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縺れあう糸

#29

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夏目さんのお陰で、表面上は、涙も収まって、気持ちもいくぶん落ち着いたものの、受けてしまったダメージが大きすぎて、完全に取り戻せてはないから、今あの事を口に出せば、また泣きだしてしまいそうで……。

喉も潤って一息ついてからも、何も言い出せずにいる。

そんな私が鬱々とした気持ちをぶつけるように、中身の半分ほどになったペットボトルを意味なく揺すって眺めていると。

飲んでたアイスコーヒーのカップから私の方へ視線を寄越してきた夏目さんに、

「……もしかして、木村がらみ?」

ズバリ言い当てられてしまった。

――私って、そんなに分かりやすいの?

「どっ、どうして分かっちゃうんですかっ!?」
「……どうしてって。さっき美菜ちゃん探してるとき、エレベーター待ちの木村に会ったんだけど、俺の顔見て気まずそうにしてたから、もしかしてって……」
 
――な、なんだ、そういうことだったんだ。ビックリした。
 
なんでもかんでも顔に出てた訳じゃないんだ、とホッとして、

「なんだ、そうだったんですか」
 
夏目さんにそう返したところへ……
 
「告られてキスでもされちゃった?」
 
カップを持った手を組んだ脚の上に置いて、傾けたカップの中身を覗きながら、夏目さんにさらっと、またまたズバリ言い当てられてしまい。

まさかカマとも知らず、驚きすぎて、狼狽えてしまった私が、手にしていたキャップを外したままだったペットボトルを床に落としそうになって。

これまたあわてふためき、まるで真剣白羽取りのような動きでもって、すんでのところでキャッチし、事なきを得たのだけれど……。

「……ええっ!?マジでっ!?」
「////」
「チッ!それであんな顔してたのか、あのクソガキ!今度会ったら覚えてろよ! ……で、ちゃんとフッたんだよね?」
「……え? あぁ……はい」
「フンッ、ザマァ!」
「――へ!?」
「ううん、こっちの話」
 
そんな私の分りやすい反応が災いし、ズバリ言い当てた筈の夏目さんの驚いた声で、カマだと気づいたところで、後の祭りだった。

話の合間で、時折、夏目さんが舌打ちしたり、物凄い形相でブツブツ独りごちていたような気がしたものの……。

そういえば、木村先輩に好きだと言われたことに対し、何も言ってないけど。それどころじゃなかったし、今度でもいいよね?

あ、そういえば、春に要さんが社長に就任するとも聞いたけど。あれ、本当なのかな?

要さんのあのキスの時、夏目さんも車の中に居たのかな?

でも、翌朝ピアス見つけた時、要さんと口裏を合わせていたとしたら、居たとしても、本当のことなんて言ってくれないだろうし……。
 
――うーん、どうしたものか……。

余所事を考えてしまってた私は、夏目さんの言動について、特に何も思うことはなかった。


色々考えたあげく、その中で無難なことから訊くことにした私は、未だになにやらブツクサと毒づいてる様子の夏目さんへと向き直るのだった。

「あの、夏目さん?」
「……ん?なーに?」
「あの、……要さんが……結婚を機に、春に社長に就任するって話、本当なんですか?」
「……え!?それ、誰から聞いたの?」
「……えと、噂で……聞いて」
 
けれど、就任の件を私が訊いた途端、優しい表情で言葉を待っていてくれた夏目さんが、急に真顔となって身を乗り出してきたもんだから、思わず言葉を濁して、本当のことは言えなくなってしまったけれど……。

「ふーん、噂ねぇ? 同じこと聞いたような気もするけど。まぁ、婚約も決まったし、そんな噂が出回ってても不思議じゃないかぁ……。まぁ、実際、今までも重役の間ではそういう話もちょくちょく出てたし。でも、春に社長就任の件は麗子さんが言ってるだけだよ。

要は、社長になって忙しくなったら美菜ちゃんとの時間が減るからって、渋ってるしみたいだし。実際就任するのは、まだ先になると思うよ?」
 
「……そうですか」

若干なにやら違和感のようなものを感じつつも、要さんが私に隠していた訳じゃないと分かった私は、とりあえずホッと胸を撫で下ろすことができた。

ホッとしたのも束の間、

「……で、美菜ちゃんが訊きたいことはそれだけじゃないよね? 優しいお兄さんに、なんでも言ってごらん?」

優しい声音とは裏腹に、要さんを思わせるような、有無を言わせないという威圧感半端ない夏目さんの鋭い視線で、見据えられてしまった私の心拍数は一気に跳ね上がった。
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