233 / 427
一難去ったその後で
#18
しおりを挟む
「わぁ、可愛い! このブーケって持って帰っちゃってもいいんですかね? それにこのケーキも食べちゃうのが勿体ないくらいおしゃれで可愛い!」
思わずはしゃいでしまった私に、終始穏やかな表情を湛えていた要さんが、ふっと柔らかな微笑を零しながら、
「喜んでもらえたようでホッとした。ブーケは美菜をイメージして用意してもらったものだから、勿論持って帰っても大丈夫だ。それと……」
ホッとしたように、そう言ってきた要さんが途中で言葉を切って、おもむろにジャケットのポケットから取り出してきた、クラシカルなオフホワイトの小さな箱を、パカッと開けたかと思えば。
中から、上品な輝きを放つ指輪が姿を現した。
どうやらそれは、以前、要さんが私にと選んでくれた婚約指輪のようだ。
まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった私が、驚いて言葉を発せずに、要さんの動向を見守ることしかできないでいると。
「プロポーズしてから少し時間が経ってしまったが、美菜のおばあさんの納骨を終えてから、もう一度ちゃんとプロポーズしたいと思っていたんだ」
指輪を手にした要さんが、ことの経緯を説明してくれた後。
少し緊張しているのか、なにやら思い切るように小さく息を吐いてから、
「綾瀬美菜さん、一生かけて大事にしたいと思っています。どうか私と結婚してください」
改まった余所行きの、落ち着いた低い声音を響かせた。
突然の素敵なサプライズに感激してしまった私が、涙をポロポロ零しながらも、
「はい」
そうしっかりと返事を返せば。
私の肩をそっと優しく抱き寄せ、こめかみに優しく口づけながら、
「ありがとう、美菜」
そう耳元で甘く囁いて、私の左手をそっと手に取り、薬指にそっと口づけた後で、そこへ指輪を嵌めてくれた要さん。
その後もずっと、要さんが次から次に溢れくる涙をハンカチでそっと優しく拭ってくれていて。
涙が落ち着いてからも暫くの間、眩い光を放ちながら煌めく夜景を眺めつつ、私は要さんと寄り添いあったままでいた。
そんな忘れられない素敵な夜を経て、またいつもの日常に戻りかけていた頃、夏目さんが実家に引っ越し、私と要さんとの新しい生活が始まって、早いものでもうすぐ一か月を迎えようとしている。
私がここで暮らすようになってから、いつも一緒だった夏目さんが居なくなってからは、私一人では大変だろうと、昼間はハウスキーパーさんを雇ってくれている。
要さんとしては、食事の準備もなにもかもすべてをハウスキーパーさんにお願いするつもりだったらしい。
『結婚するといっても、別に俺は美菜に家事をしてもらいたいわけじゃない。俺は美菜に負担をかけたくないし、そんなことに時間を費やすより、美菜との時間を大事にしたい』
そう言ってくれた要さんに、それくらいはさせてほしい、と私がしつこく食い下がってお願いしてやっと、渋々了承してもらえたほど。
要さんは、私に少しの負担も負わせたくはなかったらしい。
それは、確かに嬉しいし、ありがたいことだけれど……。
私としては、春には結婚もするのだし、大好きな要さんのために、大したことはできないだろうけど、それでも少しでも何かの役に立ちたい、そう思ってのことだった。
だから、これまで夏目さんに教えてもらったレシピを書き込んだノートと料理の本を頼りに、この一月の間、毎日料理の特訓に勤しんでいた。
その甲斐あってか、以前はおばあちゃん直伝の茶色い地味な料理ばかりだったのが、今では、味はまだまだ安定しないものの、見た目的には、ちょっとこじゃれたものを作れるようにはなったんじゃないかなと思う。
といっても、味が少々薄かろうが濃かろうが、なんでも美味しい、といって全部残さずに食べてくれる要さんのお陰で、なかなか味付けのほうは上達しないというのが、近頃の私の悩みの種でもあった。
……という風に、夏目さんが居なくなって最初はやっぱりちょっと寂しかったし、夏目さんの美味しい料理に慣れてしまっているだろう要さんに、これから毎日一人で料理を作らなきゃならないのか、という不安もあったけれど、それは稀有に終わった。
思わずはしゃいでしまった私に、終始穏やかな表情を湛えていた要さんが、ふっと柔らかな微笑を零しながら、
「喜んでもらえたようでホッとした。ブーケは美菜をイメージして用意してもらったものだから、勿論持って帰っても大丈夫だ。それと……」
