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忘れられない特別な夜
#19
しおりを挟むただただ驚きすぎて、動くことも、声を発することも、できなかっただけで。
確かに、そんなこと、今まで一度も考えたことなかった。
ただこうやって、要さんの傍にずっと居られたら幸せだろうなって、夢見てただけで。
だって、まさか"初デート"で"プロポーズ"なんてしてもらえるなんて思ってもなかったんだもん。
だから、ただただプロポーズしてもらえたことが嬉しくて、そんな未来を思い描くようなところまでいけてなかっただけで。
要さんが、あんなに楽しそうに、私との未来まで思い描いてくれたことが、ただただ嬉しくて、もう嬉しすぎて……。
だから、『自分勝手』だなんて思う筈も、ましてや『困る』筈もないのに。
でも、そんな風に言うってことは、それだけ要さんが私のことを想ってくれてるってことでもあるから、それはそれで嬉しいんだけれど。
要さんには、そんなことで不安になってほしくない。
私の所為でシュンとさせてしまった要さんの誤解を、一刻も速く解いて、私の気持ちを伝えておきたい。
そう思った私は、勢いに任せてガバッと要さんの肩を掴んで、揺すりながら、
「こっ、困ったりなんかしませんっ! た、ただ、要さんに結婚したいって言ってもらえたのが嬉しくて、感動しちゃってて。もう、それだけで、舞い上がちゃってて。
他のこと考えてる余裕がなくて、子供のことまで考えたことなかっただけです。
でも、私も、要さんとの子供、欲しいです。要さんが今すぐって言うなら、私も! 私も今すぐ欲しい!」
興奮ぎみに、捲し立てるようにそう言って、要さんにグイと迫ってて。
そしたら、要さんのフッと軽く吹き出すような声が返ってきて、そうかと思えば、
「そんなに俺を甘やかしたら、ますます図に上るぞ?
でも、やっぱり、まだ、美菜との時間を大事にしたいし。
……それに、このままだと、俺、子供にまで嫉妬しかねないからな」
に、続けて最後には、
「だから、しばらくは、美菜を独り占めしておくことにする」
なんて、冷静にそんなことを言われてしまい。
……私をその気にさせておいて、今さらそんなのズルい!
そう思ってしまった私は、
「もう、ズルいっ! 私のことをその気にさせておいて、今さらそんなこと言うなんて……。
それに、今日は、初デートで、プロポーズしてもらった特別な日でもあるし。
今日は、誰にも、何にも、邪魔されたくないって。一分でも、一秒でも速く、要さんとくっついていたいって、思ってたから。
……だから余計に、……嬉しかったのに。……今さら、そんな……」
要さんのことをジトって睨みながら、興奮ぎみに、思ったままをそのまま口に出していて。
最後の方には、イジイジといじけた言い方になってしまっていた。
一方の要さんは、そんな私の背中を宥めるように優しく撫でつつ、あのとびきりの優しい微笑みを浮かべて眩しそうに見つめながら、
「ごめん。分かった、分かった。
じゃぁ……特別な日である今夜は、美菜のご期待に応えて、ありのままの俺を受け入れてもらうから、覚悟はいいか?」
なんて、これまた、とびきり優しい甘い声で囁かれてしまった私は、
「もうとっくにできてます」
そう言って、要さんの首にぎゅーっと抱きついた。
結局私は、何枚も上手の要さんの掌でいいように転がされることになってしまうのだった。
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