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一難去ったその後で
#18
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「わぁ、可愛い! このブーケって持って帰っちゃってもいいんですかね? それにこのケーキも食べちゃうのが勿体ないくらいおしゃれで可愛い!」
思わずはしゃいでしまった私に、終始穏やかな表情を湛えていた要さんが、ふっと柔らかな微笑を零しながら、
「喜んでもらえたようでホッとした。ブーケは美菜をイメージして用意してもらったものだから、勿論持って帰っても大丈夫だ。それと……」
ホッとしたように、そう言ってきた要さんが途中で言葉を切って、おもむろにジャケットのポケットから取り出してきた、クラシカルなオフホワイトの小さな箱を、パカッと開けたかと思えば。
中から、上品な輝きを放つ指輪が姿を現した。
どうやらそれは、以前、要さんが私にと選んでくれた婚約指輪のようだ。
まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった私が、驚いて言葉を発せずに、要さんの動向を見守ることしかできないでいると。
「プロポーズしてから少し時間が経ってしまったが、美菜のおばあさんの納骨を終えてから、もう一度ちゃんとプロポーズしたいと思っていたんだ」
指輪を手にした要さんが、ことの経緯を説明してくれた後。
少し緊張しているのか、なにやら思い切るように小さく息を吐いてから、
「綾瀬美菜さん、一生かけて大事にしたいと思っています。どうか私と結婚してください」
改まった余所行きの、落ち着いた低い声音を響かせた。
突然の素敵なサプライズに感激してしまった私が、涙をポロポロ零しながらも、
「はい」
そうしっかりと返事を返せば。
私の肩をそっと優しく抱き寄せ、こめかみに優しく口づけながら、
「ありがとう、美菜」
そう耳元で甘く囁いて、私の左手をそっと手に取り、薬指にそっと口づけた後で、そこへ指輪を嵌めてくれた要さん。
その後もずっと、要さんが次から次に溢れくる涙をハンカチでそっと優しく拭ってくれていて。
涙が落ち着いてからも暫くの間、眩い光を放ちながら煌めく夜景を眺めつつ、私は要さんと寄り添いあったままでいた。
そんな忘れられない素敵な夜を経て、またいつもの日常に戻りかけていた頃、夏目さんが実家に引っ越し、私と要さんとの新しい生活が始まって、早いものでもうすぐ一か月を迎えようとしている。
私がここで暮らすようになってから、いつも一緒だった夏目さんが居なくなってからは、私一人では大変だろうと、昼間はハウスキーパーさんを雇ってくれている。
要さんとしては、食事の準備もなにもかもすべてをハウスキーパーさんにお願いするつもりだったらしい。
『結婚するといっても、別に俺は美菜に家事をしてもらいたいわけじゃない。俺は美菜に負担をかけたくないし、そんなことに時間を費やすより、美菜との時間を大事にしたい』
そう言ってくれた要さんに、それくらいはさせてほしい、と私がしつこく食い下がってお願いしてやっと、渋々了承してもらえたほど。
要さんは、私に少しの負担も負わせたくはなかったらしい。
それは、確かに嬉しいし、ありがたいことだけれど……。
私としては、春には結婚もするのだし、大好きな要さんのために、大したことはできないだろうけど、それでも少しでも何かの役に立ちたい、そう思ってのことだった。
だから、これまで夏目さんに教えてもらったレシピを書き込んだノートと料理の本を頼りに、この一月の間、毎日料理の特訓に勤しんでいた。
その甲斐あってか、以前はおばあちゃん直伝の茶色い地味な料理ばかりだったのが、今では、味はまだまだ安定しないものの、見た目的には、ちょっとこじゃれたものを作れるようにはなったんじゃないかなと思う。
といっても、味が少々薄かろうが濃かろうが、なんでも美味しい、といって全部残さずに食べてくれる要さんのお陰で、なかなか味付けのほうは上達しないというのが、近頃の私の悩みの種でもあった。