ホッとしたように、そう言ってきた要さんが途中で言葉を切って、おもむろにジャケットのポケットから取り出してきた、クラシカルなオフホワイトの小さな箱を、パカッと開けたかと思えば。
中から、上品な輝きを放つ指輪が姿を現した。
どうやらそれは、以前、要さんが私にと選んでくれた婚約指輪のようだ。
まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった私が、驚いて言葉を発せずに、要さんの動向を見守ることしかできないでいると。
「プロポーズしてから少し時間が経ってしまったが、美菜のおばあさんの納骨を終えてから、もう一度ちゃんとプロポーズしたいと思っていたんだ」
指輪を手にした要さんが、ことの経緯を説明してくれた後。
少し緊張しているのか、なにやら思い切るように小さく息を吐いてから、
「綾瀬美菜さん、一生かけて大事にしたいと思っています。どうか私と結婚してください」
改まった余所行きの、落ち着いた低い声音を響かせた。
突然の素敵なサプライズに感激してしまった私が、涙をポロポロ零しながらも、
「はい」
そうしっかりと返事を返せば。
私の肩をそっと優しく抱き寄せ、こめかみに優しく口づけながら、
「ありがとう、美菜」
そう耳元で甘く囁いて、私の左手をそっと手に取り、薬指にそっと口づけた後で、そこへ指輪を嵌めてくれた要さん。
その後もずっと、要さんが次から次に溢れくる涙をハンカチでそっと優しく拭ってくれていて。
涙が落ち着いてからも暫くの間、眩い光を放ちながら煌めく夜景を眺めつつ、私は要さんと寄り添いあったままでいた。
そんな忘れられない素敵な夜を経て、またいつもの日常に戻りかけていた頃、夏目さんが実家に引っ越し、私と要さんとの新しい生活が始まって、早いものでもうすぐ一か月を迎えようとしている。
私がここで暮らすようになってから、いつも一緒だった夏目さんが居なくなってからは、私一人では大変だろうと、昼間はハウスキーパーさんを雇ってくれている。
要さんとしては、食事の準備もなにもかもすべてをハウスキーパーさんにお願いするつもりだったらしい。
『結婚するといっても、別に俺は美菜に家事をしてもらいたいわけじゃない。俺は美菜に負担をかけたくないし、そんなことに時間を費やすより、美菜との時間を大事にしたい』
そう言ってくれた要さんに、それくらいはさせてほしい、と私がしつこく食い下がってお願いしてやっと、渋々了承してもらえたほど。
要さんは、私に少しの負担も負わせたくはなかったらしい。
それは、確かに嬉しいし、ありがたいことだけれど……。
私としては、春には結婚もするのだし、大好きな要さんのために、大したことはできないだろうけど、それでも少しでも何かの役に立ちたい、そう思ってのことだった。
だから、これまで夏目さんに教えてもらったレシピを書き込んだノートと料理の本を頼りに、この一月の間、毎日料理の特訓に勤しんでいた。
その甲斐あってか、以前はおばあちゃん直伝の茶色い地味な料理ばかりだったのが、今では、味はまだまだ安定しないものの、見た目的には、ちょっとこじゃれたものを作れるようにはなったんじゃないかなと思う。
といっても、味が少々薄かろうが濃かろうが、なんでも美味しい、といって全部残さずに食べてくれる要さんのお陰で、なかなか味付けのほうは上達しないというのが、近頃の私の悩みの種でもあった。
……という風に、夏目さんが居なくなって最初はやっぱりちょっと寂しかったし、夏目さんの美味しい料理に慣れてしまっているだろう要さんに、これから毎日一人で料理を作らなきゃならないのか、という不安もあったけれど、それは稀有に終わった。
0
お気に入りに追加
1,144
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します
佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。
何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。
十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。
未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる