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揺らめく心と核心~前編~

#5

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その声で、ようやく我を取り戻してくれたらしい夏目さんの声が聞こえてきた。

「美菜ちゃん大丈夫?」

隼さんに向けていたものとは明らかに違う、いつもの優しい夏目さんの声。

夏目さんが隼さんを殴ろうとしていたのをなんとか止めることができてホッとしたのか、それとも少し身体を起こしてしまっていたのが災いしたのか、今度は眩暈に襲われてしまい。

私は、夏目さんに返事を返すこともできずに、そのまま机に突っ伏してしまうのだった。

そんな私の様子を目の当たりにした夏目さんからは、

「みっ、美菜ちゃん!?」

とっても心配そうな声が聞こえてすぐ、

「お前邪魔っ!どけっ!」

と、吐き捨てるように放った夏目さんから、いきなり解放されて壁にでも身体をぶつけたのか、隼さんの呻くような声が会議室中に響き渡った。

かと思えば、いつのまにか私の傍まで駆けつけてくれた夏目さんが私の背中にそっと大きな手を回してくれていて、

「美菜ちゃん、大丈夫? まだ吐きそう?」

優しく撫でながら、同じように優しく声をかけてくれている。

そのことで、心底ホッとし、安心しきってしまった私は、『ううん、大丈夫です』と伝える代わりに首をフルフル振って応えると、小さな子供のように泣きながら夏目さんに抱き着いてしまっていた。

夏目さんは、そんな私の行動に驚いているのか、一瞬カチーンとあからさまに身体を強張らせた直後、抱き着いた私のことを慌てた様子で引き離すと。

「美菜ちゃん、吐き気のほうもおさまったようだし、少しだけここで待っててもらえるかな? 大丈夫、すぐ要のこと呼ぶし。譲さんの病院に行くためにタクシー手配するだけだから、ね?」

きっと不安げな表情をしてしまっているのだろう私のことを安心させようと、小さな子供に言い聞かせるようにして優しく声をかけてくれている。

……これまでと変わらない優しい夏目さんなのだけれど、これまでとはどこか違う夏目さんの態度に、私は寂しい気持ちになってくる。

というのも、夏目さんは実家に帰ってしまってからというもの、私とはきっちり一定の距離を保つようになった、というより、必要以上に私との距離を置くようになったといったほうがいいかもしれない。

私も要さんから、夏目さんとは一定の距離を保つように、とは言われたけど、ただ話をするくらいなら問題ないと思うのに、それさえも避けられているとしか思えないほどだった。

そんな夏目さんの態度に、私は少なからず不満を持ってしまっていた。
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