【R18】訳あり御曹司と秘密の契約【本編完結・番外編不定期更新中】

◆番外編◆ 贖罪～この想いごとすべて～side夏目

#２

だからって別に、一目惚れとか、そういうもんじゃなかった……はずだ。

小日向さんの話によれば、大学進学とともに田舎から上京してきたらしく。

そのせいか、純粋そうで素直そうなところと、無邪気な笑顔とほわんと柔らかな雰囲気が似てるくらいで。

美優と名前も似ているが、顔だって違う。

それに、商品開発部で研修中のあの子と要の秘書である俺との間には、当然のことながら、特に接点もなかった。

この時だって、ここ数年で哀愁に拍車がかかってきた小日向さんの風通しのよさげな頭越しに、あの子のことを見ただけで、俺の存在にも気づいちゃいなかったようだったし。

ただそれからは、社内で見かけると、『今日も元気そうだな』とか、『今日は元気がなさそうだな、失敗でもしたのか？』なんて遠目に眺めながらそんなことを思ったりもして……。

そんなことをしていて気づいたのが、あの子に少しでも近づこうとしている木村の滑稽なほどに必死なアプローチにも、まるで気づかないでいる様子の鈍感なあの子とのもどかしくも微笑ましい関係性。

――若いっていいよなぁ……。

なんて、年寄り臭いことを思う一方で、純粋で素直そうな真っ白なあの子がいつか誰かの手で違う色に染められちゃうのか、そう思うとなんだか寂しいような、まるであの子の父親か兄のような心持ちになっていた。

……まさか、それが、要とは、この時の俺は思っちゃいなかったし。

なにより、ここまで状況証拠が揃いにそろっているっていうのに、それでも俺は自分の気持ちには気づいちゃいなかった。

そうしていた間にも、あの子と要が、予期せぬ再会を果たすまでの時間は刻一刻と迫っていて……。

ジムで汗を流した俺たちは、食事を済ませた後、一度マンションに戻って車を置いてから、いつものようにタクシーで、要とは中学からの友人であり、俺とは大学からの友人である、藤木裕次郎が経営するバー『charm』へと向かった。

ここ最近、俺と要は仕事帰りにジムに寄って汗を流したら、最後にバーへと向かうのは、ほぼほぼ毎日の日課となっていた。

というのも、なんでも昔付き合った女に、その見かけの所為で散々利用された挙句に裏切られたとかで、もともと少し女性不信ぎみだった要は、美優と別れて少し自暴自棄になってた頃、その寂しさを要の立場や見かけだけが目当てで寄ってきていた女で紛らわせていた所為か、ますます女性に対しての嫌悪感が増してしまったようで……。

EDになってからはそれもできなくなって、それからはずっと不眠症気味だったのだが、それを解消するために、睡眠導入剤や酒に頼るようになっていたからだった。

まぁ、でも、このことがなければ、副社長である要と新入社員でしかないあの子とが、契約を交わすなんてことはなかったかもしれないし。

ここであの子と再会して、きっと要と同じように、要に一目惚れをしたのだろうあの子が、要を見て、要に抱き着いてこなければ、もしかしたら何も始まってなんかいなかったかもしれない。

俺が美菜ちゃんを好きになっていることに気づくこともなかったんだろうと思う。

そして、学生の頃から、要に対して親友とは違った感情を抱いてしまっていた俺が、六年前と同じように苦しむこともなかったかもしれない……。