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揺らめく心と核心~前編~

#4

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夏目さんの姿を目にした私がホッと安堵する間もなく、夏目さんは私の近くにいた隼さんの胸倉を掴んでいて。

次の瞬間には、隼さんの身体を会議室の壁際へと物凄い勢いで叩きつけるようにして追い詰め、これまた物凄く怖い形相で正面から詰め寄っていた。

「お前、要の大事な婚約者に何をした!? ことと次第によっちゃお前のその綺麗な顔をメチャクチャにしてやるから、心して答えろっ!」

私が今まで見たこともないような怒りのオーラを放っている夏目さんからは、地を這うような低い声が放たれた。

二人から少し離れたところに居る私にも、その低い声の振動がビリビリと伝わってくるのだから、間近に居る隼さんにとっては物凄い威力だったに違いない。

けれど、さすがはあの要さんの弟である隼さん。

どうやら隼さんにとっては大したことではなかったようだ。

っていうか、あの要さんに慣れているのかもしれないけれども……。

なんて私が思ってしまうくらい、隼さんから出てきた言葉は全然緊迫感のないものだった。

「ハハハ……いやだなぁ、夏目さん。それ、冗談に聞こえませんよ」

けれども、夏目さんの怒りを増幅させるには充分だったようで。

「……お前、この状況で冗談なんて言うヤツがいると思うか? 言っとくが俺は、お前のような自分のことしか考えてないような身勝手なヤツが大の付くほど嫌いなんだよ。この前の分も含めてたっぷりいたぶってやるから覚悟するんだな!?」

さっきよりも怒りを孕んだ低くて冷たい声で隼さんに宣言した夏目さん。

夏目さんは要さんのキメ台詞を口にした直後。

壁に追い詰めている隼さんの胸倉を締め上げるようにしてギリギリと持ち上げ、身体の横で握りしめたままだった握り拳を今まさに振り上げようとしている。

確かに、隼さんは私のことを力ずくでどうこうしようとしていた。

けれど、なんだろう。釈然としないのは……。

あの時、本当にどうこうしようとしていたのなら、いくら調子が悪くなったからといって、自分の不利な立場にも関わらず、救急車を呼ぼうとしたり、要さんに連絡しようとしたり、夏目さんを呼んだりするだろうか?

西園寺静香さんに女性関係で弱みを握られていたらしい隼さん。

さっきも、静香さんからの着信の後で、

『ご安心ください。静香さんのことでしたら、兄さんのお陰でたった今解決いたしましたから。美菜さんはご自分のお身体のことだけをお考え下さい』

そう言って声を掛けてくれた隼さん。

話の途中でも、

『もとより僕は、『YAMATO』のことを一番に考えてのことでしたので』

とも、言っていたし。

少々やり方は間違ってしまったかもしれないけど、隼さんなりに、何らかの事情があったのかもしれない。

――ううん。要さんの弟である隼さんのことだから、そうであってほしい、という願いのようなものかもしれないけれど……。

――とにかく、夏目さんを速く止めなくちゃ。

「夏目さん、ダメー!やめてーー!!」

私はただその一心で、吐き気も忘れて声を張り上げていた。
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