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一難去ったその後で
#5
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知らぬ間に、要さんの腕に包み込まれ、胸に抱き寄せられていた私は、そこでハッとした。
いくら疑心暗鬼に陥っていたとはいえ、先ほどの、要さんに対する自分のあんまりな態度を思い出してしまったのだ。
「私こそ、疑って酷いこと言っちゃって……ごめんなさい」
慌てて胸から顔を上げ、そう謝り返せば。
一瞬、何故だか少しだけ驚いたような表情を浮かべた要さん。
私が謝るとは思わなったのかもしれない。
けれど、すぐにその表情は優しいものへと変わって、再び謝ってきた要さんに、
「いや、いくら美菜に心配かけたくなかったとはいえ。ピアスのことで嘘ついたせいで、誤解を招いてしまった俺が悪かったんだ。美菜が謝る必要はない。
それに、夏目の話だと、あの動画見せられても、美菜は俺と『別れたくない』って言ってくれたんだろう?」
「……だって、要さんと……別れる、なんて……そんなの、考え……られなくて……」
最後に、私が木村先輩から要さんとの別れを示唆された時のことを尋ねられ。
その時の心情を思い出してしまった私が、また泣きそうになるのをみかねたのか。
ふっと柔らかな笑みを浮かべて、
「それだけで充分だ。ありがとう、美菜」
それだけ言うと、さっきよりも強い力でぎゅっーと胸に掻き抱くようにして抱きしめてくれた要さん。
そのまましばらくの間。
抱きしめられていた私は、大好きな要さんの腕のなか、暖かなぬくもりと、仄かに鼻腔を擽る要さんの甘やかな香りに、ふんわり優しく包まれ癒されて。
まるで天国にでもいるような、そんな幸せな心地で過ごした。
思ってた以上に呆気なく簡単に、キス動画の件が解決したことで、流石に、もうこれ以上のことなどないだろうと、私は完全にホッと安堵してしまっていたのだ。
♪゜・*:.。. .。.:*・♪
しばらく経ったころ。
コホンというわざとらしく咳ばらいをした、すかしたインテリ銀縁メガネ仕様の、
「副社長、お取込み中のところ悪いのですが、続きは帰ってからにしていただけませんか?」
夏目さんの至極呆れたような声が聞こえてきて。すぐに。
「あぁ、そうだな。それと夏目、念のため、それとの関連だけ調べといてくれ」
「了解」
胸に抱き寄せている私の身体から少しだけ距離をとって、夏目さんに何やら指示を出した要さん。
一体何のことだろう、と気になった私が首だけ傾げ、じっと要さんの表情を窺っていると、
「……少し気にかかることがあるだけで、大したことじゃない。もし何かあれば美菜にちゃんと言う。何も心配しなくていい」
ふっと優しい笑みを零して、優しく諭すように言ってくれたのだけれど。
やっぱり気にかかってじっと要さんのことを見つめていると。
急に何やら意味深に、口の端を片方だけ吊り上げ、妖艶な微笑を浮かべたかと思えば、
「そんなことより、美菜。事故のようなものだったとはいえ、木村とキスした美菜へのお仕置きは、帰ってから時間をかけてじーっくりたーっぷりとしないとなぁ?」
私の瞳をまっすぐに捕らえたまま、表情と同じく意味深な言葉を放った要さん。
その事で、私の意識はさっきのことからそちらへと、完全に転換させられることになった。
いくら疑心暗鬼に陥っていたとはいえ、先ほどの、要さんに対する自分のあんまりな態度を思い出してしまったのだ。
「私こそ、疑って酷いこと言っちゃって……ごめんなさい」
慌てて胸から顔を上げ、そう謝り返せば。
一瞬、何故だか少しだけ驚いたような表情を浮かべた要さん。
私が謝るとは思わなったのかもしれない。
けれど、すぐにその表情は優しいものへと変わって、再び謝ってきた要さんに、
「いや、いくら美菜に心配かけたくなかったとはいえ。ピアスのことで嘘ついたせいで、誤解を招いてしまった俺が悪かったんだ。美菜が謝る必要はない。
それに、夏目の話だと、あの動画見せられても、美菜は俺と『別れたくない』って言ってくれたんだろう?」
「……だって、要さんと……別れる、なんて……そんなの、考え……られなくて……」
最後に、私が木村先輩から要さんとの別れを示唆された時のことを尋ねられ。
その時の心情を思い出してしまった私が、また泣きそうになるのをみかねたのか。
ふっと柔らかな笑みを浮かべて、
「それだけで充分だ。ありがとう、美菜」
それだけ言うと、さっきよりも強い力でぎゅっーと胸に掻き抱くようにして抱きしめてくれた要さん。
そのまましばらくの間。
抱きしめられていた私は、大好きな要さんの腕のなか、暖かなぬくもりと、仄かに鼻腔を擽る要さんの甘やかな香りに、ふんわり優しく包まれ癒されて。
まるで天国にでもいるような、そんな幸せな心地で過ごした。
思ってた以上に呆気なく簡単に、キス動画の件が解決したことで、流石に、もうこれ以上のことなどないだろうと、私は完全にホッと安堵してしまっていたのだ。
♪゜・*:.。. .。.:*・♪
しばらく経ったころ。
コホンというわざとらしく咳ばらいをした、すかしたインテリ銀縁メガネ仕様の、
「副社長、お取込み中のところ悪いのですが、続きは帰ってからにしていただけませんか?」
夏目さんの至極呆れたような声が聞こえてきて。すぐに。
「あぁ、そうだな。それと夏目、念のため、それとの関連だけ調べといてくれ」
「了解」
胸に抱き寄せている私の身体から少しだけ距離をとって、夏目さんに何やら指示を出した要さん。
一体何のことだろう、と気になった私が首だけ傾げ、じっと要さんの表情を窺っていると、
「……少し気にかかることがあるだけで、大したことじゃない。もし何かあれば美菜にちゃんと言う。何も心配しなくていい」
ふっと優しい笑みを零して、優しく諭すように言ってくれたのだけれど。
やっぱり気にかかってじっと要さんのことを見つめていると。
急に何やら意味深に、口の端を片方だけ吊り上げ、妖艶な微笑を浮かべたかと思えば、
「そんなことより、美菜。事故のようなものだったとはいえ、木村とキスした美菜へのお仕置きは、帰ってから時間をかけてじーっくりたーっぷりとしないとなぁ?」
私の瞳をまっすぐに捕らえたまま、表情と同じく意味深な言葉を放った要さん。
その事で、私の意識はさっきのことからそちらへと、完全に転換させられることになった。
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