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縺れあう糸
#27
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「……え!?」
木村先輩からまさかそんなことを言われるなんて思ってもみなかった私の口から出てきたのはそんなもので。
そしたら木村先輩は、一瞬ふっと柔らかい笑みを零して、
「そんな驚かれると俺、自信なくなっちゃうんだけど、美菜ちゃんだからしょうがないか。俺、美菜ちゃんと話すようになって、誰に対しても裏表なくて素直だし可愛い子だなって気になってから今まで、ずっとアピールしまくってたのに、美菜ちゃん全然気づいてくれないんだもんな。それどころか、俺のこと先輩としてしか見てないから警戒もしなくて。
そんなこと今までなくてさ、美菜ちゃんのことがますます気になって、どんどん好きになっちゃって、気づいたら、手出すのも怖くなっちゃってた。その間にもどんどん美菜ちゃん綺麗になっていちゃって、そしたら副社長と婚約したって、聞いて。美菜ちゃんが幸せならって諦めようと思ってたのに、こんなの見ちゃって……」
驚きすぎて涙も引っ込んじゃって、さっきと同様木村先輩のことを瞠目したまま凝視し続ける私に向けて、これまでのことを話してくれた木村先輩。
私が混乱気味の頭の中で、木村先輩の言葉を反芻したところで、情報処理が追いつくはずもなく、もはやフリーズ状態だ。
そんな私に向けて、木村先輩は、
「なのに、こんな証拠突きつけられても、まだ『別れたくない』なんて言わせちゃう副社長がうらやましよ。でも、どんなに美菜ちゃんが副社長のこと好きでも、婚約者がいるのにこんなこと平気でやれちゃうような男のことなんて、早く忘れたほうがいい」
今度は私のことを優しく諭すように言ってきた。
けれども、フリーズしてしまってた私は、その言葉に即座にハッとなり、当然そんなことを聞き流すことなんてできないから、
「やだ、別れたくないし、忘れたくもないっ!きっと理由があったんですよ、そうじゃなかっ……っん!?」
反論を試みた私の口は、優しかった表情を再び泣きそうなものに豹変させた木村先輩の唇によって、封じられてしまうのだった。
何がどうしてこうなっちゃったのか、なにがなにやらさっぱり理解できない。
木村先輩に反論したとたん、もうなにも言わせないという風に、口を唇で塞がれてしまっている私は、目をひん剥いたまま硬直してしまっている。
今私の目の前には、瞼を伏せた木村先輩の顔がドアップで映し出されていて。唇にはやけにリアルにしっとりと生暖かな感触が……。
――これは、夢じゃなくて、本当に現実なんだ。
この短時間の間に、あまりにも色んなことが立て続けで起こったせいで、もしかして夢なんてオチが待っているんじゃないか、なんて、都合の良すぎることを考えてしまっていた私は、皮肉にも木村先輩のキスのお陰で現実世界へと引き戻されたのだった。
ただただ固まったまんまで、なんの反応も返さない私の反応に、視界の中の木村先輩が瞼を上げて、私の様子を窺ってきて。
そのタイミングで、木村先輩のことを両手で突き飛ばすようにして押し返した私。
すぐに、
「……ごめん。美菜ちゃんがあんまりかたくなだから……つい」
と、木村先輩から声がかけられたようだったけれど、そんなの完全無視。
――謝るくらいなら、そんなことしてほしくなかった。
私は依然ベンチに座ったままで、隣の木村先輩のことを視界には入れないように俯いて、手の甲で自分の唇を何度も何度も強く擦って、木村先輩の唇の感触を拭うことに必死だ。
でも、いくら頑張ってみたことろで、木村先輩の唇の感触が生々しく残っていて、少しも消えてなんかくれない。
それでも、一刻も早くなんとかして消し去ってしまいたくて、何度も何度も擦り続けた。
――何か理由がある筈だ、とは思いながらも……そんな根拠も、自信もない。
もしかしたら、木村先輩の言うように、本当に裏切られてるかもしれないというのに……。
どんどん要さんへの罪悪感が沸き起こってきてしまう私は、そんな自分のことが不憫になってきた。
それに、もし裏切られていたとしても、これまでと変わらず、私のことを傍に置いてくれるなら……それでも構わない、なんてことを思ってしまっている自分に対しても……。
――これじゃ、契約という鎖で繋がれてた頃と一緒だ。
木村先輩からまさかそんなことを言われるなんて思ってもみなかった私の口から出てきたのはそんなもので。
そしたら木村先輩は、一瞬ふっと柔らかい笑みを零して、
「そんな驚かれると俺、自信なくなっちゃうんだけど、美菜ちゃんだからしょうがないか。俺、美菜ちゃんと話すようになって、誰に対しても裏表なくて素直だし可愛い子だなって気になってから今まで、ずっとアピールしまくってたのに、美菜ちゃん全然気づいてくれないんだもんな。それどころか、俺のこと先輩としてしか見てないから警戒もしなくて。
そんなこと今までなくてさ、美菜ちゃんのことがますます気になって、どんどん好きになっちゃって、気づいたら、手出すのも怖くなっちゃってた。その間にもどんどん美菜ちゃん綺麗になっていちゃって、そしたら副社長と婚約したって、聞いて。美菜ちゃんが幸せならって諦めようと思ってたのに、こんなの見ちゃって……」
驚きすぎて涙も引っ込んじゃって、さっきと同様木村先輩のことを瞠目したまま凝視し続ける私に向けて、これまでのことを話してくれた木村先輩。
私が混乱気味の頭の中で、木村先輩の言葉を反芻したところで、情報処理が追いつくはずもなく、もはやフリーズ状態だ。
そんな私に向けて、木村先輩は、
「なのに、こんな証拠突きつけられても、まだ『別れたくない』なんて言わせちゃう副社長がうらやましよ。でも、どんなに美菜ちゃんが副社長のこと好きでも、婚約者がいるのにこんなこと平気でやれちゃうような男のことなんて、早く忘れたほうがいい」
今度は私のことを優しく諭すように言ってきた。
けれども、フリーズしてしまってた私は、その言葉に即座にハッとなり、当然そんなことを聞き流すことなんてできないから、
「やだ、別れたくないし、忘れたくもないっ!きっと理由があったんですよ、そうじゃなかっ……っん!?」
反論を試みた私の口は、優しかった表情を再び泣きそうなものに豹変させた木村先輩の唇によって、封じられてしまうのだった。
何がどうしてこうなっちゃったのか、なにがなにやらさっぱり理解できない。
木村先輩に反論したとたん、もうなにも言わせないという風に、口を唇で塞がれてしまっている私は、目をひん剥いたまま硬直してしまっている。
今私の目の前には、瞼を伏せた木村先輩の顔がドアップで映し出されていて。唇にはやけにリアルにしっとりと生暖かな感触が……。
――これは、夢じゃなくて、本当に現実なんだ。
この短時間の間に、あまりにも色んなことが立て続けで起こったせいで、もしかして夢なんてオチが待っているんじゃないか、なんて、都合の良すぎることを考えてしまっていた私は、皮肉にも木村先輩のキスのお陰で現実世界へと引き戻されたのだった。
ただただ固まったまんまで、なんの反応も返さない私の反応に、視界の中の木村先輩が瞼を上げて、私の様子を窺ってきて。
そのタイミングで、木村先輩のことを両手で突き飛ばすようにして押し返した私。
すぐに、
「……ごめん。美菜ちゃんがあんまりかたくなだから……つい」
と、木村先輩から声がかけられたようだったけれど、そんなの完全無視。
――謝るくらいなら、そんなことしてほしくなかった。
私は依然ベンチに座ったままで、隣の木村先輩のことを視界には入れないように俯いて、手の甲で自分の唇を何度も何度も強く擦って、木村先輩の唇の感触を拭うことに必死だ。
でも、いくら頑張ってみたことろで、木村先輩の唇の感触が生々しく残っていて、少しも消えてなんかくれない。
それでも、一刻も早くなんとかして消し去ってしまいたくて、何度も何度も擦り続けた。
――何か理由がある筈だ、とは思いながらも……そんな根拠も、自信もない。
もしかしたら、木村先輩の言うように、本当に裏切られてるかもしれないというのに……。
どんどん要さんへの罪悪感が沸き起こってきてしまう私は、そんな自分のことが不憫になってきた。
それに、もし裏切られていたとしても、これまでと変わらず、私のことを傍に置いてくれるなら……それでも構わない、なんてことを思ってしまっている自分に対しても……。
――これじゃ、契約という鎖で繋がれてた頃と一緒だ。
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