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◆番外編◆ かなわないもの~side要~
#1
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風邪のせいで高熱を出し入院することになった美菜が眠っているせいだろうか。
静まり返った病室は照明のお陰で眩しいくらいに明るい筈なのに、とても暗く感じられる。
美菜の明るい笑顔が見られないだけで、美菜の明るい声が聞けないだけで、こんなにも違ってしまうものらしい。
俺なんかが傍に付いていたからって、何もしてやれないというのに……。
それでも俺は、美菜の傍から片時も離れることができないでいた。
「美菜ちゃんの荷物ここに置いとく。またなんか必要になったら、連絡くれたらすぐ用意する……って。おい、要? 聞いてんのか?」
美菜の着替えやなんやかんやを買いそろえて戻ってきていた夏目に、声を掛けられるまで。
俺は、夏目の存在にも気づかずに、熱にうなされ続ける美菜の手を優しく包み込んだまま、ボンヤリとしていたようだ。
「……あぁ、夏目。帰ってたのか?」
美菜の眠るベッド近くのソファに荷物を置いた夏目の方に、ゆっくり振り返りながら声を出す俺に、夏目はホトホト呆れたっていう表情を隠しもせずに、
「『帰ってたのか?』じゃねーよ。美菜ちゃん、ただの風邪だったんだろ? なのに、要がそんな深刻な表情してたら、美菜ちゃんが不安になるだろう?
入院してた美優と重なっちゃうのは仕方ねーけど。美菜ちゃんは美優とは違うんだから、安心しろって」
同じ歳のクセして、美優の兄だからって俺にまで説教じみたことを言ってくる。
譲といい、夏目といい、どいつもこいつも同じことを言ってくる。
――そんなことは、譲や夏目に言われなくても分かっている。
夏目に関して言えば、どうやら俺のことっていうよりは、美菜のことが気にかかって仕方ないようだけれど。
それに、俺は別に美菜のことを美優と重ねて見ている訳じゃない。
昔、美優がそうだったように、"美菜が夏目のことを想っている"ってことが面白くないってだけだ。
――どうして、いつもいつも、夏目なんだ?
俺がどんなに美優のことを大事に想っていても、それが叶うことはなかった。
いつも手に入るのは、“本当に欲しいもの”じゃなく、“どうでもいいもの”ばかりだ。
――美菜の心に、俺のこの想いが届く日が来るんだろうか?
「あぁ。お前に言われなくても、そんなこと分かってる。
それより、夏目がそんな薄情なヤツだったとは知らなかった。お前は、美菜のことが心配じゃないのか?」
やっと忘れかけていた筈の遠い記憶が頭を掠め、うっかり夏目に当たってしまう俺は、あの頃から少しも成長できてないのかも知れない。
夏目が美菜のことをどう思っているかが気になって、ちゃっかり探りを入れるようなマネまでする始末だ。
そのクセ、怖くて、核心には触れることができないでいる。
「はぁ!? そりゃ、心配に決まってるだろう? 美菜ちゃんは美優と一緒で、妹みたいなもんだからなぁ?
真っ白な穢けがれを知らない処女の美菜ちゃんが、要色に染められて、やらしーことを色々仕込まれて、それを一生懸命やっちゃうのかと思うと……。
もー心配で、心配で、お兄さんとしては堪んねーわぁ。なーんてなぁ……。
さーて、バカなこと言ってねーで、そろそろ会社に戻るとすっかなぁ?
倒れちゃった副社長のスケジュールの調整やなんやかんやで、優秀な秘書の俺は超いそがしーしー。
要も、美菜ちゃんと一緒にしっかり休んどけよ? 美菜ちゃんが良くなったら、もうお前の休む口実なんてなくなるんだからさぁ」
そうやって、いつものように、明るく軽い口調で茶化すようにして返してきた夏目の言葉を聞きながら……。
「……あぁ、分かった。悪いが、そうさせてもらう」
なんでもない風を装って、夏目に適当な言葉を返したものの、覚醒してた筈の意識がまた、まるで霞でもかかったかのように、ぼんやりとしていく。
夏目は、なんやかんや言いながらも、冷静にちゃんと周りのことをいつもよく見ていて、仕事もデキる優秀な奴だ。
相手が誰であろうと、こうやってさりげなく気遣える奴だから、人として秘書として、勿論親友としても信頼している。
……悔しいが、美菜が好きになるのも当然なんだろうと思う。
――契約なんて鎖でがんじがらめにして、縛っておくことしかできない俺なんかを好きになってくれる訳がない。
そうと分かってはいても、いつの間にか大きくなりすぎてしまった美菜へのこの想いは、もう抑えておくことなんてできそうにない。
相変わらず、熱にうなされ続ける愛おしい美菜の汗をそっと拭ってやりながら、俺は考えたってしょうがないことばかりに囚われてしまっていた。
静まり返った病室は照明のお陰で眩しいくらいに明るい筈なのに、とても暗く感じられる。
美菜の明るい笑顔が見られないだけで、美菜の明るい声が聞けないだけで、こんなにも違ってしまうものらしい。
俺なんかが傍に付いていたからって、何もしてやれないというのに……。
それでも俺は、美菜の傍から片時も離れることができないでいた。
「美菜ちゃんの荷物ここに置いとく。またなんか必要になったら、連絡くれたらすぐ用意する……って。おい、要? 聞いてんのか?」
美菜の着替えやなんやかんやを買いそろえて戻ってきていた夏目に、声を掛けられるまで。
俺は、夏目の存在にも気づかずに、熱にうなされ続ける美菜の手を優しく包み込んだまま、ボンヤリとしていたようだ。
「……あぁ、夏目。帰ってたのか?」
美菜の眠るベッド近くのソファに荷物を置いた夏目の方に、ゆっくり振り返りながら声を出す俺に、夏目はホトホト呆れたっていう表情を隠しもせずに、
「『帰ってたのか?』じゃねーよ。美菜ちゃん、ただの風邪だったんだろ? なのに、要がそんな深刻な表情してたら、美菜ちゃんが不安になるだろう?
