上 下
271 / 427
揺らめく心と核心~side要~

#7

しおりを挟む
すると、腹の立つことに、夏目は、酷く感心したように、ははぁーんというような妙な表情をしたかと思えば、

「美菜ちゃん、あの時確か、『副社長じゃなくて、夏目さんなら良かったのに』って言ってなかったっけ?」

今度は、俺の揚げ足を取るようなことを言ってきやがった。

俺は思わず、「どっちでも一緒だろうがっ!!」声を荒げてしまったのだが……。

次に返ってきた夏目の言葉で、俺の頭はクエスチョンマークでいっぱいになるのだった。

「いやいや、全然違うんだって。それにしても、どうしてそんなピンポイントで聞いてるんだよ。聞くなら最初から聞いとけって。 あー、お前ら二人って、どうしてこーも手間がかかんだよ。ったく。俺の身にもなってほしいよなぁ、ほんと」

それに、なにやら、心底呆れたっていうか、疲れ果てたっていうような表情で項垂れてしまっている夏目。

――あ!? どういうことだ? さっぱり分からん。

「意味が分からん。俺にも分かるように説明しろ。寝不足で頭が回らん」

「……まさかお前、美菜ちゃんに心変わりされたと思って、夜も眠れないくらい落ち込んでたのか? 子供までデキたのに? ハハッ、お前何やってんの?」

「何がおかしいっ!? そんなことより、どうなんだ? お前はなんて言ったんだ?」

「フハハッ、そんなに鬼みたいな顔で怒るなよ。お前が怒った顔って迫力あんだからさぁ……。ハハッ、わりぃ、ちょっとタンマ……」

「……ウルサイッ!俺はもともとこーいう顔だっ!それより、笑う間があったら、さっさと説明しろっ!」

「フハハハッ、もとからって、よくいうよ。ハハハッ」

「だから笑うなと言ってるだろうがっ!」

挙句の果てには、俺の言葉を聞いたとたんに、何がそんなに可笑しいのか、笑いがおさまらない様子の夏目は、とうとう腹を抱えて笑い出してしまう始末。

お陰で、苛立ちがどんどん蓄積されていく俺の怒りはピークに達しかけていた。

そんなタイミングで、やっと笑いをおさめた様子の夏目が、目尻にたまった涙を指で拭いつつ、俺の方に向き直ってきて、ふうと息をついた。

どうやらようやく話す気になったらしい。

「いやさぁ、美菜ちゃん、検査結果が出るまで寝ちゃっててさ。あの時、寝起きで、なんか変な夢見ちゃったみたいでさ。『跡取りのためだったらどうしよう?副社長の要さんが私のこと好きになるワケないのに、好きって言われてその気になっちゃった』とかって、訳わかめなこと言っててさ」

「――夢!?」

「そう。んで、俺が宥めててもしばらく泣いちゃって。でもお前いないし。いやぁ、焦った焦った。あれだな、妊婦って本当に情緒不安定になるんだな?」

「……あぁ、そういえば、小石川がそんなことをいってたような気がするな」

「まぁ、それで最後には、どうも、『要さんが副社長じゃなくて、夏目さんだったら良かったのに』って言ってたから。

きっと、”要が副社長の立場じゃなくて、俺みたいな立場だったら、そんな心配なかったのに”って、言うことだと思う。

まぁ、安心しろって。美菜ちゃんはお前のことで頭がいっぱいだからさぁ」

いつものように面白おかしくおどけて、事の詳細を説明し始めて。

俺がそれに相づちをうちながら、頭の中を整理し、ようやく理解にいたったという訳だったのだが……。

「……なんだよ……そう……だったのか」
「おいおい、泣くなよ、要」

どうやら俺は、説明を聞いてるうちに、寝不足が祟って、気が緩んでしまったのか、ホッとして涙を流してしまってたようだった。

まぁ、そんなこんなで、すべてが誤解だったと分かった俺の気持ちも幾分落ち着き、今度は無性に美菜に逢いたくなってしまうのだった。

実は、今日は、昨日のこともあり、美菜は大事を取って休暇をとっているため、会社には居ないから余計だ。

どうしても美菜に直接逢って、昨日素直に手放しで喜べなかった分、子供を授かった喜びを分かち合いたかった。

それなのに……。

「はぁっ!? 午後からでもいいから、帰らせてほしいだぁ!? お前、何言ってんの? お前が美菜ちゃんとの結婚式早めたいって言って、朝一で、会長にも社長にも掛け合って。

来春社長になるんだったら、結婚早めてもいいって条件で、OKだしてもらったんだろうがっ!? なのに、んな暇あるワケねーじゃんっ! 

コホンッ、さぁて、副社長、冗談はここまでにして。先ほど社長の麗子様より、諸々の案件を引き継ぎましたので。その確認からしていただきましょうかぁ」

「……」

俺の願いは、質の悪い鬼と化した夏目によって却下された挙句。

いつものすかしたインテリ銀縁メガネ仕様の畏まった口調で、どこに隠し持っていたのか、大きな書類の山をドンっと目の前に突き付けられてしまい。

俺としたことが、黙らされてしまう羽目になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します

佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。 何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。 十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。 未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。

処理中です...