上 下
150 / 427
予期せぬ出来事とほころび

#20

しおりを挟む

お祖母ちゃんに知らない間に心配をかけてしまってたことにもショックだったし、『大事な人を頼ってください』と急に言われても、一体どうすればいいかもよく分かんないし。


だいたい要さんには、これまでだって奨学金に始まり生活費だってそうだし、私の入院費だって全部出してもらったし、色々お世話になってしまってるというのに。


だからこれ以上甘える訳にはいかないって、これ以上迷惑かけちゃいけないって……。


それなのに、そういうことを知らずに書いたお祖母ちゃんの手紙通りに、要さんに頼ってしまって、迷惑だとか、煩わしいとか、そんな風に思われてしまうのがメチャクチャ怖い。


だから、この数日、ずっと泣くのを我慢していたっていうのに……。


……というように。


お祖母ちゃんの手紙を読んで、ただでさえカルチャーショック並みに衝撃をくらって、パニクってしまってるというのに……。


「……ど、どういう……意味、ですか?」


まるで私が泣くのを待っていたような要さんの言葉が妙に引っ掛かって、私が泣きじゃくりながらも要さんの胸から泣き顔を上げて、要さんの正面から対峙し問いかけてみるも。


当の要さんは、


「いや、なんでもないから気にするな。そんなことより今は泣くことに集中しろ。ほら」


なんて、どこか嬉しそうな声音で、はぐらかすように(それらはあくまで私の見解だけれど)、そんなことを言ってきたかと思えば。


今度は、私の後頭部に手を添えて、そのまま私の泣き顔を元通り自身の胸へと優しく押し戻してしまった。


そして何もなかったかのように、要さんはさっきまでと同じように、私の背中を優しくトントンしてくれている。


『今は泣くことに集中しろ』と要さんが言った通り、どうやら私が泣くのを待っていたというのは、私の勘違いではなかったようだ。


そればかりか、私のことをまだまだ泣かせる気満々なようだし。


――そうはいくかと抗《あらが》いたいのはやまやまなのだけれど……。


要さんの暖かな胸に抱かれながら、要さんに背中を優しくトントンされるたびに、それがまるで"呼び水"となって、余計に涙が溢れてきてしまうから堪らない。


いつもは、とっても安心できる大好きな場所だけど、いまはそれら全てが恨めしい。


お祖母ちゃんの手紙を読んで泣いてしまったものの、速くなんとかして涙を止めてしまいたいというのに……。


――これじゃ一向に涙は止まってくれそうにない。


堪りかねた私が泣きじゃくりながら、


「……もう、やめてくださいっ!そんな風に優しくされたら涙が止まんないじゃないですかっ!」


そう抗議するも……。


「泣きたいだけ泣けばいい。辛いのに無理して笑っていられるより、こうやって泣いてくれた方がよっぽどいい。だからやめない」


迷惑がるどころか、当たり前のようにそう言ってきた要さんの揺るぎない声に、一瞬、怯みそうになったものの。


『辛いのに無理して笑っていられるより、こうやって泣いてくれた方がよっぽどいい』というのがお祖母ちゃんの手紙とダブってしまい。


「……お祖母ちゃんも、要さんも、どうしてそんなこと言うの?ーー」


泣いて興奮してしまってる私は、今さら引くに引けなくなって、お祖母ちゃんの手紙に書かれていたことから、自分が一体どうすればいいか分からずにパニックに陥ってしまっていること。


それから今まで色々お世話になってしまってる要さんにこれ以上頼って、煩わしいとか迷惑だとか思われるのが怖いことなど。


それら全てを吐き出してしまっていて。


「ーーもう、どうしたらいいか分かんない……」


勢いに任せて、全てを吐き出してしまった私が、要さんの胸でふにゃりと力尽きるようにしなだれて、最後にぼそりと零した途端。


終止私の言葉に黙って静かに耳を傾けてくれていた要さんは、しなだれた私の身体をぎゅっと自分の胸へ掻き抱くように引き寄せると……。


「……そうか、分かった。ちゃんと言ってくれて、ありがとな、美菜」


そう言って受け止めてくれた要さんからは、私の放った言葉のひとつひとつに応えるようにして、安定の揺るぎない声音が放たれた。


「今は冷静になれないだけで、美菜の方がよく分かってるだろうが、親代わりのお祖母さんが孫である美菜を心配するのは当然のことだと思うから気にしなくていいし。

俺は美菜のそういう"素直で心根の優しいところ"に惹かれたんだから、美菜は今まで通りで居てくれればいい。

それに、頼られて嬉しく思うことはあっても、迷惑だとか煩わしいなんて思うことは断じてないから安心してほしい。

美菜にそう思わせてしまったのは心外だが、そう思われないように努めて、これからは俺が美菜のことをちゃんと支えていく。

勿論、結婚してからも夫としてずっと美菜のことを傍で支えていくから、美菜は俺と幸せになることだけを考えていてほしい」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹黒御曹司の独占欲から逃げられません 極上の一夜は溺愛のはじまり