入院してた美優と重なっちゃうのは仕方ねーけど。美菜ちゃんは美優とは違うんだから、安心しろって」
同じ歳のクセして、美優の兄だからって俺にまで説教じみたことを言ってくる。
譲といい、夏目といい、どいつもこいつも同じことを言ってくる。
――そんなことは、譲や夏目に言われなくても分かっている。
夏目に関して言えば、どうやら俺のことっていうよりは、美菜のことが気にかかって仕方ないようだけれど。
それに、俺は別に美菜のことを美優と重ねて見ている訳じゃない。
昔、美優がそうだったように、"美菜が夏目のことを想っている"ってことが面白くないってだけだ。
――どうして、いつもいつも、夏目なんだ?
俺がどんなに美優のことを大事に想っていても、それが叶うことはなかった。
いつも手に入るのは、“本当に欲しいもの”じゃなく、“どうでもいいもの”ばかりだ。
――美菜の心に、俺のこの想いが届く日が来るんだろうか?
「あぁ。お前に言われなくても、そんなこと分かってる。
それより、夏目がそんな薄情なヤツだったとは知らなかった。お前は、美菜のことが心配じゃないのか?」
やっと忘れかけていた筈の遠い記憶が頭を掠め、うっかり夏目に当たってしまう俺は、あの頃から少しも成長できてないのかも知れない。
夏目が美菜のことをどう思っているかが気になって、ちゃっかり探りを入れるようなマネまでする始末だ。
そのクセ、怖くて、核心には触れることができないでいる。
「はぁ!? そりゃ、心配に決まってるだろう? 美菜ちゃんは美優と一緒で、妹みたいなもんだからなぁ?
真っ白な穢けがれを知らない処女の美菜ちゃんが、要色に染められて、やらしーことを色々仕込まれて、それを一生懸命やっちゃうのかと思うと……。
もー心配で、心配で、お兄さんとしては堪んねーわぁ。なーんてなぁ……。
さーて、バカなこと言ってねーで、そろそろ会社に戻るとすっかなぁ?
倒れちゃった副社長のスケジュールの調整やなんやかんやで、優秀な秘書の俺は超いそがしーしー。
要も、美菜ちゃんと一緒にしっかり休んどけよ? 美菜ちゃんが良くなったら、もうお前の休む口実なんてなくなるんだからさぁ」
そうやって、いつものように、明るく軽い口調で茶化すようにして返してきた夏目の言葉を聞きながら……。
「……あぁ、分かった。悪いが、そうさせてもらう」
なんでもない風を装って、夏目に適当な言葉を返したものの、覚醒してた筈の意識がまた、まるで霞でもかかったかのように、ぼんやりとしていく。
夏目は、なんやかんや言いながらも、冷静にちゃんと周りのことをいつもよく見ていて、仕事もデキる優秀な奴だ。
相手が誰であろうと、こうやってさりげなく気遣える奴だから、人として秘書として、勿論親友としても信頼している。
……悔しいが、美菜が好きになるのも当然なんだろうと思う。
――契約なんて鎖でがんじがらめにして、縛っておくことしかできない俺なんかを好きになってくれる訳がない。
そうと分かってはいても、いつの間にか大きくなりすぎてしまった美菜へのこの想いは、もう抑えておくことなんてできそうにない。
相変わらず、熱にうなされ続ける愛おしい美菜の汗をそっと拭ってやりながら、俺は考えたってしょうがないことばかりに囚われてしまっていた。
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