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一難去ったその後で
#2
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そんな複雑な心境の中で、不意にある考えが浮かんできてしまった私の心と身体が急激に冷えてゆく。
不意打ちで、事故のようなものだったとはいえ、木村先輩にキスされたことで、私は真っ先に要さんへの罪悪感に苛まれて、自分を責めて泣いてばかりいたというのに……。
――要さんはどうして平気でいられるの? キスなんて大したことないって思ってるの?
確かに私は、要さんと出逢うまでお子ちゃまな恋愛しかしたことがなくて、キスなんて高校の時初めて付き合った先輩と一度しか経験がない。
こんなこと想像するのも嫌だし、考えたくもないけど、そんな私なんかとは違って、経験豊富なんだろう要さんにとったら、キスなんてさほど大したことではないのかもしれない。
副社長である要さんと初めて出逢ったあの日の夜だって、偶然居合わせたバーで、酔い潰れて要さんから離れようとしない私のことを反応が面白いからって、可愛がってたらしいし。
要さんはそいうこと平気で簡単にデキちゃうような人だったんだ。木村先輩が言ってた通りだったんだ。
――信じたいって思ってたのに、酷い!あんまりだ!
何か事情があるのかもって、信じようとしていた所為か、そういうことを平気でできちゃうんだって思ったら、要さんに、もう触れられるのさえ嫌でしょうがなくなってきた。
次々に沸き起こってきてしまう要さんへの嫌悪感に堪えきれないくなってしまった私は、相変わらず嬉しそうに私をよしよししている要さんへ向けて、
「ヤダッ!放してっ!触らないでっ!」
ものすごい剣幕で言い放ってしまっていて。
当然、そんな私の心情なんて知る由のない要さんの酷く戸惑った様子が、突然凍り付いたように動かなくなってしまった要さんの身体からも、
「……美菜?……急に、どうしたんだ?」
躊躇いがちにかけられた声からもひしひしと伝わってくる。
けれど、一度溢れてしまった感情は涙と一緒に、まるでタガが外れたように、一気に溢れ出してゆく。もう止まりそうにない。
完全に怒り心頭の私は、未だ私の様子に驚いて、動けずにいる要さんの腕からするりと抜け出した。
要さんは何が何やら意味が分からないというように、呆然としてしまっているようで。
正面で降り立った私の背後に回した腕を下ろしもせずに、かといって触れることもできず、ただただ私のことを見つめたままで動けないでいる。
そりゃ無理もないだろう。自分でもこんなに怒ることがあるんだって、驚いちゃってるくらいなのだから。
といっても、今はそんなことを悠長に驚いてるような暇も余裕なんてものも、微塵もないのだけれど……。
冷静さを失ってしまった私は正面から要さんのことを見上げたまま、
「要さんは静香さんとキスして、婚約者の私のこと裏切って、どうしてそんなに平然としていられるの?私は木村先輩にキスされて、要さんに申し訳なくて合わせる顔がない、そう思って、自分を責めて泣いてたのに。何か事情があるかもって、ずっと信じたいって思ってたのに、酷いっ!あんまりですっ!」
駆け足で捲し立てるようにして、まっすぐに声を放つのだった。
けれど、当の要さんからは、しらばっくれているのか、証拠なんてないとタカをくくっているのか、はたかた本当に心当たりがないのか、
「……俺が……静香と……キス?何を言ってるんだ?」
返ってきたのはそんな言葉で。
怒り心頭になってしまってる私は、当然しらばっくれて、誤魔化そうとしているとしか思えないから、
「誤魔化すつもりですか?酷いっ!」
尚もそういって詰め寄るしかなくて。それなのに……。
「はぁ!?なんで俺が誤魔化さなきゃいけないんだ? それより、木村にキスされたっていうのは本当なのか?おいっ、どうなんだ!?」
静香さんとキスした自分のことを棚に上げておいて、木村先輩とキスした私のことはどうしても許せないらしい。
昨日だって、木村先輩と一緒に食事してただけで、俺のことを裏切るつもりだったのか!?って、目茶苦茶怒ってたし。
――自分勝手にも程がある。
物凄い勢いで、私のことをベッドの上にあっという間に押し倒して組み敷いてくると。
私の顔を挟むようして、左右にドンと勢い任せに腕を突いて、鬼の形相で攻め立ててくる要さん。
一瞬、驚いて怯みそうになったものの、あまりにも自分勝手な要さんの態度に、心底腹が立った私は、負けじと対峙を決め込んでいたのだが……。
そこへ、割り込むようにして、今まで姿を見せていなかった夏目さんが扉の向こうから現れ、ギリ間に合ったか?という声を出した直後、
「ストーップッ!!」
それはそれは大きな声を張り上げた。
それを聞いた私と要さんとが揃いも揃って驚き、ビクッと肩を跳ね上がらせるほどに、それは大きな声だった。
不意打ちで、事故のようなものだったとはいえ、木村先輩にキスされたことで、私は真っ先に要さんへの罪悪感に苛まれて、自分を責めて泣いてばかりいたというのに……。
――要さんはどうして平気でいられるの? キスなんて大したことないって思ってるの?
