上 下
273 / 427
煌めく未来へ

#1

しおりを挟む
♪゜・*:.。. .。.:*・♪



深い眠りから目を覚ました私の視界に映し出されたものは真っ暗な暗闇だった。

――あれ? ここはどこだろう?

いくら目を凝らしてみても、ただ真っ暗な闇が広がっているだけで、音だって何も聴こえない。

寝惚けてるのかな? もうひと眠りしようかなぁ、なんて思い再び瞼を閉ざした私の耳に、突如小さな女の子の泣いているような声が飛び込んできた。

そして、不思議なことに、瞼を閉じたままだというのに、視界になのか脳裏になのかは不明だけど、泣き声の主であろう小さな女の子の姿がぼんやりと浮かんできて。

両手で顔を覆い尽くして大泣きしているらしいその女の子は、どうやらデパートのフロアらしき場所で、迷子になってしまったようだ。

顔を覆い隠いているからよく分からないけど、服装や背格好からして、たぶん四、五歳?、小さかった頃の私のようだった。

何故なら、私がその頃お気に入りだった、地元のマスコットキャラクターのぬいぐるみのキーホルダーを、肩に斜め掛けされた、これまたお気に入りだったピンクのフリフリが付いたポシェットにつけているからだ。

それに、目を覚ましたと思っていたけど、どうも私は、まだ夢の中にいるようだった。


小さかった頃、お母さんやお祖母ちゃんによく連れて行ってもらった地元のデパートを懐かしいなぁ、なんて思いつつ、その光景を眺めていると。

「どうしたの? 迷子になっちゃったのかな?」

見た感じ、中学生くらいだろうか、とても綺麗な顔立ちをした優しそうなお兄ちゃんが泣きじゃくる私に声を掛けてくれたようで。

「……ママと……ばぁば……かうのッ」
「……え? ママとばぁばを買う? あぁ、ママとお祖母ちゃんと何か買いに来たってことかな?」
「……うん」
「じゃぁ、ママとお祖母ちゃん、一緒に探そうか?」
「うんッ!」

なんとか話は伝わったようだった。

その頃からゲンキンだったらしい私は、そのお兄ちゃんの言葉に、泣いてたのも忘れ、満面の笑顔で応えている。

そこへ、近くにいたらしい、黒いスーツを着た男性が加わって、

「坊ちゃん、その子は私《わたくし》にお任せください」

そういって、私のことを抱き上げて笑いかけてくれたようだけれど。

見知らねおじさんに急に抱きかかえられて怖かったのか、私は手足をバタバタとさせてギャン泣きし始めた。

「あーあー、せっかく泣き止んでたのに。泣かせちゃったじゃんっ」
「……も、申し訳ありません」

きっと、迷子の私のことをデパートの店員さんにでも託そうとしてくれていたのだろう、そのおじさんは、可哀想なことに、お兄ちゃんに呆れた声を浴びせられ、申し訳なさそうに、深々と頭まで下げている。

一方、私はと言えば……。

おじさんの抱っこが相当怖かったようで、おじさんから離れると、お兄ちゃんに後ろからぎゅっと抱き着いて、

「おにーちゃんがいーのッ!」

キッとおじさんを睨み付け、怒った口調でそう言い放った私は、お兄ちゃんから何が何でも離れる気はなさそうだ。

「ハハハッ、しょうーがないなぁ。じゃぁ、このチョコあげるから、泣き止んで名前教えてくれる?」

「知らない人にお菓子もらったらダメ、名前も言っちゃダメッって、ママが言ってたもん」

「ハハハッ、分かった分かった。お兄ちゃんは神宮寺要っていうんだ。もう知らない人じゃないよね。だから君の名前も教えてもらえないかな?」

「じん……ぐーじー? かーなーめぇ? 変な名前ぇ。私は綾瀬美菜ちゃん、可愛い名前でしょ」

「ハハハッ、美菜ちゃんか。うん、ホントだ。可愛い名前だね」

「うんッ!おにーちゃんありがとー!だーいすきぃ!」

そういって、おませだったらしい私は、あろうことか、そのお兄ちゃんの口にチュッとキスをお見舞いしたのだった。



♪゜・*:.。. .。.:*・♪



そこで、プッツリと映像が途切れて、気づけば、私は、病室のベッドの上だった。

ふふっ、いくら要さんのことが好きだからって、ご都合主義にも程がある。

そんな、どこかの恋愛小説のようなロマンチックな話、あるわけないのに……。

っていっても、夢だからしょうがないか。

そんなことをぼんやり考えていた私が辺りに視線をさまよわせた先には、当たり前のように、大好きな要さんの姿があって。

ぼやけていた視界が徐々にクリアになると、要さんの途轍もなく心配そうな表情が私を待ち構えていて。

「良かった。美菜、ごめんな。また俺のせいで嫌な思いをさせてしまって。本当にすまない」

気づけば私は、そういって申し訳なさそうに謝ってきた要さんの胸に抱き寄せられていた。

私を大事そうに抱き寄せてくれた要さんの声は微かに震えていて、その振動とぬくもりと鼓動の音とが、私の身体に確かに伝わってくる。

どうやら、今度こそ、私は目を覚ましたらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました

瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。

処理中です...