264 / 427
揺らめく心と核心~後編~
#11
しおりを挟む
静香さんは、「奇遇ね」なんていいながら傍まで歩み寄ってくると。
驚いて何も言えないでいる私に、なにやら意味深に微笑んでから、
「見直したわ。なんにもできない可愛らしいお嬢さんかと思ったけど。見かけによらず、意外とあざといところがあったのねぇ」
なんて、感心したように、訳の分からないことを言いながら、ベンチに座っている私の隣に腰を下ろしてきて。
「……え!? ど、どういう意味ですか?」
困惑気味の私の言葉に、何をどう勘違いしたらそうなってしまうのか……。
「”どういう意味”って、旨くやったわねって褒めてるだけよ。要くんだけじゃなく、あのすかした銀縁メガネの秘書やショコラティエまで手玉に取って、『YAMATO』の社長夫人の座まで手に入れるなんて……。人は見かけによらないっていうけど、ホントね。まんまと騙されちゃったわぁ」
「……言ってる意味がよく分かんないんですけど」
見当違いなことを一方的に話し始めてしまった静香さんに、私の頭はますます混乱するばかりだ。
そんな私の様子も言葉も、なにもかもを置き去りにして、静香さんの話はどんどん加速していく。
「あら、結構ガード堅いのねぇ。まぁいいわ。けど、まだそんなに若いのに、いくら『YAMATO』の社長夫人になるためとはいえ、子供まで身ごもるなんて、私には無理だわ。体形が崩れちゃうもの。
それに、要くん、EDなんでしょ?まぁ、昔から、後継者として厳しく育てられてたから、プレッシャーだったのは分かるわ。それなのにEDだなんて、相当焦ってたんでしょうねぇ……。それも計算だったってことよね? お見事だわ」
「……あの、私の話聞いてました?」
「もう、まだ惚ける気?あなたも強情ね。今は私が話してるんだから、ちょっと黙ってなさいっ!」
「……」
勘違いしたまま、どんどん飛躍していく静香さんの話に、とうとう黙っていられなくて口を挟んだ私の言葉は、
キッと目を吊り上げた静香さんによって、ピシャリと跳ね返されてしまう始末。
――もう、好きにしてください。
反論を諦めた私のことをやっぱり置き去りにしたまま、静香さんの話は続いていくのだった。
「まぁ、EDは薬でなんとかなったのかもしれないけど、そんなの一時のものでしょ? せいぜい、セックスレスにならないように頑張りなさい。あぁ、だから、あの秘書とそういう発散はちゃっかりしてるって訳ね。でも、その秘書の夏目さんも可哀想よね? あなたは知らなかったんでしょうけど……。大学の頃からずっと好きだったらしい要くんと、好きだった妹が付き合って、そのことで色々あったっていうのに。今度は要くんの婚約者であるあなたとも、道ならぬ恋をすることになるなんて。それを仕事とはいえ、傍で見守らなきゃならないなんて、ホント不憫だわぁ。
以前、バーで居合わせたショコラティエに聞いたんだけど。夏目さん、あなたが入社してすぐの頃から、色々あなたのこと気にかけてんですってね? だから夏目さんと付き合ってるんじゃないかって、勘違いしちゃったらしいし。その頃からあなたを想ってたなんて、純愛よねぇ?」
そして、ご丁寧にも、私が知らなかったことまで話してくれた静香さん。
「あら、なんだか顔色が優れないようだけれど……大丈夫?」
「……は、はい」
静香さんにそう言って声をかけられた私が、なんとか返事を返したちょうどその時。
「――はっ!? どうしてお前がここに居るんだ? 俺のテリトリーには近寄らないって約束だったはずだっ!」
「ちょっと知り合いにのお見舞いに来ているだけよ。そんなに怖い顔しなくても、すぐに失礼するわ」
「ちょっと待てっ! お前、美菜にまた妙な事言ったんじゃないだろうな?」
譲さんと話を終えた要さんの登場により、場の空気が一気に緊張感を孕んだものになった。
激怒した要さんの声と、どこまでもマイペースな静香さんの声とが響く中、私の頭の中では、さっき聞いたばかりの静香さんの言葉が渦巻いていて。
やっぱり、要さんのこと好きだったんだ。
夏目さんが私のことを?まさか、そんな筈ない。
バイである夏目さんが、要さんのことを好きになるってのは分かるけど、私みたいなお子ちゃまに興味ないっていつも言ってたもん。
そう思いかけていた私の脳裏には、今まで引っかかっていたものが次々に浮かんできてしまうのだった。
