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揺らめく心と核心~前編~
#8
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けれど当然、今の私にはなんにも響いちゃこない。
要さんが言ってた”跡取り”って言葉にも驚きだったけれど……。
それよりも、”報酬”って何!? ”小切手”って何!?
私にプロポーズしてくれたのは、”跡取り”のためだったっていうの!?
もしかして、ずっと私のこと騙してたっていうことなの!?
――そんなの酷いっ!
もう、頭の中はぐちゃぐちゃで、真っ白で、何がどうなってるのか分からない。
相変わらず、両手で頭を抱え込んでパニック状態の私の両手を、誰かが掴んだ感触がして……。
私は咄嗟に、手で払いのけながらも、
「ヤダッ、嘘つきっ!触らないでっ!!」
そう叫んでいて。
そしたらそこへ、またまた夏目さんの声が聞こえてきた。
「『嘘つきっ!触らないでっ!!』って。美菜ちゃん、もしかして寝惚けてんのか?」
これまたさっきとは違って、今度はいつものような軽い口調で、茶化すように言われてしまい。
――寝惚けてなんかないしっ!
それに、なんだか、副社長である要さんが新入社員でしかない私のことなんか好きになるワケないじゃん、そう言われているような気がして……。
頭にカァっと血が上ってしまった私が、ガバッと起き上がり、
「寝惚けてなんかいませんっ!」
と、夏目さん向かって、渾身の睨みをきかせつつ、言い放ったのだけれど……。
そこには、キョトンとした表情をして、やや首を傾けつつ、
「……完全に寝惚けてるようだけど、美菜ちゃん大丈夫?」
そう言って、再び心配げな声をかけてくれる夏目さんの姿だけがあって。
何故か、つい今しがた、すぐ傍に居た筈の要さんの姿はどこにもなかった。
「――へっ!? 要さんは!?」
ビックリ眼全開の私が前のめり気味に出した頓狂な声に、夏目さんから返ってきた言葉は、
「……だからさぁ、要も会社出てこっちに向かってるけど、渋滞に巻き込まれてまだしばらくかかりそうだって、さっきも言ったじゃん」
今度は酷く呆れた声で。
驚き過ぎて言葉も引っ込んじゃった私が、ビックリ眼をパチパチ何度も瞬いたり、何度も手で擦ったりして、辺りを何度見渡してみても……。
夏目さんの言う通り、確かに、広い病室には夏目さんしか居ないようだった。
どうやら、熟睡して夢を見ていたらしい私は、本当に寝惚けてしまっていたようだった。
――なんだぁ、夢か、ビックリした。
状況を把握し、ホッと胸を撫で下ろそうとしているところに、じわじわと恥ずかしさが込み上げてきて。
羞恥で真っ赤になった顔をなんとか布団で隠そうとしている私の邪魔でもするかのように、広い病室の扉をノックする音が響き渡った。
その直後、
「失礼いたします」
さっき出迎えてくれて、ここまで案内してくれた若い医師らしき女性の声が聞こえてきて。
「お、お世話になります」
「お世話になります」
私と夏目さんとが視線を揃えてそちらへ向けると、夏目さんの顔を見て、あからさまに頬をほんのり色づけた女医さんが姿を現した。
そして、
「検査結果が出揃いましたので説明させていただきたいのですが、婚約者とご一緒でよろしかったでしょうか?」
と、お伺いをたててきた女医さんは、どうやら勘違いしてしまってるようだった。
でも、要さんはまだしばらく時間がかかりそうだし。
かといって、ひとりで聞くのは、さっき見た妙な夢のこともあって、なんだか不安だし、心細いし……。
そんなことを思案している私のベッドの傍で佇んでいた夏目さんが慌てて、
「あっ、いや、私は婚約者の秘書ですので、これにて失礼いたします――!?」
そんなことを言ったかと思うと、こちらに背中を向け病室から出て行こうとする夏目さん。
心細さに堪りかねた私は、そうはさせるかとばかりに、夏目さんの背広の裾を掴んで引き留めてしまっていた。
夏目さんは驚いて振り替えると、きっと捨てられたペットのような心細げな表情をしてしまってるんだろう私の顔を、困った表情で見つめたまま固まってしまっている。
そのお陰で、
「まぁ、婚約者の秘書の方でしたかぁ。さぁ、遠慮なさらずにお掛けになってくださいねぇ」
「・・・」
夏目さんが婚約者でないと知った途端に、あからさまに喜んでテンションが上がった様子の女医さんによって、強引にソファに促されてしまった可哀想な夏目さんは、観念したように、仕方なく腰を下ろすしかなかったようだった。
要さんが言ってた”跡取り”って言葉にも驚きだったけれど……。
それよりも、”報酬”って何!? ”小切手”って何!?
