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予期せぬ出来事とほころび
#23
しおりを挟む結局のところ、昨夜の要さんと夏目さんのあの見事なハモリにより、夏バテモードの私は、『大事をとって今日は休みをとって病院にいくように』と、心配症の要さんに言い渡されてしまった。
そしてたった今、会社へと出勤していく要さんと夏目さんを見送るため、部屋の玄関ホールまでついて来ていたところ。
「……本当に大丈夫なのか?」
「はい。そんなに心配しなくても、ただの夏バテなんで大丈夫ですから」
「まぁ、譲《ゆずる》には連絡した時にちゃんと迎えに来るよう言ってはあるが、何かあった時のことを考えると心配で心配で……。とはいえ、今日は午前中に会議があるし、夜は社長と一緒に会食に招かれていて、今さらキャンセルはできないし……」
「……要、心配なのは分かるけど、そろそろ出掛けないとまずい」
「あぁ、分かった。
美菜、悪いが行ってくる。譲に何か変なこと言われたりされたりしたらすぐに電話するんだぞ? いいな?」
「……はい、分かってます。いってらっしゃい」
「あぁ、いってくる」
体調の悪い私との別れを惜しむ心配症の要さんが、時間が経過するのも忘れたように、私のことを腕に閉じ込めたままで色々と案じているのを、すかしたインテリ銀縁メガネ仕様の夏目さんによって急かされていたのだった。
それから数時間後の午前十時過ぎ、要さんの従兄《じゅうけい》で光石総合病院の院長である光石譲さんの来訪を知らせるインターホンのチャイムが鳴り響いた。
先程の要さんとの会話からもお察しの通り、可哀想な譲さんは、私を病院へと送迎するためだけに、わざわざこのマンションへと呼びつけられたのである。
昨夜遅くに、要さんが譲さんにいきなり電話して、
『急で悪いが、できれば明日の午前中にでも体調の悪い美菜の診察と送迎を頼みたいんだが。
……あ!? 『小百合さん(外科医の奥様)が学会でしばらく居ないから葉山の保さんとこにでも行って一人でのんびりしようと思ってたのに』ってことは、暇なんだな? じゃぁ、よろしく頼む。
嫌なら今から小百合さんにも電話しておくが。……あぁ、そうか分かった。じゃぁ十時頃に……』
なにやら強引に会話を進めていたかと思えば、あっという間に約束を取り付けてしまっていたのだった。
インターホンで譲さんの顔と声を確認した途端、私が入院している間、たびたび繰り広げられていたあの仲睦まじい二人の光景がありありと脳裏に浮かんでくるようで、ちょっとほっこりしてしまった。
そのお陰で、さっきまで夏バテモードで重かった私の足取りは、いつの間にか軽くなっていて、軽い足取りで譲さんの待つマンションの駐車場へと向かうと。
例えるなら、"チョイ悪系"の譲さんにお似合いの、厳《いか》つい顔つきのイタリア製の高級車にもたれ掛かるようにして、私のことを待ってくれていた譲さん。
譲さんのことを分かりやすいからと、なんとなく"チョイ悪系"と表現していたのだけれど、その光景があまりにも私の持っていたイメージとピッタリだったため、私は思わず吹き出しそうになってしまった。
すると、私の気配に気づいたらしい譲さんが、手に持っていたらしい白衣を手早く颯爽と身に纏《まと》ってから、車の後部座席のドアを開けて、駆け寄った私のことを慣れた感じで、ごくごくスマートに出迎えてくれて。
「譲さん、こんにちは。お久しぶりです」
「やー! 美菜ちゃん、こんにちは。ホント久しぶり~」
「今日はお忙しいところ、わざわざすみませんでした」
「美菜ちゃんは患者さんなんだから、そんなの気にしなくていいから、いいから。さぁさ、こちらの後部座席へどうぞ。話しづらいけど、要がうるさいから念のため。ね?」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
「じゃぁ行こうか?」
「はい。よろしくお願いします」
そんなこんなで、夏バテモードの私は、譲さんの運転するイタリア製のなんちゃらいう高級車の座り心地のいい後部座席に座って、光石総合病院へと向かった。
それから、おおよそ三十分ほどで光石総合病院に到着した私は、譲さんに案内されるまま、駐車場から職員専用の通用口の通路へと差し掛かった時だった。
ちょうど今しがた、通用口から出てきたところだったらしい三十代とおぼしき綺麗な女性に、
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