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縺れあう糸

#4

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目的地であるカフェに向かう道すがら、


「実は、お祝いっていうのは口実なんだよね」


そんなことを切り出してきた木村先輩の申し訳なさそうな声が聞こえてきて。あまりに唐突だったため、私がポカンとしていると……。


「ハァー、やっぱ美菜ちゃん相手だと俺、調子狂っちゃうなぁ」


何故か急に、夕焼けにはまだほど遠い夏の青空を仰ぐように見上げたかと思えば、大きな溜め息と一緒にこれまた独り言にしてはやけに大きな声を吐き出した木村先輩。


私は、その大きな声に一瞬驚いたものの。
さっきの言葉といい、独り言といい、一体どういう意味だろう、と木村先輩のことを凝視して首を傾げ、ただただ様子を窺っていることしかできないで居る。


木村先輩は、そんなお馬鹿な私の方へと視線を戻してくると、可哀想な子を見るようにして、やれやれって表情で数秒みやってから、


「ただの独り言だから気にしなくていいよ。それから、口実って言っても、変な意味じゃないから安心して?」


いつもの明るいちょっと軽い口調に戻った木村先輩の言ってくれた言葉に、


「……あぁ、はい」


やっぱり何が言いたいのか掴めなくて、困惑ぎみな表情をして返してしまっていたのだろう私に、


「今から行く店、前々から行ってみたいって思ってたカフェなんだけど。そこ、日替わりスイーツが人気らしいんだ。それで、試作品のヒントになるかなって。けど、男一人で行くのはちょっとさ。で、美菜ちゃん誘ったっていう訳。だからそんな恐縮しないでいいよって言いたかっただけだから」


さっき"口実"と言ってきたことの詳細を分かるように、噛み砕いて教えてくれた優しい木村先輩。


――あぁ、なんだ、そういうことだったんだ。


そこでようやく、木村先輩の言わんとすることを理解するに至った間抜けな私は、木村先輩に連れてきてもらった、お洒落なカフェへと足を踏み入れた。


シックな色彩の高い天井には、綺麗なシャンデリアが吊るされていて。落ち着いたロマンチックな雰囲気に、凝ったインテリア、いかにも女子受けしそうなお店だった。


テーブル席にソファ席、カウンター席に、個室まであるようだ。


ちらほらカップルの姿も見えるけれど、木村先輩の言葉通り、確かに若い女性客の姿が圧倒的に多いようだ。ここに男性が一人で立ち入るには、かなりの勇気が必要だろう。


料理は、男女ともに人気でお勧めだというコース料理に決まって。量質ともに大満足で、これ以上もう食べられないとか言ってた筈なのに。最後のデザートまで残さずペロリと平らげてしまった私は、木村先輩にお腹を抱えて笑われてしまうというオチまで付いていた。


店を後にしてからも、夕焼けの下《もと》、駅の方に向かって歩きながら、ビールを一杯だけ呑んだ木村先輩に、結構大食いだよね?とかいってからかわれていたのだけれど……。


「あー、あー、美菜ちゃんが結婚しちゃうなんて、寂しくなっちゃうよなぁ」
「あっ、でも、まだ先のことですけどね」
「美菜ちゃんさ、本当にこのまま結婚しちゃってもいいの?」


少し前を歩いていた木村先輩が急に歩みを止めて、後ろの私の方へ振り返ってきたと思ったら、真顔で見据えられ、そんなことを訊かれて。


「……え?」


そんなことを訊かれるとは思いもしなかった私が、大きく見開いた目でパチクリしながら見つめていると。


「あっ、いや、その、なんていうかさ――!?」


と、歯切れの悪い物言いをしかけた木村先輩の言葉がどういう訳だか途切れたかと思えば……。


それと同時に、何故かカッチーンとまるで石にでもされたかのように突然固まってしまった木村先輩。


――え!?何?何?一体全体何がどうなっちゃったっていうの?


私が状況を把握しようと、恐る恐る木村先輩の視線の先をたどって、自分の背後に振り返ってみると。


数メートル先で、怖いくらいに綺麗なお顔を真っ赤にさせて、これでもかってくらいに怒りを露にした鬼の形相で仁王立ちし、木村先輩を射抜くような、それはそれは鋭利な眼光で、睨み付けている要さんの姿があった。

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