以前、屋上で木村先輩と夏目さんとが対峙してた時の二人のやり取りや、カラオケボックスで木村先輩に好きな人が誰かを訊かれたときに、何故か夏目さんの名前があがった時のこと。
美優さんのことを話していた時に、いつもと様子が違った夏目さんのこと。
確か、美優さんの話をした次の日、急に実家に帰ると言い出したらしい夏目さん。
先週聞いたばかりの、『要と出逢ってからの美菜ちゃんは、入社したての頃とは比べもんになんねーくらい綺麗になった……んじゃねーかなぁ? あれ? どうだっけ?』夏目さんの言葉。
そして、今日、妊婦健診の時に、夏目さんとのことをそれとなく訊いた要さんに、『今のところ脈なしって感じですかね? なんか好きな人が居るらしくて。でも、諦めるつもりはないですけどねぇ』そう言ってた香澄さんの話等々……。
……それらすべてが、静香さんの言ってたことを裏づけているように、ピッタリと当てはまってしまった。
てことは、今まで、何かあるたびに、優しい夏目さんのことを頼ってばかりいた私は、知らず知らずのうちに、夏目さんのことを苦しめてたってことになるんだ。
もし、私が夏目さんの立場だったとしたら……。
そう想像しただけで、胸が張り裂けそうになる。
それに、要さんが後継者のためにEDの薬を使ったみたいなこと言ってたよね?
やっぱり、そういうことだったの?
ウソ、違うよね?
――あーもう、なんか分かんなくなってきた。
こんな感じで、次から次に浮上してくるのに、処理が追いつかなくて、頭の中がもうぐちゃぐちゃだ。
そんな私の頭は、どうやら容量の限界を超えてしまったようで、私の思考はそこで、突然プツリと途切れてしまうのだった。
「おいっ!美菜?どうした?」
徐々に遠のいていく意識の中で、大好きな要さんが私の名前を必死に呼び続ける声だけが響いていた。
驚いて何も言えないでいる私に、なにやら意味深に微笑んでから、
「見直したわ。なんにもできない可愛らしいお嬢さんかと思ったけど。見かけによらず、意外とあざといところがあったのねぇ」
なんて、感心したように、訳の分からないことを言いながら、ベンチに座っている私の隣に腰を下ろしてきて。
「……え!? ど、どういう意味ですか?」
困惑気味の私の言葉に、何をどう勘違いしたらそうなってしまうのか……。
「”どういう意味”って、旨くやったわねって褒めてるだけよ。要くんだけじゃなく、あのすかした銀縁メガネの秘書やショコラティエまで手玉に取って、『YAMATO』の社長夫人の座まで手に入れるなんて……。人は見かけによらないっていうけど、ホントね。まんまと騙されちゃったわぁ」
「……言ってる意味がよく分かんないんですけど」
見当違いなことを一方的に話し始めてしまった静香さんに、私の頭はますます混乱するばかりだ。
そんな私の様子も言葉も、なにもかもを置き去りにして、静香さんの話はどんどん加速していく。
「あら、結構ガード堅いのねぇ。まぁいいわ。けど、まだそんなに若いのに、いくら『YAMATO』の社長夫人になるためとはいえ、子供まで身ごもるなんて、私には無理だわ。体形が崩れちゃうもの。
それに、要くん、EDなんでしょ?まぁ、昔から、後継者として厳しく育てられてたから、プレッシャーだったのは分かるわ。それなのにEDだなんて、相当焦ってたんでしょうねぇ……。それも計算だったってことよね? お見事だわ」
「……あの、私の話聞いてました?」
「もう、まだ惚ける気?あなたも強情ね。今は私が話してるんだから、ちょっと黙ってなさいっ!」
「……」
勘違いしたまま、どんどん飛躍していく静香さんの話に、とうとう黙っていられなくて口を挟んだ私の言葉は、
キッと目を吊り上げた静香さんによって、ピシャリと跳ね返されてしまう始末。
――もう、好きにしてください。
反論を諦めた私のことをやっぱり置き去りにしたまま、静香さんの話は続いていくのだった。
「まぁ、EDは薬でなんとかなったのかもしれないけど、そんなの一時のものでしょ? せいぜい、セックスレスにならないように頑張りなさい。あぁ、だから、あの秘書とそういう発散はちゃっかりしてるって訳ね。でも、その秘書の夏目さんも可哀想よね? あなたは知らなかったんでしょうけど……。大学の頃からずっと好きだったらしい要くんと、好きだった妹が付き合って、そのことで色々あったっていうのに。今度は要くんの婚約者であるあなたとも、道ならぬ恋をすることになるなんて。それを仕事とはいえ、傍で見守らなきゃならないなんて、ホント不憫だわぁ。
