【R18】訳あり御曹司と秘密の契約【本編完結・番外編不定期更新中】

予期せぬ出来事とほころび

#２６

***



あれからしばらくして、私が病院の待合室で待ってたところへ現れた譲さんに連れられ診察室へと移動して。


壁側のデスクに背中を向けて椅子に腰をおろした譲さんの対面に置かれているキャスター付きの丸椅子に、私が座ったとほぼ同時、


「美菜ちゃん、さっきは嫌な思いさせちゃって、ごめんね」


申し訳なさそうに言ってきた譲さんに、


「……いえいえ」


なんでもないように返しながら、内心では泣き出してしまわないように、踏ん張るのに精一杯だった。


――あんな綺麗な女性が要さんの元カノだったなんて……。


比較にもならないというのに、要さんの隣に並ぶ静香さんの姿と、どこにでも居るような平凡な容姿しか持ち合わせていない自分の姿とを、思い浮かべてみるたびに、酷く落胆してしまう始末。


それに、私が要さんとこういうことになれたのは、要さんのアレのことがあったからだし。


アレのことがなければ、きっと、ただの新入社員に過ぎない私と副社長である要さんとがこうはならなかっただろうし……。


それに、『嫌いになって別れた訳じゃないの』って言ってたし。


要さんと静香さんが再会したら、その時の気持ちに戻っちゃったりするのかも……。


――あぁ、ダメだ、ダメだ。要さんのこと信じなきゃ。


……そうは思っても、意識の片隅では、静香さんの衝撃的な言葉と、静香さんの綺麗な後ろ姿がちらついてしまうから、気持ちはおのずと沈んでいってしまう。


かなりのダメージを受けてしまっている私の耳に、譲さんの声が流れ込んできて、意識をそちらに集中させた私は、


「いやぁ、でも、まさか静香ちゃんが日本《こっち》に帰ってるなんて、びっくりしちゃったよ。

俺、二人と同じ中高一貫の学校で、静香ちゃんとは同学年だったし。三人とも生徒会役員だったっていうのもあって、その当時のことよく知ってるんだけど……。あ、ちなみに、うちの奥さんも一緒だったんだけどね。

まぁ、それに、静香ちゃんの叔父の保さんとは元々親同士交流があったし。静香ちゃんの父親(保さんの義兄)が航空会社経営してるのもあって、要の両親とは昔から仕事上の付き合いもあって、小学生くらいからお互い知ってたし。

けど、静香ちゃんが音大の時に色々あって、要と別れて留学したきり、そのまま向こうで活動してて、こっちにはあんまり帰ってきてないようだったんだけど……」

「……」


譲さんの最後に何かを濁したようなニュアンスに、


――あぁ、やっぱり、要さんと静香さんの間には、色々な事情があったんだ……。


と、妙に納得してしまっている自分がいて。


「……ご、ごめん。要の元カノの話なんて聞きたくないよね？」

「……聞きたくないというか、聞くのが……怖いです」


だから、譲さんの私を気遣ってくれる言葉にも、余計な心配をかけてしまうというのに、そいう風に気遣う余裕もなかった私は、譲さんに、正直に応えてしまっていて。


きっと表情も、今にも泣き出してしまいそうになってるんだろうと思うけれど……。


そんな私に、優しい譲さんが、


「そっ、そうだよね。ごめん。

で、でも、そんなに気にしなくても、要と静香ちゃんが別れたのはもう十四、五年前の、まだ学生だった頃のことだしさぁ……。
もう、今はお互い大人だし、全然なんとも思ってないようだから、全然、心配はないから」

「……はい」

「うん、じゃぁ、この話はもうやめにして、診察始めようか？」

「はい、お願いします」


そうやって、色々とフォローしてくれていたことに対しても、

『要さんの静香さんに対する気持ちは分からないけど、少なからず、静香さんの方は、要さんのことをなんとも思ってないようには見えなかったけどなぁ』

そう心の中で思ってしまっていた所為で、私はうまく笑うこともできないまま、譲先生による診察が始まった。