……という風に、夏目さんが居なくなって最初はやっぱりちょっと寂しかったし、夏目さんの美味しい料理に慣れてしまっているだろう要さんに、これから毎日一人で料理を作らなきゃならないのか、という不安もあったけれど、それは稀有に終わった。
思わずはしゃいでしまった私に、終始穏やかな表情を湛えていた要さんが、ふっと柔らかな微笑を零しながら、
「喜んでもらえたようでホッとした。ブーケは美菜をイメージして用意してもらったものだから、勿論持って帰っても大丈夫だ。それと……」
ホッとしたように、そう言ってきた要さんが途中で言葉を切って、おもむろにジャケットのポケットから取り出してきた、クラシカルなオフホワイトの小さな箱を、パカッと開けたかと思えば。
中から、上品な輝きを放つ指輪が姿を現した。
どうやらそれは、以前、要さんが私にと選んでくれた婚約指輪のようだ。
まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった私が、驚いて言葉を発せずに、要さんの動向を見守ることしかできないでいると。
「プロポーズしてから少し時間が経ってしまったが、美菜のおばあさんの納骨を終えてから、もう一度ちゃんとプロポーズしたいと思っていたんだ」
指輪を手にした要さんが、ことの経緯を説明してくれた後。
少し緊張しているのか、なにやら思い切るように小さく息を吐いてから、
「綾瀬美菜さん、一生かけて大事にしたいと思っています。どうか私と結婚してください」
改まった余所行きの、落ち着いた低い声音を響かせた。
突然の素敵なサプライズに感激してしまった私が、涙をポロポロ零しながらも、
「はい」
そうしっかりと返事を返せば。
私の肩をそっと優しく抱き寄せ、こめかみに優しく口づけながら、
「ありがとう、美菜」
そう耳元で甘く囁いて、私の左手をそっと手に取り、薬指にそっと口づけた後で、そこへ指輪を嵌めてくれた要さん。
その後もずっと、要さんが次から次に溢れくる涙をハンカチでそっと優しく拭ってくれていて。
涙が落ち着いてからも暫くの間、眩い光を放ちながら煌めく夜景を眺めつつ、私は要さんと寄り添いあったままでいた。
そんな忘れられない素敵な夜を経て、またいつもの日常に戻りかけていた頃、夏目さんが実家に引っ越し、私と要さんとの新しい生活が始まって、早いものでもうすぐ一か月を迎えようとしている。
私がここで暮らすようになってから、いつも一緒だった夏目さんが居なくなってからは、私一人では大変だろうと、昼間はハウスキーパーさんを雇ってくれている。
要さんとしては、食事の準備もなにもかもすべてをハウスキーパーさんにお願いするつもりだったらしい。
『結婚するといっても、別に俺は美菜に家事をしてもらいたいわけじゃない。俺は美菜に負担をかけたくないし、そんなことに時間を費やすより、美菜との時間を大事にしたい』
そう言ってくれた要さんに、それくらいはさせてほしい、と私がしつこく食い下がってお願いしてやっと、渋々了承してもらえたほど。
要さんは、私に少しの負担も負わせたくはなかったらしい。
それは、確かに嬉しいし、ありがたいことだけれど……。
私としては、春には結婚もするのだし、大好きな要さんのために、大したことはできないだろうけど、それでも少しでも何かの役に立ちたい、そう思ってのことだった。
だから、これまで夏目さんに教えてもらったレシピを書き込んだノートと料理の本を頼りに、この一月の間、毎日料理の特訓に勤しんでいた。
その甲斐あってか、以前はおばあちゃん直伝の茶色い地味な料理ばかりだったのが、今では、味はまだまだ安定しないものの、見た目的には、ちょっとこじゃれたものを作れるようにはなったんじゃないかなと思う。
といっても、味が少々薄かろうが濃かろうが、なんでも美味しい、といって全部残さずに食べてくれる要さんのお陰で、なかなか味付けのほうは上達しないというのが、近頃の私の悩みの種でもあった。
……という風に、夏目さんが居なくなって最初はやっぱりちょっと寂しかったし、夏目さんの美味しい料理に慣れてしまっているだろう要さんに、これから毎日一人で料理を作らなきゃならないのか、という不安もあったけれど、それは稀有に終わった。
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