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予期せぬ出来事とほころび
#18
しおりを挟む結局、私の小さい頃の写真をどうしても見たいという物好きな要さんと一緒に、箱の中を見ることになった。
ホテルの部屋に置かれたソファに二人で並んで座り、私の膝上でたった今、箱を開けたところ。
隣からフライング気味に、私の隙をついてなんとか写真をとろうと手を伸ばしてきた要さん。
速く見たいという要さんの気持ちは分からないでもないんだけれど……。
こっちだって、一体どんな写真が入っているのか気が気じゃないから、要さんの魔の手から写真を守ろうと、必死に阻止しようとする私。
「あっ、ちょっと待ってくださいっ!小さい頃の写真なんて、どんな写真撮られてるかなんて自分でも覚えてないんですから、恥ずかしいんです!先に私が見てからにしてくださいっ!」
「分かった分かった」
「……じゃぁ、この手はなんなんですか!?」
「なんでもない。気にするな」
「気になりますっ!」
「チッ、写真ぐらい……」
「あぁっ、今舌打ちした!もう見せませんっ!」
「……悪かった。ごめん」
「じゃぁ、向こう見ててくださいね?」
「……あぁ」
……とまぁ、そんなこんなで。
要さんと私は、しばらくの間、小学生の子供のような幼稚で低レベルな攻防戦を繰り広げていたのだけれど。
謝ってきた要さんに"待て"を言い渡した私が、ざっと箱の中身を確認したところ、特に恥ずかしい写真はなさそうだったことに、ようやくホッと胸を撫で下ろしたのだった。
そんな私の隣では、念願だった私の子供の頃の写真を手にした要さんが、二十枚ほどの写真を一枚一枚じっくりと吟味するようにして眺め始めた。
写っているのは自分だけじゃなく当然家族もだから、懐かしくて、一緒に見たい気もするんだけど……。
要さんと一緒に自分の写真を見るとなると、それがなんだか気恥ずかしくて、むず痒いような妙な感覚がして、とてもじゃないけど一緒になんて見ていられなくて。
「美菜は見ないのか?」
「……あぁ、はい。……私は、他に何が入ってるか見たいので……」
当然一緒に見るのだろうと思ってた様子の要さんに無難な返事を返しながら、私は、要さんから膝上の箱の中へと意識を集中するべく、ゆっくりと視線を落とした。
するとそこには、昔と同じで、保険証やら通帳やらの類いが入っていて、
『あー、お祖母ちゃんの四次元ボックスだ!』
嬉しくなった私は、お祖母ちゃんの面影を探して、箱の中のものをひとつひとつ手にとり、眺めては、目の前のテーブルの上にそうっと慎重に並べていくという作業を繰り返していた。
中には、色褪《いろあ》せたただの紙切れのようなものがあったり、レシートのようなものや、友人からの手紙らしきもの、小さい頃に私があげた『肩たたき券』なんかもあった。
『こんなものまで』とは思いながらも、ずっと大事にしてくれてたんだと思うと、無性に嬉しくなって、頬が緩んだ。
その中にひとつだけ、他のものと比べてまだ新しそうな淡い桜色の綺麗な封筒が入っていて、キチンと封までされていて。
表には、『綾瀬美菜様へ』と達筆な字で宛名まで書かれている。
その字は、確かに見覚えのあるお祖母ちゃんのもので、どうやら手紙のようだけれど……。
『改まって"様"なんて書いたりして、なんだろう?』
私は、不思議に思いつつも、その封筒を破いてしまわないように丁寧に開封すると、中に入っていた封筒と同じく淡い桜色の三枚の便箋を取り出して、そこに綴られた文字へと視線を巡らせた。
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