春宮ともみ
恋愛
旧題:極甘シンドローム〜敏腕社長は初恋を最後の恋にしたい〜 大手ゼネコン会社社長の一人娘だった明日香は、小学校入学と同時に不慮の事故で両親を亡くし、首都圏から離れた遠縁の親戚宅に預けられ慎ましやかに暮らすことに。質素な生活ながらも愛情をたっぷり受けて充実した学生時代を過ごしたのち、英文系の女子大を卒業後、上京してひとり暮らしをはじめ中堅の人材派遣会社で総務部の事務職として働きだす。そして、ひょんなことから幼いころに面識があったある女性の結婚式に出席したことで、運命の歯車が大きく動きだしてしまい――?  *** ドSで策士な腹黒御曹司×元令嬢OLが紡ぐ、甘酸っぱい初恋ロマンス  *** ◎作中に出てくる企業名、施設・地域名、登場人物が持つ知識等は創作上のフィクションです ◆アルファポリス様のみの掲載(今後も他サイトへの転載は予定していません) ※著者既作「(エタニティブックス)俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる」のサブキャラクター、「【R18】音のない夜に」のヒーローがそれぞれ名前だけ登場しますが、もちろんこちら単体のみでもお楽しみいただけます。彼らをご存知の方はくすっとしていただけたら嬉しいです ※著者が読みたいだけの性癖を詰め込んだ三人称一元視点習作です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18】お兄ちゃんと契約結婚!?~不感症でオタクなちょいぽちゃの私がスパダリ御曹司に溺愛されて恋愛フラグ争奪戦~

弓はあと
恋愛
※R18シーンは予告なく(冒頭から)入ります。ご注意ください。 私のお兄ちゃんは自分がハイスぺ男子だという自覚が無くて、小さい頃からベタな恋愛フラグを無自覚に立てまくる。 悪い女にひっかかりそうで、妹としては心配でたまらない。 え?その妹なら私もさぞかし容姿端麗、文武両道、高潔無比なお嬢様だろうですって? 残念ながら、うちの両親はお兄ちゃんに優秀な遺伝子をすべて使い切ってしまったようで。 私、佐藤琴莉(ことり)はそこらへんに石を投げれば当たるようなレベルのいたってフツーの女の子。 もうッ!お兄ちゃんッ、隙だらけで危ないよ!無駄な恋愛フラグ、私がすべてへし折ってみせるから。 ……そう思っていたのに。 ……え?うそでしょ?お父さんとお母さんが子連れ同士の事実婚で婚姻届も出してない、なんて。 それって私とお兄ちゃんが、赤の他人って事!!?? 私と結婚したいって、お兄ちゃん、冗談でしょう!?!?!? しかも流行り(?)の契約婚!?

sinful relations

雛瀬智美
恋愛
「もう会うこともないだろうが……気をつけろよ」 彼女は少し笑いながら、こくりと頷いた。 それから一緒に眠りに落ち、目覚めたのは夜が明けた頃。  年上男性×年下少女の重ねる甘く危険な罪。すれ違いじれじれからハッピー甘々な展開になります。 階段から落ちたOLと医師のラブストーリー。

【R-18】残業後の上司が甘すぎて困る

熊野
恋愛
マイペースでつかみどころのない上司とその部下の話。【R18】

【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。 しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。 そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。 渋々といった風に了承した杏珠。 そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。 挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。 しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。 後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)

快楽のエチュード〜父娘〜

狭山雪菜
恋愛
眞下未映子は、実家で暮らす社会人だ。週に一度、ストレスがピークになると、夜中にヘッドフォンをつけて、AV鑑賞をしていたが、ある時誰かに見られているのに気がついてしまい…… 父娘の禁断の関係を描いてますので、苦手な方はご注意ください。 月に一度の更新頻度です。基本的にはエッチしかしてないです。 こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。

俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる

春宮ともみ
恋愛
旧題:愛と快楽に溺れて ◆第14回恋愛小説大賞【奨励賞】受賞いたしました  応援頂き本当にありがとうございました*_ _) --- 私たちの始まりは傷の舐めあいだった。 結婚直前の彼女にフラれた男と、プロポーズ直前の彼氏に裏切られた女。 どちらからとなく惹かれあい、傷を舐めあうように時間を共にした。 …………はずだったのに、いつの間にか搦めとられて身動きが出来なくなっていた。 肉食ワイルド系ドS男子に身も心も溶かされてじりじりと溺愛されていく、濃厚な執着愛のお話。 --- 元婚約者に全てを砕かれた男と 元彼氏に"不感症"と言われ捨てられた女が紡ぐ、 トラウマ持ちふたりの時々シリアスじれじれ溺愛ストーリー。 --- *印=R18 ※印=流血表現含む暴力的・残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。 ◎タイトル番号の横にサブタイトルがあるものは他キャラ目線のお話です。 ◎恋愛や人間関係に傷ついた登場人物ばかりでシリアスで重たいシーン多め。腹黒や悪役もいますが全ての登場人物が物語を経て成長していきます。 ◎(微量)ざまぁ&スカッと・(一部のみ)下品な表現・(一部のみ)無理矢理の描写あり。稀に予告無く入ります。苦手な方は気をつけて読み進めて頂けたら幸いです。 ◎作中に出てくる企業、情報、登場人物が持つ知識等は創作上のフィクションです。 ◆20/5/15〜(基本)毎日更新にて連載、20/12/26本編完結しました。  処女作でしたが長い間お付き合い頂きありがとうございました。 ▼ 作中に登場するとあるキャラクターが紡ぐ恋物語の顛末  →12/27完結済 https://www.alphapolis.co.jp/novel/641789619/770393183 (本編中盤の『挿話 Our if story.』まで読まれてから、こちらを読み進めていただけると理解が深まるかと思います)

処理中です...