確かに私は、要さんと出逢うまでお子ちゃまな恋愛しかしたことがなくて、キスなんて高校の時初めて付き合った先輩と一度しか経験がない。
こんなこと想像するのも嫌だし、考えたくもないけど、そんな私なんかとは違って、経験豊富なんだろう要さんにとったら、キスなんてさほど大したことではないのかもしれない。
副社長である要さんと初めて出逢ったあの日の夜だって、偶然居合わせたバーで、酔い潰れて要さんから離れようとしない私のことを反応が面白いからって、可愛がってたらしいし。
要さんはそいうこと平気で簡単にデキちゃうような人だったんだ。木村先輩が言ってた通りだったんだ。
――信じたいって思ってたのに、酷い!あんまりだ!
何か事情があるのかもって、信じようとしていた所為か、そういうことを平気でできちゃうんだって思ったら、要さんに、もう触れられるのさえ嫌でしょうがなくなってきた。
次々に沸き起こってきてしまう要さんへの嫌悪感に堪えきれないくなってしまった私は、相変わらず嬉しそうに私をよしよししている要さんへ向けて、
「ヤダッ!放してっ!触らないでっ!」
ものすごい剣幕で言い放ってしまっていて。
当然、そんな私の心情なんて知る由のない要さんの酷く戸惑った様子が、突然凍り付いたように動かなくなってしまった要さんの身体からも、
「……美菜?……急に、どうしたんだ?」
躊躇いがちにかけられた声からもひしひしと伝わってくる。
けれど、一度溢れてしまった感情は涙と一緒に、まるでタガが外れたように、一気に溢れ出してゆく。もう止まりそうにない。
完全に怒り心頭の私は、未だ私の様子に驚いて、動けずにいる要さんの腕からするりと抜け出した。
要さんは何が何やら意味が分からないというように、呆然としてしまっているようで。
正面で降り立った私の背後に回した腕を下ろしもせずに、かといって触れることもできず、ただただ私のことを見つめたままで動けないでいる。
そりゃ無理もないだろう。自分でもこんなに怒ることがあるんだって、驚いちゃってるくらいなのだから。
といっても、今はそんなことを悠長に驚いてるような暇も余裕なんてものも、微塵もないのだけれど……。
冷静さを失ってしまった私は正面から要さんのことを見上げたまま、
「要さんは静香さんとキスして、婚約者の私のこと裏切って、どうしてそんなに平然としていられるの?私は木村先輩にキスされて、要さんに申し訳なくて合わせる顔がない、そう思って、自分を責めて泣いてたのに。何か事情があるかもって、ずっと信じたいって思ってたのに、酷いっ!あんまりですっ!」
駆け足で捲し立てるようにして、まっすぐに声を放つのだった。
けれど、当の要さんからは、しらばっくれているのか、証拠なんてないとタカをくくっているのか、はたかた本当に心当たりがないのか、
「……俺が……静香と……キス?何を言ってるんだ?」
返ってきたのはそんな言葉で。
怒り心頭になってしまってる私は、当然しらばっくれて、誤魔化そうとしているとしか思えないから、
「誤魔化すつもりですか?酷いっ!」
尚もそういって詰め寄るしかなくて。それなのに……。
「はぁ!?なんで俺が誤魔化さなきゃいけないんだ? それより、木村にキスされたっていうのは本当なのか?おいっ、どうなんだ!?」
静香さんとキスした自分のことを棚に上げておいて、木村先輩とキスした私のことはどうしても許せないらしい。
昨日だって、木村先輩と一緒に食事してただけで、俺のことを裏切るつもりだったのか!?って、目茶苦茶怒ってたし。
――自分勝手にも程がある。
物凄い勢いで、私のことをベッドの上にあっという間に押し倒して組み敷いてくると。
私の顔を挟むようして、左右にドンと勢い任せに腕を突いて、鬼の形相で攻め立ててくる要さん。
一瞬、驚いて怯みそうになったものの、あまりにも自分勝手な要さんの態度に、心底腹が立った私は、負けじと対峙を決め込んでいたのだが……。
そこへ、割り込むようにして、今まで姿を見せていなかった夏目さんが扉の向こうから現れ、ギリ間に合ったか?という声を出した直後、
「ストーップッ!!」
それはそれは大きな声を張り上げた。
それを聞いた私と要さんとが揃いも揃って驚き、ビクッと肩を跳ね上がらせるほどに、それは大きな声だった。
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