私にプロポーズしてくれたのは、”跡取り”のためだったっていうの!?
もしかして、ずっと私のこと騙してたっていうことなの!?
――そんなの酷いっ!
もう、頭の中はぐちゃぐちゃで、真っ白で、何がどうなってるのか分からない。
相変わらず、両手で頭を抱え込んでパニック状態の私の両手を、誰かが掴んだ感触がして……。
私は咄嗟に、手で払いのけながらも、
「ヤダッ、嘘つきっ!触らないでっ!!」
そう叫んでいて。
そしたらそこへ、またまた夏目さんの声が聞こえてきた。
「『嘘つきっ!触らないでっ!!』って。美菜ちゃん、もしかして寝惚けてんのか?」
これまたさっきとは違って、今度はいつものような軽い口調で、茶化すように言われてしまい。
――寝惚けてなんかないしっ!
それに、なんだか、副社長である要さんが新入社員でしかない私のことなんか好きになるワケないじゃん、そう言われているような気がして……。
頭にカァっと血が上ってしまった私が、ガバッと起き上がり、
「寝惚けてなんかいませんっ!」
と、夏目さん向かって、渾身の睨みをきかせつつ、言い放ったのだけれど……。
そこには、キョトンとした表情をして、やや首を傾けつつ、
「……完全に寝惚けてるようだけど、美菜ちゃん大丈夫?」
そう言って、再び心配げな声をかけてくれる夏目さんの姿だけがあって。
何故か、つい今しがた、すぐ傍に居た筈の要さんの姿はどこにもなかった。
「――へっ!? 要さんは!?」
ビックリ眼全開の私が前のめり気味に出した頓狂な声に、夏目さんから返ってきた言葉は、
「……だからさぁ、要も会社出てこっちに向かってるけど、渋滞に巻き込まれてまだしばらくかかりそうだって、さっきも言ったじゃん」
今度は酷く呆れた声で。
驚き過ぎて言葉も引っ込んじゃった私が、ビックリ眼をパチパチ何度も瞬いたり、何度も手で擦ったりして、辺りを何度見渡してみても……。
夏目さんの言う通り、確かに、広い病室には夏目さんしか居ないようだった。
どうやら、熟睡して夢を見ていたらしい私は、本当に寝惚けてしまっていたようだった。
――なんだぁ、夢か、ビックリした。
状況を把握し、ホッと胸を撫で下ろそうとしているところに、じわじわと恥ずかしさが込み上げてきて。
羞恥で真っ赤になった顔をなんとか布団で隠そうとしている私の邪魔でもするかのように、広い病室の扉をノックする音が響き渡った。
その直後、
「失礼いたします」
さっき出迎えてくれて、ここまで案内してくれた若い医師らしき女性の声が聞こえてきて。
「お、お世話になります」
「お世話になります」
私と夏目さんとが視線を揃えてそちらへ向けると、夏目さんの顔を見て、あからさまに頬をほんのり色づけた女医さんが姿を現した。
そして、
「検査結果が出揃いましたので説明させていただきたいのですが、婚約者とご一緒でよろしかったでしょうか?」
と、お伺いをたててきた女医さんは、どうやら勘違いしてしまってるようだった。
でも、要さんはまだしばらく時間がかかりそうだし。
かといって、ひとりで聞くのは、さっき見た妙な夢のこともあって、なんだか不安だし、心細いし……。
そんなことを思案している私のベッドの傍で佇んでいた夏目さんが慌てて、
「あっ、いや、私は婚約者の秘書ですので、これにて失礼いたします――!?」
そんなことを言ったかと思うと、こちらに背中を向け病室から出て行こうとする夏目さん。
心細さに堪りかねた私は、そうはさせるかとばかりに、夏目さんの背広の裾を掴んで引き留めてしまっていた。
夏目さんは驚いて振り替えると、きっと捨てられたペットのような心細げな表情をしてしまってるんだろう私の顔を、困った表情で見つめたまま固まってしまっている。
そのお陰で、
「まぁ、婚約者の秘書の方でしたかぁ。さぁ、遠慮なさらずにお掛けになってくださいねぇ」
「・・・」
夏目さんが婚約者でないと知った途端に、あからさまに喜んでテンションが上がった様子の女医さんによって、強引にソファに促されてしまった可哀想な夏目さんは、観念したように、仕方なく腰を下ろすしかなかったようだった。
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