜にしてきたことがどんなに身勝手だって言われても、どんなに卑怯だって言われても……。

それでも、やっと巡り逢えた美菜のことを手放したくはない。

せめて、これからは美菜のことを大事にしていきたい。

――美菜に、俺のことを好きになったことを後悔だけはさせたくはない。

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