以前、バーで居合わせたショコラティエに聞いたんだけど。夏目さん、あなたが入社してすぐの頃から、色々あなたのこと気にかけてんですってね? だから夏目さんと付き合ってるんじゃないかって、勘違いしちゃったらしいし。その頃からあなたを想ってたなんて、純愛よねぇ?」
そして、ご丁寧にも、私が知らなかったことまで話してくれた静香さん。
「あら、なんだか顔色が優れないようだけれど……大丈夫?」
「……は、はい」
静香さんにそう言って声をかけられた私が、なんとか返事を返したちょうどその時。
「――はっ!? どうしてお前がここに居るんだ? 俺のテリトリーには近寄らないって約束だったはずだっ!」
「ちょっと知り合いにのお見舞いに来ているだけよ。そんなに怖い顔しなくても、すぐに失礼するわ」
「ちょっと待てっ! お前、美菜にまた妙な事言ったんじゃないだろうな?」
譲さんと話を終えた要さんの登場により、場の空気が一気に緊張感を孕んだものになった。
激怒した要さんの声と、どこまでもマイペースな静香さんの声とが響く中、私の頭の中では、さっき聞いたばかりの静香さんの言葉が渦巻いていて。
やっぱり、要さんのこと好きだったんだ。
夏目さんが私のことを?まさか、そんな筈ない。
バイである夏目さんが、要さんのことを好きになるってのは分かるけど、私みたいなお子ちゃまに興味ないっていつも言ってたもん。
そう思いかけていた私の脳裏には、今まで引っかかっていたものが次々に浮かんできてしまうのだった。
以前、屋上で木村先輩と夏目さんとが対峙してた時の二人のやり取りや、カラオケボックスで木村先輩に好きな人が誰かを訊かれたときに、何故か夏目さんの名前があがった時のこと。
美優さんのことを話していた時に、いつもと様子が違った夏目さんのこと。
確か、美優さんの話をした次の日、急に実家に帰ると言い出したらしい夏目さん。
先週聞いたばかりの、『要と出逢ってからの美菜ちゃんは、入社したての頃とは比べもんになんねーくらい綺麗になった……んじゃねーかなぁ? あれ? どうだっけ?』夏目さんの言葉。
そして、今日、妊婦健診の時に、夏目さんとのことをそれとなく訊いた要さんに、『今のところ脈なしって感じですかね? なんか好きな人が居るらしくて。でも、諦めるつもりはないですけどねぇ』そう言ってた香澄さんの話等々……。
……それらすべてが、静香さんの言ってたことを裏づけているように、ピッタリと当てはまってしまった。
てことは、今まで、何かあるたびに、優しい夏目さんのことを頼ってばかりいた私は、知らず知らずのうちに、夏目さんのことを苦しめてたってことになるんだ。
もし、私が夏目さんの立場だったとしたら……。
そう想像しただけで、胸が張り裂けそうになる。
それに、要さんが後継者のためにEDの薬を使ったみたいなこと言ってたよね?
やっぱり、そういうことだったの?
ウソ、違うよね?
――あーもう、なんか分かんなくなってきた。
こんな感じで、次から次に浮上してくるのに、処理が追いつかなくて、頭の中がもうぐちゃぐちゃだ。
そんな私の頭は、どうやら容量の限界を超えてしまったようで、私の思考はそこで、突然プツリと途切れてしまうのだった。
「おいっ!美菜?どうした?」
徐々に遠のいていく意識の中で、大好きな要さんが私の名前を必死に呼び続ける声だけが響いていた。
0
お気に入りに追加
1,144
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します
佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。
何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。
十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。
未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる