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縺れあう糸

#8

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泣くのも忘れ、勢い任せに本音をぶつけた私が、要さんの腕から逃れようと、要さんの胸に両手をついて押し返そうとするも、当然びくともしない。

それどころか、要さんに腕を両手でそれぞれに掴んで持ち上げられてしまえば。泣いてグチャグチャになっているだろう酷い顔を見られたくないなんて思ったところで、顔を上げざるを得ない。

「ヤダ、放してっ!」

堪らず、両手を拘束された私が要さんの視線からなんとか逃れようと、ジタバタ悪あがきするも。

「俺もイヤだ。話をちゃんと聞いてくれるまで離さない」

まるで駄々っ子のような言葉を放った要さんは、構わず私の瞳をまっすぐに見据えてくる。

負けじと意気込んで、要さんと対峙するように、私もまっすぐに視線を向ければ。その要さんの表情は、酷く傷ついたように見える。

いつもはキリリとした凛々しい筈の漆黒の眉も八の字に垂れているし。切れ長の漆黒の瞳も悲しげに揺らいでいて、今にも泣き出してしまいそうだ。

そんな要さんの表情に、胸が締め付けられるようで、切なくなる。

――こ、今度は泣き落とし? そんなんで誤魔化されないんだから!

一瞬、グラリと傾きかけた気持ちを立て直そうとしているところを見越したような絶妙なタイミングで、要さんの声が聞こえてきて。

「昨日は酔っていたとはいえ、嫉妬して酷い抱きかたして、美菜にちゃんと謝りたい、そう思ってたのに……。さっきも嫉妬して、乱暴なことして。俺の気持ちを疑われても仕方ないと思う。

それでも、信じてほしい。
契約を交わしてでも傍に居てほしいと思った美菜のことを、俺が信用できない、なんて、そんなこと思うことは絶対にない。

ただ、美菜のことが大事すぎて、失うのが怖くて堪らなくて……。気づいたら、いつも自分のコントロールができなくなってて……。こんなこと、初めてで、自分でもどうしたらいいか分からない。それくらい美菜のことを愛してる」

さっきは、今にも泣きそうな雰囲気だったけれど、私の瞳をまっすぐに見つめながら、私になんとか気持ちを伝えようという一心で、言葉を紡ぎ出す要さんの表情は、真剣そのものだ。

――とても、嘘をついているようには見えない。

それでも、さっきの怒りで我を忘れていた要さんの放った、『お前も』という言葉がどうしても引っ掛かってしまうものだから、素直に、ハイそうですか、なんて返せる訳がなく。

「だったら昨日、どうして私のことを一人残して行っちゃったりしたの?夏目さんを呼ぶ時間があるなら、様子くらい見に来てくれれば良かったのに。私は夏目さんじゃなくて、要さんに来てほしかった」

気づけば私は、昨日のことで要さんのことを尚も責めるような言葉を放ってしまっているのだった。

でも、本当は、要さんの気持ちを信じたいという気持ちもあった。

――来なかったんじゃなくて、来れなかった理由があったのかもしれないって。

それなのに、一方の要さんは、私の顔をまっすぐに見つめたままではあるけれど、痛いところを突かれた、というようなそんな表情をしている。

途端に、私の中の信じたいという気持ちが、不安一色に塗り替えられてゆく。

そんななか、要さんの酷くバツの悪そうな小さな声が耳に流れ込んでくるのだった。

「……実は、様子は見に行ったんだが、夏目と楽しそうに話している美菜の声を聞いたら、腹が立って。酔った勢いで、怒鳴り散らしそうで。すぐに離れに戻ったんだ」

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